ワカメキング戦です。2
ワカメキングの攻撃は単調だった。
大きく伸びる二本の触手を順番に振るい、的確に栞を狙う。
しかしアイテムを使った修理によりレアリティの上がったフライパンは、その攻撃を防ぐのに十分な耐久を有していた。
「ええい!」
そして【伐採】による攻撃は、ステータスのDEX補正もありワカメキングにダメージを与えるには充分。
触手を弾き、お返しに鎌で切りつける攻防が続けられる。
しかしワカメキングもただのモブではない。
一定量のダメージを受けると、今度は触手を引っ込めて地面から無数のワカメを出現させる。
「え、なにこれ!?」
突然の行動パターンの変化に追いつけず、栞は体勢を崩してしまう。
そこへワカメが数本身体に絡まり付き、手足が思うように動かせなくなる。
【バインド】と呼ばれる状態異常攻撃だ。
さらに時間をかけてワカメは栞の身体を這うように行き来し、ゆっくりと締め付ける攻撃を行う。
「んーっ……」
幸い体力は装備のお陰で、同じレベル帯の戦闘職と遜色ない。即死こそしないものの、何の抵抗も許されないままゆっくりと意識が奪われていく。
本来この攻撃は振りほどくか、パーティの仲間にワカメを切ってもらうしか脱出方法が無い。
後者は不可能、前者はSTRが不足しているため栞の力ではギリギリ抑え込まれてしまう。
圧倒的なピンチだった。
「どう、にか、んっ……しないとっ……」
薄れゆく意識の中で、あることを思い付く。
ナビフォンに入った料理の存在。
スープが飲めれば体力を回復できるし、何より皮団子を食べれば足りないSTRを補うことが出来る。
「呼び出しっ! 【リーフスープ】【皮団子】!」
ナビフォンの機能・呼び出し。戦闘中にアイテムを使用するときなど、一々端末を触れない時に使われる。
振りほどけはしないものの、ありったけの力を振り絞ってなんとかそれを口に押し込む。
皮団子の味は想像もしたくなかったのでスープで流し込んだ。
「よしっ! いけそう!」
上昇したSTRは他の能力アップ効果と合わさり、ワカメキングのバインドを解くに足りる値になる。
栞が思い切り身体を捻ると、するりと拘束が解かれて地面へ落下する。
すぐに再びワカメが襲い掛かるが、栞は鎌を手に取るとそれを引き裂いた。
何度かワカメを引き裂き続けると、やがてワカメキングは大きく唸り声を上げる。
「あれ、なんか効いてる?」
襲ってくるワカメは、触手に比べて柔らかい。
何度も切りつけているうちに、もう一度大きくワカメキングが唸った。
何が起きているのだろうと、ステータス状態を確認する。
すると相手のデバフ欄にその正体はあった。
――【レベル減少Lv2】
それはモンスターの特定部位を破壊するなどで付与されるデバフであり、通常ボス種に起こすのは難しい。
しかし植物に対して圧倒的な力のある栞の鎌は、ワカメを引き裂き続けることにそれを成した。
「よし、どんどんいくよ!」
このまま引き裂き続ければ勝てる、確信して栞は襲い来るワカメもそうでないものも全て引き裂いていく。
アイテム欄にワカメがどんどんスタックし、減少した体力をそれを食すことで30ずつ回復させてゆく。
ところでワカメを引き裂くことでデバフを与えることは出来るが、触手と違い本体にダメージは通らない。
しかし本体はSTR依存で破壊できる強大なワカメで覆われていて、栞の鎌ではびくともしない。
皮団子で一時的に補われたSTR程度ではびくともしないため、このままではジリ貧である。
そこで栞は、このデバフを付与し続けることである攻撃を狙う。
レベル低下デバフの限界は、最大値の半分。その時はすぐに訪れた。
「ムニョオォォォ!!」
【レベル減少Lv5】。最大値。
今までに聞いたことがないくらいワカメが唸り、全てのワカメが消え去った。
代わりに2本の触手が再び現れ、攻撃力2倍のバフを付けて襲い来る。
「うっ、痛っ!」
フライパンでガードするもかなりのダメージを受ける。
急いでワカメを口に含むが、すぐにもう片方の触手が来るのを見て咄嗟に避ける。
悠長に回復している暇はない。
栞は次の攻撃もなんとか受けると、フライパンを仕舞い身体を身軽にし、勝負に出た。
ワカメキングはその好機を逃さずに2本の触手で同時に襲う。
「【逃走】!」
それは戦闘中でも移動速度を上げることのできるスキル。
駆け出し、ワカメキングの中心へと走り出す。
直後、さっきまで栞のいた場所に触手が振り落とされる。
ワカメキングは避けられたことに動揺し、一瞬栞を見失う。
今度はその機を栞が逃さない。
「【スニーク】!」
今のワカメキングはデバフ効果により、【スニーク】の効果が効く。
敵を失ったワカメキングは大きく戸惑い、触手をうねうねと動かし攻撃の手を止めた。
音を聞いて、栞が自分へと向かっていることを知る。
急いで触手を音のする方向へ伸ばしていく。しかし、それより早く栞は中心に辿り着いた。
「【農家の心眼】……!」
MPが失われ、一度限定の強力な効果を身に着ける。
【伐採の心得】効果の確定発動。
レベルが下がり、その効果圏内となった全力の一撃をワカメキングの中心に叩き付けた。
「いっけーっ!」
どすん、と音が鳴り全ての動きが止まる。
「……」
全力で走ったせいで限界の栞が、静かに膝をつく。
ワカメキングは静寂し、やがてその形をばらばらと崩していくのだった。




