買えました。
「購入にマイナンバーが必要なゲームなんて初めてだなぁ……」
学校からの帰り道。
ショップで久しぶりのゲームを購入した天音栞はパッケージを眺めてにこにこと笑っていた。
『Only Skill Online』と商店街ゴシックで書かれた単純なタイトルに、剣や杖、弓なんかを携えた男女が凛々しい表情を浮かべて写っている。
VRMMOという、ここ数年で一気に流行りだしたジャンルで一番最新のタイトル。
先日サービスが開始したばかりのこのゲームは購入にマイナンバーが必要で、ダウンロード版が存在しない。
そのためショップに並ぶパッケージソフトはどこも売り切れ続出で、栞が立ち寄った店舗にたまたま残っていたのは超絶ラッキーだった。
「やっぱり、今年は大吉なんだね」
栞の財布には初詣で引いた大吉のおみくじが大事そうに入っている。
そして、この調子でうまくいきますように、と財布を撫でた。
『Only Skill Online』。それは最も自由なゲームであり、最も運が関与するゲームでもあるのだ。
略称『OSO』の特徴は、なんといっても『剣の振り方一つで習得スキルが変わる』というシステムだろう。
例えば、同じ剣士でも縦斬りメインで続けていれば地面を抉る程高威力のスキルが撃てるようになるし、横切りなら高速で空を切り裂く斬撃を放てるようになる。
魔法使いなんかは特に顕著で、どの属性をメインに使うか、それを攻撃に当てるのか支援に当てるのかなどで全く異なるスキルが習得できるのだ。
これが『OSO』の最も自由な部分であった。
「でもなぁ……」
栞はうーん、と首を捻って不安そうに表情が曇る。
先述のシステムに対して、最も運が関与し、縛られる不自由な部分もあるのだ。
それは役割の選択が出来ず、パッケージごとにランダムに割り振られているという事。
プレイヤーは四つのロール『DPS』『ヒーラー』『タンク』『生産者』のうち一つの役割を与えられる。
ロール内であれば武器を持ち替えることで、職業の変更自体は可能だがそれでも厳しい縛りではあった。
DPSは竜騎士・侍・黒魔導士・召喚士などの王道アタッカー。
ヒーラーは白魔導士・占い師・聖女など。
タンクには斧術士・暗黒騎士・ナイトなどが存在する。
そして、生産者。
これは名前の通り非戦闘向けのロールであり、クラフター職とギャザラー職に分かれている。
クラフターには調理師・錬金術師・鍛冶師・服職人など。
ギャザラーには園芸師・採掘師・漁師などが存在する。
生産者はこのどれにでもなる事が出来るが、ネットでは散々に叩かれていた。
原因はもちろん、ゲームサービスが開始して、ギルドやプレイヤーの取引といったものが活性化してから初めて芽を出せるロールであるということだ。
つまり活躍するまでにとても長い時間を要すると評価されていた。
一応救済策のつもりなのか、生産者のロールを引いた人間は現時点でほとんど存在しない。
たまたまそんな激レアを引いてしまった数少ない人間も、親や兄弟のマイナンバーで二つ目のパッケージを入手する始末である。
「私はやっぱり、魔法使いかなぁ」
そして、栞も多くのプレイヤーと変わらず一番無難なDPSを希望していた。
今は夏なので、涼しそうな氷魔法をメインに使い、いつかはでっかいかき氷を召喚してお腹いっぱいに食べるのだ。
そんなゆるい頭お花畑な未来に期待を膨らませながら、栞の長い夏休みは始まるのだった。
……しかし栞はまだ知らなかった。
大事そうに抱えられているそのパッケージに封入されているのは、魔法使いとは程遠い激レアな『生産者』である事を。