料理しました。
「さて、念願の初クッキング!」
栞は町の隅っこ、人があまり通らない場所にあるレンタルキッチンを借りた。
ナビフォンの案内だと、カセットコンロというアイテムを使わない場合町のキッチンをレンタルすることで料理が可能になるという。
もちろんそんな物持っていなかったので、おばあちゃんから貰ったゴールドを払ってフライパンを温めた。
「なになに、レシピは……」
貰ったレシピには見たことのある素材ばかりが書かれている。
どれも雑草とか適当な花とかを伐採していた時に入手しており、必要数も足りていた。
【調理師レシピ:初級Lv1】
【リーフスープ】
薬草(3)(25)
【スイートリーフ】
薬草(5)(25)
花の蜜(1)(12)
【皮団子】
ラットの皮(4)(43)
花の蜜(1)(12)
「うんうん、とりあえず全部作ろう」
深くは考えずにフライパンに材料を投入する。
適当にさささっと振っていると、中の具材がレシピ通りの料理に変化していく。
「現実もこうだったらいいのに」
ぽつりと愚痴を漏らす。
出来た料理は備え付けの皿に盛り付けて、残りの品も作っていく。
料理は失敗することもあるらしいが、【美植家】のおかげで皮団子以外は問題なかった。
そう、皮団子以外は……。
「……あちゃあ」
料理が終わってフライパンを仕舞い、並べられた料理を見る。
スープやなんか甘そうな葉っぱはよく出来ているのだが、皮団子はなんとも言えない出来に仕上がっていた。
とはいえ、このレベルのレシピに対して栞のDEXは足りているはずだった。
つまりラットの皮団子自体がイマイチな料理であったといえよう。
処理に困ったが、一応バッグへ仕舞っておく。
スープと葉っぱだけは食べてしまう事にした。
これもアイテムとして詳細が見れるので、まず確認する。
【リーフスープLv2】
HPを75回復する。
【スイートリーフLv2】
MPを40回復する。
【高揚】が発動する。
30秒間AGIが10上昇する。
【皮団子】
10秒間STRが10上昇する。
皮団子は効果自体は魅力的だったがそれでも躊躇する。
栞は無視を決め込んで2つの料理を口に運んだ。
まずは葉っぱを。
焼いてカリカリになった葉っぱに蜜を挟んだものだ。
口に運ぶと、胸焼けするような甘さが広がる。
「みぃ……」
よく分からない鳴き声が漏れた。
決して不味くはないが口に運びにくいなあと思いながら、次はスープを手に取る。
こちらは青々としているが、【美植家】のおかげでランクが上がっているからだろうか。
あまり不味そうなイメージは湧かない。
こくり、と喉に一口流す。
「う……ん。普通、かな」
青汁に牛乳を入れて飲んだ時のような味がした。
スイートリーフみたいな極端な味のものよりはとっつきやすいかもしれない。
さて、余った料理をアイテムとして鞄に仕舞うとまたもや通知が鳴っていることに気付く。
確認すると、次のようなログが流れた。
レベルが上がりました。
【調理師Lv3】
スキルを獲得しました。
【草食Lv1】
植物アイテムの効果がLv%上昇する。
食用ではない生の植物を食べる事が出来る。
レベルはともかくとして、新しいスキルを獲得できたことに栞は満足した。
これなら決して美味しくはない料理を食べてみただけある。
でも、食用ではない生の植物ってどういうことだろう?
薬草は……食用で、そのまま誰でも食べることが出来るし……と考え込む。
「む」
そんな時、向かいの防具屋にインテリアとして置いてある観葉植物が目に入った。
「……いけちゃう?」
栞はキッチンを片付けると、きょろきょろと周りに誰もいない事を確認しながら防具屋へと歩く。
うん、大丈夫、今はチャンス。
何事も挑戦だよね。
なんて言い訳を心で重ねながら恐る恐るその葉へと口を伸ばし……。
がりっ。
「ん、意外といけるかも?」
なんと意外な事に食べやすい。
ほのかな甘みと苦み、なんだかキャベツを思わせるなあなんて考えながら夢中になる。
両手を使ってはむはむと、しばらく食べ続けるのであった。
「……」
それを防具屋から出てきた一人の竜騎士は見ていた。
【OSO】店の前の植物食ってるやつがいたんだが
1:駆け出しの名無し
オーシャン港で防具屋の観葉植物食ってる奴見たんだよ
あれ食えるの?
2:駆け出しの名無し
は?
3:駆け出しの名無し
ちょっと何言ってるか分からないです
4:駆け出しの名無し
おいしいですよね カブトムシ
5:駆け出しの名無し
kwsk
6:駆け出しの名無し
そのまんまだ
この前フライパン食われてた例の女の子だった
7:駆け出しの名無し
フライパン食われるって何だよ
8:駆け出しの名無し
草
9:駆け出しの名無し
かわいそう
10:駆け出しの名無し
生産疑惑の子か
実際どうだったん
11:駆け出しの名無し
装備仕舞ってたから分からんが甘い香りがしたな 料理してたんじゃないか
12:駆け出しの名無し
生産は森で死んで萎え落ちするものなので港にいない
13:駆け出しの名無し
生産が港にいるわけないだろ!
14:駆け出しの名無し
NPCかな
15:駆け出しの名無し
でも観葉植物食べる女の子はかわいそうでかわいい
16:駆け出しの名無し
保護したい
17:駆け出しの名無し
仮にまぐれで港まで行けた生産だとしたらおもしろいな
かわいそうだから俺も見かけたらなんかやるか
18:駆け出しの名無し
甘やかしてしまいそう
また見知らぬ人に噂される栞だった。