レア装備でした。
翌日になり用事を済ませると、栞は再びOSOの世界へと意識を潜らせた。
森の中で目を覚まし大きく伸びをする。
「よーし、今日もがんばろー!」
と、そこでナビフォンの通知が来ていることに気付く。
なんだろうと確認する。
「ん? 『レア装備を入手しました』?」
レアは装備のレアリティであり、通常のコモン・アンコモンに続く珍しいものだ。
栞の草刈鎌や錆びたフライパンはコモンランク。
ところで、なぜ自分がそんなものを持っているのか思い返す。
思い当たるのは、昨日の大きな花だろうか。
運良く一撃で倒せてしまったので実感は湧かなかったが、本来はネズミより強いらしいのは知っている。
何にせよ、アイテム欄の中で青く光り輝くそのアイコンは栞の心をわくわくさせた。
急いで装備を確認。
【レアシードリング】
【VIT +25】
【AGI +25】
【怪花の種】
攻撃時に与えたダメージ1/10体力を吸収する。
「ええ!? これすっごく強いんじゃない?」
体力の吸収効果より、ステータスの上昇量を見て栞は歓喜した。
職業上なのかただでさえ低かったステータスを大きく補ってくれる。
これがあればもう少し強いモンスターを相手に出来るんじゃないのかと、意気揚々と装備した。
「さて、あとはフライパンの修理……あれ?」
昨日と同じ要領で修理しようとフライパンに触れると、ナビフォンが振動し一つのアイテムが飛び出てくる。
それは光り輝く石で、どうやらこちらも昨日の戦闘で拾ったらしい。
画面を見ると修理の際に特別素材として使えると表示されていた。
「よくわかんないけど……あれはまた見たら倒せばいいし、使っちゃお!」
躊躇なく石に触れる。
すると栞の手は虹色に輝き、フライパンに触れることで大きな音を森へ響かせた。
「うっさ!」
思わず耳を塞いでしまったが、何やら大成功したらしい。
詳細を確認すると以下のように表示された。
【美植家のフライパン】
【VIT +40】
【DEX +50】
【美植家】
植物素材を使用した料理が必ず成功する。
【植物の心得】
植物素材を使用した料理のランクが1上昇する。
「ほわぁ……?」
指輪以上に高くなった数値と、なんだかそれっぽいスキルに感動して声が出ない。
あのぼろぼろだったフライパンちゃんが成長したのかと思うと、たまらなく愛おしくなる。
「フライパンちゃんっ」
そうして、しばらくの間頬ずりを繰り返すのだった。
装備を変更した栞は森を進み、何やらお洒落な港町までやって来ていた。
前の森の町とは違い、そこには様々なプレイヤーが存在している。
初心者が多いらしく栞と服装が似たり寄ったりではあった。
「さて、と」
港町に来たのには目的がある。
せっかくフライパンがおもしろそうなスキルを持ってきてくれたし、生産職らしく料理をしてみようと考えたのだ。
ナビフォンで確認したところ、一番近くのこの港町でレシピが貰えるとのことだった。
マップを確認しながら町を歩いて、目的の場所に到着。
そこには妙齢のおばあちゃんNPCが立っていた。
どうやらクエストを受けなくてはいけないらしい。
「レシピが欲しいのかい? それにはラットの前歯が20個必要さ。
狩りは難しいだろうから素材屋のところにお使いを頼まれてくれるかい?」
「はいこれ!」
おばあちゃんからお使い用のお金を受け取ると、その場ですぐに素材を渡す。
栞の鞄には既にその倍くらいの前歯が眠っており、おばあちゃんは目を白黒させた。
「……は、はい確かにね。どうぞ」
「ありがとーおばあちゃん!」
思ったより簡単だったと鼻歌交じりに遠ざかる栞の後ろ姿を、周囲にいた冒険者たちが不思議そうに見送る。
ラットの前歯を大量に携えた少女がフライパンを握りしめていたことに、誰もが驚きを隠せなかった。