第5話 心の傷
「高宮くんは紅茶は大丈夫?」
そんなことを風早先輩に聞かれたので答える。
「はい。大丈夫です」
「よかった。少し待ってて」
風早先輩は立ち上がって、何か準備を始めた。
どうやら紅茶を入れているようだ。
少し待っていると、風早先輩はティーポットと人数分のティーカップを持ってきた。
先輩は部員全員に紅茶を配り終えると、話し始めた。
「高宮くんが入部してくれた訳だけど、まずはこの部について話しておきます」
そういって、風早先輩は話を進める。
「まず、この部活は生徒の相談を受け付けています。部の活動時間であれば、自由に相談可能なので、来客があった場合は丁寧に対応してください。また、ボランティア活動などを定期的に行っています。これについては予定が決まり次第お伝えします。ここまでで質問はありますか?」
生徒相談か。
少し気になったので聞いてみる。
「生徒の相談っていうのは、スクールカウンセラーとは違うんですか。あと、相談は誰が対応するんですか?」
「ここでの相談は、スクールカウンセラーによるカウンセリングの簡易版のようなものです。カウンセラーは敷居が高い生徒がまずここを入り口にすることもあり、スクールカウンセラーに繋げる場合もあります。対応は部員全員が行いますが、高宮くんは初めは見学で良いですよ」
「わかりました。大丈夫です」
確かにカウンセリングルームが敷居が高いのはわかる気もする。
風早先輩は話を続ける。
「それじゃ、次は部員ごとに気を付けて欲しいことを伝えていきましょうか。私の場合は、突然過呼吸を起こしたりすることがあるけど、時間が経てば落ち着くから心配しないで欲しいってことかな。次は、優羽お願い」
話を振られた神津さんが話始める。
「私の場合は、男性恐怖症があるってこと。男の人と話す分には問題ないけど、触れられるのが怖いから、触らないでくれると助かる。あと、トラウマがあって電車には乗れない。それくらいかな。次、愛莉の番」
星乃さんが手元のホワイトボードに書き込んだ後に見せてくれる。
(私は場面緘黙症のため、人と話すことができません。あと、いじめを受けてた影響で、今は保健室登校です。次、如月お願い)
次に如月さんが話始める。
「男扱いされるのがあんまり好きじゃないです。名字で呼んでもらえると嬉しいです。星乃さんと同じでいじめられてました。今は保健室登校です」
確かにみんな問題を抱えてるというのが分かった。
自分で告白できるのはすごいなと感心もしていた。
如月さんが話し終えると、風早先輩が話を引き継ぐ。
「みんなありがとう。高宮くんは何か伝えておきたいことはある?」
伝えておきたいこと、ね。
あまり思い浮かばないけど、一応話しておくか。
そういって話を切り出す。
「前は父から虐待を受けていて、今は両親は離婚して、母と暮らしてる。虐待の影響かわからないけど、人と関わるのが得意じゃない。話しかけて貰えると助かる。それくらいかな」
人に虐待のことや、離婚のことを話したのは、ここが初めてな気がする。
引かれるのが怖かったのだろうか。
風早先輩はそんな俺の様子を見つめながら、話を引き取った。
「高宮くん、話してくれてありがとう。何か質問はある?」
一つ気になったことを聞いてみる。
「俺は男だけど、神津さんは大丈夫なの?」
神津さんはすぐに答えてくれた。
「話す分には大丈夫だから気にしないで。ただ、触れられるのはまだ怖いから、気を付けてくれると助かる」
「わかった、気を付けるよ。風早先輩、あとは大丈夫です」
そう風早先輩に話しかけると、先輩は話を締めにかかった。
「今日はこのくらいにしておきましょう。これからみんなよろしく」
そんな風早先輩の言葉に皆うなずいた。