56話 詐欺師
どうやら上手くいった。
舞踏会会場に飾られた神器の中から魔族はほくそ笑んだ。
魔族の目論見通り――リシェル達はロゼルトを救う道を選んだ。
ガルシャ王子にまとわりついていた密偵の神官の一人を思惑誘導し、魔族の知識に関して間違った記述のある本をリシェル達に見せるように誘導した。
ロゼルトと魔族の契約が確定し、成立するまでの僅かな間に魔族を倒せば、契約は無効になるなどという嘘の記述があったはずだ。
ご丁寧にその期間は魔族の力が弱まるなどと嘘の記述とともに。
リシェル達はその間違った記述を信じ、こうやって魔族との直接対決を選んだのだ。
そのための舞台も魔族が用意してやったのだから。
マリアとガルシャ王子の思考を操ってこのような場で婚約破棄をさせた。
もちろんリシェル達は抗うだろう。
そしてガルシャ王子を断罪し、失脚させ第二王子を即位させる。
リシェル達は契約が成立したその僅かな瞬間に魔族を倒す道を選んだのである。
マリアとガルシャ王子は自分で婚約破棄などという結論にたどりついたと思っているようだが。
それとなくリシェル達と内通している貴族がそそのかしていたことは、魔族には手に取るようにわかっていた。
だから魔族がマリアとガルシャの思考誘導をして後押ししてやったのだ。
この場に神殿の精鋭部隊やエルフ・竜人を集結させたのも、何も第一王子を裁くためだけではない。魔族である自分を復活させ、契約成立までの間に倒すため。
その証拠にリシェルは聖女のみが使える短剣を所持し、戦闘態勢に入っている。
リシェル達は選んだのだ。
魔族を倒す道を。ロゼルトを救う道を。
馬鹿な奴らめ。
大人しく終焉の業火に身を任せていれば魔族を滅ぼせたものを。
魔族の真意など知らずに目の前では喜劇が繰り広げられている。
「そこまでだ――ガルシャ。
聖女様に逆らった罪。
その身で償うがいい!!
王位継承権を剥奪する!!」
まるで先程のガルシャを揶揄するかのように現国王が告げ、
「さぁ、聖女様。
この愚かなる者に制裁を」
言って、エクシスはボコボコに殴りつけたガルシャを差し出す。
「や、やめろっ!!やめてくれっ!!!」
魔法で動けないガルシャにリシェルは軽蔑の眼差しを浮かべ
「例え、現時点で貴方がしたことでないとしても。
それでも――過去の貴方の所業は許せません。
皆の恨み!!!その身に刻みなさい!!!」
言って、リシェルが聖なる短剣でそのガルシャの身体を貫いた。
脇腹を貫かれ物凄い絶叫が辺に響く。
「さぁ、聖女様に逆らいし逆賊は裁かれた!!!
ここで新たな王位継承者を宣言する!!!
第二王子グルシャ・バル・ランディリウムを次期国王に任命する!!!!」
国王の叫びとともに雄叫びがあがった。
途端、神殿の「神の従者」の神官やエルフや竜人が神器を前に戦闘態勢にはいる。
そう。
時はきた。
神器より魔族の身体が少しずつ具現化する。
この世に絶望を。そして閉じ込めた人間たちに復讐を。
神々の弱った今の時代ならば、世界を滅ぼすことは容易い。
王位が変わった時点で。契約は成立する。
あの第14代国王の5番目の子。ロゼルトの魂は我のものだーー。
ここにはロゼルト自身は来させなかったようだがそのような事は関係ない。
身体がどこにあろうとも契約は実行される。
契約成立と同時に。ロゼルトの身体から魂が抜け出し――魔族がそれを受けとろうとして硬直した。
竜人やエルフ達がまったく攻撃を仕掛けてこない。
しかも。
ロゼルトの魂は光り輝き美しかった。
それなのにどうだろう。
契約と同時にきた魂はどす黒いのだ。
これはあのガルシャ王子とかいう馬鹿王子の方の魂だ。
え?
何これ?
こんな魂では復活できない。
魔族は固まり、ついリシェルの方を見る。
が、リシェルはにっこり笑って、「対策されても嫌なので教えません」と答えた。
そこで魔族は理解した。
どうやらはめられたのはリシェル達ではなく--自分のほうだったと。











