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5話 逆行前(5)

 王宮の一角にある幽閉の塔。

 貴族が入るにはあまりにも粗末な石造りの牢屋で、リシェルは力なく床に伏せていた。


 ただ、マリアを慰めるためだけにリシェルは牢にいれられたのである。

 マリアに嫉妬したリシェルが反乱を起こしただけで、マリアの政策は間違っていなかった。

 それだけを証明したいがために。



 せめて国王が健在でリシェルの父グエンもいたのならこのような暴挙は止められただろう。

 国王はマリアになびく事なく聡明で寛大な人物だったのだから。

 だが病に伏せってからは表舞台に出てくることはない。

 国王はきっとこのような事態になっているのも知らされてもいないのだろう。

 誰一人あの王子の暴挙を止められない。


 王族には王族の血筋にしか使えない神器がある。


 その為あのような、暴君でも誰も逆らえない。

 現在王族の正当な血をひくのは彼しかいないからだ。

 他の王子や姫達は幼い頃事故や病気でなくなってしまい、国王も悲劇が続き意気消沈したのか子供を持たなくなった。

 風の噂では王子派に殺されたのではないかとさえ言われている。


 けれど、もうどうでもいい。


 リシェルは心の中で呟いた。

 この国の未来を憂いたところで、私に何ができるわけでもない。

 もう遅かれ早かれこの国は滅びる。


 あのような経済の破綻した状態では、経済力のある国に吸収されて終わりだ。

 リシェルはため息をついた。

 逃げられないようにと王子の独断で切断された両足がまだ痛い。

 太ももから下の足がない状態に泣く気力すらなかった。

 他にもなじられ受けた暴力で身体中アザだらけだが足の痛みのせいでそれも忘れられる。

 慰め程度にかけられた回復魔法でも痛みは消えない。

 昨日から高熱をだしたりを繰り返しているが、この石造りの牢獄に見舞いにくるものなどもなく、ただただ我慢するしない。


 どうせ――助からない。

 リシェルは悟っていた。

 王子はここで自分を殺すつもりなのだと。


 死んだら大好きだったママに会えるかな?などと熱でぼんやりする中。 

 

「君がリシェルか」


 牢屋の外から声が聞こえる。

 もう放っておいて欲しかった。

 視線だけでそちらを見やれば金髪の鎧を身にまとった青年がたっていた。


「貴方は確か――」



「ロゼルト・エル・カーシェント。

 憶えてもらえていたなら光栄だな」



 言って青年は微笑む。

 確か遺跡で有名な領地のカーシェント領の一人息子だったはず。

 あまり領地からでてくることがなかったので会ったのは一、二度。

 その彼が何故このような場所に?


「君を助けにきた」


「……私を?」


 意外な言葉にリシェルは眉を顰めた。

 リシェルは王族に逆らってまで助けてもらうほどロゼルトとの接点はない。

 今度は王子が脱走を試みたという罪を作り上げリシェルの手でも切り落とすためにこのような手の込んだ事をしたのかもしれない。


「エクシス様に助けてくれと頼まれたんだ。

 さぁここから逃げよう」


 ガチャガチャと何かを取り出そうとするロゼルトに、


「いえ、無理です」


 と、リシェルはレンガに横たわったまま答える。

 ひんやりとするレンガの床が気持ちよくて頭をあげられない。


「無理じゃない。

 こんなところにいれば君は殺される。

 逃げるしかないんだ」


 リシェルは熱で喋るのもつらくなり自分の足を指さす。


「……足が」


 スカートで気付かなかったのかロゼルトの顔が青ざめた。


「もうこれ以上生きるのは疲れました。

 私の事は放っておいてください」


「そうはいかない。二人で」


「エクシス様にお伝えください。



 ……貴方はどれだけ人を苦しめれば気がすむのかと」


 そう、そもそも彼が間違った神託をくださなければ。

 リシェルは婚約者と結婚し、このような立場にならないですんだ。

 例え国があの王子とマリアのせいで滅んだとしても。

 一時期の幸せくらいは手に入れられた。


「……それでも、君は生きるべきだ。

 こんなところで朽ちてくやしくはないのか?」


「そんな感情はもうありません。

 私は平穏を手に入れられればそれでいい」


「平穏?死ぬ事か?

 本当にいいのか?

 逃げなければ殺されるだけだ。

 流石に逃げる気のないものを連れて逃げられる程この塔は甘くない」


「この足で生きてなんになりましょう?」


 リシェルの言葉にロゼルトはため息をついた。


「……わかった。

 今日は一旦身を引こう。

 足がないというのはこちらも想定外だった。

 逃げる手段を考え直さないといけない。

 また次くるまでに君の考えが変わっている事を祈るよ」


「もうこなくて結構です」


 そう言うリシェルにロゼルトが鍵を開けて牢屋に入ってくる。


「……何を!!」


「解熱剤と痛み止めの水だ。

 これだけは飲んでくれ。

 また近いうちに来る」


 そう言って丁寧にリシェルの身をおこし、薬を飲ませてくれた。

 ひょっとして毒物でここで私は殺されるかもしれない。

 薬を飲みながらぼんやりとそんなことを考え――熱のためかリシェルは意識を失うのだった。

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