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初勝利できました。

「うんしょ、こいしょ……なんか地味だなぁ」


 それから一時間。

 ナビフォンに写し出された指示通りにフィールドにある刈れそうな草とか花を、モンスターを避けつつ適当に刈っていると再び通知音が鳴った。

 画面に次の文字が写し出されている。


 レベルが上がりました。

 【園芸師Lv2】


 スキルを獲得しました。

 【スニークLv1】

 【初級伐採Lv1】


 スキルのレベルが上がりました。

 【修理Lv2】

 

【スニークLv1】

 自分のLv+1以下のモンスターから見つからない。攻撃を行うと解除。

【初級伐採Lv1】

 採取する植物素材の価値ランクが上がる。稀に貴重品を入手する。

【修理Lv2】

 Lv5以下のアイテムを修理する。アイテムによって必要素材が異なる。稀に装備品の価値を上げる。


「おっ、よく分からないけど強くなった?」


 一気にいくつも入ってきた通知に、栞は目を輝かせた。

 ただ草とか刈ってただけなんだけどなぁと少し不思議がったが、これには栞の行動も関係している。

 スニークは生産職ロールの状態で一定時間モンスターの縄張りで見つからないこと。

 初級伐採は園芸師のレベルアップスキル。

 修理はよく壊れる草刈鎌を何回か修理することによって成長したのだ。


 試しにスニークを使用する。

 ぷしゅん、と気の抜けた音と共に栞の身体が半透明になった。


「わあ、おもしろい!」


 透ける自信の身体を眺めながら、栞はきゃっきゃとはしゃいだ。

 そして次に、レベルアップと同時に壊れてしまった草刈鎌を修理する。

 必要素材は【MP10】と少し重いが自然回復するので気にしない。


 手を触れた途端に、いつもとは違うパキン、と乾いた音が鳴り響いた。

 どうやらランクが上がったらしい。

 修理された草刈鎌は錆が残っておらず、新品同様の状態で現れた。

 さっそく装備する。


【初級草刈鎌】

【STR 0+10】

【DEX 10+10】

【伐採の心得Lv1】

 自身のLv以下の植物を一撃で刈り取る事がある(最大5)。


「これは!」


 栞は驚いた。またSTRが上がっていたのだ。

 なんかよく分からないけどスキルまで付いていてラッキーだ、と。


 実際にそれはとても運のいい事だった。

 生産者はそもそも引く人間が少なく、栞のように一時間草刈をひたすらしないと伐採だけではレベルを上げることが出来ない。

 戦闘職がモンスターを狩ってバンバンレベルを上げてるのに対し、いつまでも草刈りでレベル1というのは多くのプレイヤーにとって苦痛だ。

 それはこのスタートダッシュの時期に大幅に出遅れるように見える。


 そのため生産者でプレイしてみた物好きなプレイヤーは全員数分で見切りを付けていた。

 こんな簡易的なスキルでも、なんと栞は唯一の所持者となってしまったのである。


「よし、これなら」


 きらりと刃の光る草刈鎌と透ける自身の身体を見て、栞はあることを思い付く。

 さっきのラットにもう一度挑戦しよう、という魂胆だった。

 手頃なのを見つけて、そろっと背後に駆け寄る。

 目の前にお尻があるというのに全く気付いていない。栞は鎌を振り下した。


「ぎにょ!」

「まだまだだよ!」


 ザクザクとネズミの身体を切り裂いていく。

 鎌でネズミを襲うという、女子高生にあるまじき行動だがそんなことは気にしなかった。


 先に背後から深手を負わされたネズミは動きが鈍くなり、錆びたフライパンでも攻撃を充分に防げる。

 錆の抜けた草刈鎌はしばらく折れる心配もない。

 ほぼ一方的に鎌を振り続けると、ラットは呻き声を上げて消滅した。

 後には前歯らしきものが残る。


「やった、勝った! 倒せるじゃん!」


 かくして、栞は生産職史上初のモンスター狩猟を成し遂げた。

 前歯を拾うと、自然とナビフォンに吸収されアイテムとして保管される。

 気を良くした栞は、同じ手口で更に周囲のラットたちを襲った。

 やがて鳴り響く通知音。


 レベルが上がりました。

 【園芸師Lv3】


 スキルを獲得しました。

 【肉刈鎌】

 鎌で肉などを切り裂きやすくなる。 


「うんうん、これ、全然いけるね!」


 画面を確認しながら、栞は満足そうに頷く。

 周囲は地獄絵図だが。

 とりあえず周囲に散らばったドロップアイテムを回収しよう、と。

 それの一つに手を伸ばした時、近くの地面がもこもこと盛り上がって背丈くらいまである大きな蕾を付けた植物が現れた。


「うわ、なにこれ!」


 植物はモンスターの一種で、コモンプラントという。

 ラットがレベル1であるのに対して、こちらのレベルは3と初心者にとって脅威となるモンスターだ。

 栞が驚いて手を引っ込めると、植物は蕾を上下に大きく口のように開き、ドロップアイテムである前歯や皮を呑み込んで行った。

 慌てて止めに入る。


「ちょっと、なにするの!」


 しかしそれは無謀な挑戦だった。

 DPS職ですら高攻撃力高耐久の同レベルモンスターはかなり厳しい戦闘となる。

 コモンプラントはその条件を満たしており、初心者なら少なくとも同レベル2人以上のパーティを組むことを狙って実装されたモンスターだ。

 そういった通常より強力なモンスターは【コモン】などの等級が付けられている。

 一人、それも生産職の栞は一撃貰うだけで戦闘不能となるだろう。


 ラットとは訳が違い通常攻撃では歯が立たない。

 コモンプラントはそんな栞を見てにやりと蕾を歪めると、大きく開いて呑み込もうとする。

 フライパンで防御を取ったが、一撃で大事な部分が食されてしまった。


「あ……この!」


 またしても悲劇に呑まれたフライパンに、栞は少し怒った。

 今度こそ自分の身体を呑み込まんと襲い掛かってくる蕾に向かって、思い切り鎌を振る。

 そして2つが接触した時――音を立てて崩れたのは、コモンプラントの方だった。


「ギャ……」


 信じられないといった断末魔を残し、コモンプラントは静かに消えていく。

 【伐採の心得】の発動。

 稀に植物を一撃で刈り取るとされる草刈鎌のスキルがコモンプラントを引き裂いたのだった。


「あれ、大したことない?」


 まさかモンスターに有効だとは思わなかった栞は、小首を傾げる。

 それはそうと通知音がうるさいなと思いながら、改めてステータスを確認した。



【シオリ】

【調理師Lv1】

【園芸師Lv4】

 HP 72/72

 MP 24/24


【STR 0+10】

【DEX 10+10】

【AGI 0+7】

【VIT 10+7】

【INT 0】


 装備

 頭 【無し】

 体 【フレンドシャツ】

 右手 【壊れたフライパン】

 左手 【初級草刈鎌】

 脚 【フレンドスカート】

 靴 【無し】

 装飾品 【無し】


 スキル

【逃走Lv1】【修理Lv2】【スニークLv1】【初級伐採Lv3】【肉刈鎌】【鎌の勇者】【伐採の心得Lv1】


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