第1話 出会い
春。それは始まりの季節。
桜が舞い散り、人々に始まりを感じさせる。
これは、そんな日の始まりのお話。
「迷った」
住宅街で道の真ん中でひとりごちる。
今日は俺が入学する高校の入学式の日。
高校の最寄り駅で降りた後、学校に向かったつもりだったが、迷ったようだった。
運の悪いことに今日はスマホを家に忘れてしまっていた。
仕方ないので来た道を戻ろうとした、そんな時だった。
「あなた、新入生?」
後ろからかけられた声に気づいて振り向く。
長い黒髪と凛とした顔つき。それが彼女の第一印象だった。
俺と同じ制服を着ている。上級生だろうか。
彼女に答える。
「はい。そうです」
「もしかして道に迷った?」
「そうなんです。スマホも忘れてしまって」
「それは災難だったね。それなら私と一緒に行きましょ」
初めて会った彼女と並んで歩く。
すると、彼女は俺に話しかけてきた。
「私は風早 紗菜。桜河原中学・高等学校の高等部2年。あなたは?」
「俺は高宮 敦樹。桜河原の高等部に今日入学する1年です」
「それなら私の後輩だね。よろしく、高宮くん」
「よろしくお願いします。風早先輩」
スマホを忘れて道に迷うなんて運が悪いと思っていたが、美人の先輩と知り合えたなら運が良かったな、などと考えていた。
「高宮くんはどうして桜河原に?」
彼女に尋ねられる。
少し考えてから答える。
「通える範囲の距離にあって、そこそこのレベルの高校で、合格したからですかね」
「なるほどね。私の場合は入学したのは中等部だったけど、ここに決めたのは親だったかな」
「うちの場合は基本放任なので。俺が適当に探して決めました」
「自分で決めたのなら良いことだと思うよ。誰かに決められるよりね」
そう答える風早先輩の顔は少し暗いように見えた。
俺は話題を変えようと話しかける。
「そういえば、風早先輩は何部なんですか?」
「何部だと思う?」
俺のことを見つめながら、試すようなことを聞いてくる。
この人は運動するタイプには見えないな。
「文化部」
「当たり。けど、それだと広すぎだよ。もっと具体的に」
拗ねたような顔をする先輩。
当てるなんて無理でしょ。この人のことまだ何も知らないし。
強いて言うのなら、理系というより文系な感じがする。
…わからん。適当に答えるか。
「文芸部」
「外れ。だけど、どうしてそう答えたのかには興味ある。理由を聞いてもいい?」
「風早先輩は運動ができるようには見えないから文化部ではないかと考えました。あと、本が好きそうな印象を受けたので文芸部ではないかなと」
「すごいね、君。確かに私は運動は苦手だし、本は好きで、部活中も読んでる」
「結局、先輩は何部なんですか?」
風早先輩は少し先のほうに駆けて、振り返って答えた。
「福祉部だよ」
後になって振り返ると、これが俺の高校時代を決めた瞬間だった。