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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

1700文字で完結・悪魔という病気

作者: 鳳仙花

俺が知る限り、『それ』はいきなり現れた。

世の人々だか偉い人は『それ』を悪魔と呼称していたが、俺からしたら『それ』は悪魔というより人間の本質であり変化だと捉えていた。


「日々、悪魔病の感染者が爆発的に増加し…」


「身の回りの安全を……、集団で暴行を…」


「しかし暴動とは逆に、個々が秩序保全のために活動を始めて厳格な自警団が設立…」


日夜、悪魔病についてのニュースが地上波やネットで流れ続けている。

悪魔病は一種の感染病として発表され、発症者は悪魔的行動……いわゆる反社会的に値する行動を積極的に取ってしまうというもの。

そして脳による制御が完全に外れてしまう事で三大欲求が極限に増し、それに伴ってなのか発症前と比べて五感が非常に優れ、繊細かつ敏感になるそうだ。


唯一幸いなのは合併症の類が無いことだが、感覚の冴えと本能的な衝動によって個人の(こだわ)りが強くなるらしい。

また、小さなストレスが増幅して感じるようになって些細な事すら我慢できなくなるとも。


「綺麗にしないと」


アパートで独り暮らしの俺は呟く。

普段過ごす部屋も気になるが、特に水周りが気になってしまう。

元々は埃の塊があったら一部だけ掃除を始める程度の雑な性格だったのに、今は完璧に綺麗にしないと落ち着かない。

それどころか、これから埃が溜まると考えただけで鮮烈な苛立ちを覚えてしまう。


「はぁ……いよいよ俺もか…」


空気感染か何なのか分からないが、悪魔病に感染している自覚はあった。

ただいつ発症するのか不明だっただけで、きっと今頃になって発症したのだろうと俺は思った。

ちなみに職場だとか友人は数年前から発症しており、連絡を取るときはネット経由だ。

そう距離を取っておかないと殴り合いが勃発してしまう。

おかしな話だ。

感染を避けるためじゃなく、お互い発症による弊害を抑えるために距離を取らないといけないなんて。

普通の病気なら感染対策をした上で、看護する誰かが居るべきだろうに。


「なぁなぁ、いつ性交するんだ?あぁそれに腹が満たされて無いなぁ。それとも先に寝てから行動するか」


「今は…別に性欲は湧かない。空腹じゃないから食べない。眠くも無いから適当に過ごす」


「欲求不満じゃないのかよ?」


「悪いが、俺は衝動的になれない。小心者だからな」


俺は、俺に囁く者に対して否定的な言葉で答えた。

そいつは姿形を持たない悪魔。

そして俺の中に潜む悪魔に過ぎず、幻覚か幻想に過ぎない。

おそらく悪魔病を患った者は、自分自身にそそのかされてしまうのだろう。

本能が生み出した自分という存在は、自分を全肯定してくれる。

だから本能的になる事に歯止めが効かない。

要は正常で人間らしい人物こそ本能で活動しやすくなる傾向へ陥るわけだが、残念なことに俺はそうじゃないらしい。


「どうやら俺は恐怖を覚えやすい体質みたいだ。なのに、他の人は恐怖すら感じなくなっているように思える。人によっては死すら怖くないらしい」


「どうだかな?」


「……あと俺はどこまでも自信が無いらしいな。自らを肯定してくれるはずの幻影が疑問形をぶつけてくる」


「あのな、そういう(わずら)わしい事は大切なことなのか?一番人生で大事なのは、どれだけ楽しんだのかだろ?その楽しんだ質と量で人生の豊かさが決まるぜ」


「そうだな。全ての物事が極端な世界になった今、それは覆りようのない正論だ。まして今や前のような世界を望んでいる者だって少ない」


人間の理性を奪い、極端な行動へ走らせる悪魔病は恐ろしい。

しかし、もはや恐ろしいと思われたのは昔の事になると俺は確信している。

今では全人類が患っており、悪魔病との共生どころか、人間とはそういう生き物だという認識で生きるしかない。

いわば遺伝子に新しく刻み込まれた人間の特徴で、時代に合わせた変化のようなもの。

そして個々の行動が色濃く表面化しやすくなっただけ。

そう思えば元の世界から何も変わらない。

誰もが今に合わせた生き方をするだけだ。


「あー……今日もミサイルが飛んでやがる」


こんな小心者な俺でも生存本能は人並みにある。

だから願わくば、余計な危害は振り撒かないで欲しい。

そんな自分勝手な平和を望みながら、俺は血だらけの台所へ視線を向けた。



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