53話 絶望と希望と
「………まさか。そんな………」
リシェルは神書に目を通し声をあげた。
心のどこかで。
神書ならロゼルトを救う術が書かれていると無根拠な自信があった。
それなのに。神書に書かれていたのは。
レシピだった。
全て料理のレシピなのだ。
「どういう事ですか!?これは何!?」
神書をペラペラとめくるが肉じゃがなど意味不明な料理のレシピがずらずらと並べられている。
違う違う違う。
神書はこんなもののはずじゃない。
もっと神聖なもののはずで。
聖女の力が封じられている神の本。
それなのに中身がこれ?
ここにロゼルトを救う術が書いてあるはずなのに。
それなのに書いてあるのは全部意味不明な料理のレシピ。
聖女ソニアが残した神書はこのようなものだったの!?
それとも何か隠されているの?
「違います……っ、こんなの違うっ……っ」
泣きながらページを捲るけれど。
書かれているのはすべてレシピで。
じゃが芋や人参など古代に好まれていたといわれる野菜が書いてある。
何か秘密の暗号があるのかと必死に読み込むけれどそれらしい暗号もわからない。
「リシェル様!?」
「神の使徒」達に指示をだし部屋に戻ってきたエクシスが泣いて本をめくるリシェルに慌ててかけよった。
「どうなさいました!?」
「これは本当に神書なのですか!?
ないのです。ロゼルトを救うすべがどこにも書いてないのです!」
「……リシェル様」
「嫌です。こんなの嫌です。
………私も。私も今からロゼルトのところへ!!!」
慌ててエルフ領を立ち去ったロゼルトを追おうとしたリシェルを、入口で丁度鉢合わせしたジャミルが止める。
「ジャミル!離してください!
ロゼルトを追います!!!」
今にも魔法を展開しそうなリシェルをジャミルは慌てて抱きかかえた。
「ジャミル!?」
「……ったく事情が読めませんが、大方神書にロゼルトのお坊っちゃんを救う術がなかったんでしょう?」
言われてリシェルは口篭った。
ジャミルの言う通りだったから。
「まったく無鉄砲な所は4年たってもかわりませんね。お嬢様は」
言ってぽんっと床に降ろされる。
「だって……嫌です。ロゼルトがいなくなるのは嫌です。
今までだって毎日毎日、探したのに見つからなくてっ!!
もうエルフの古書もほぼ全て読み尽くしました。
これでは……ロゼルトを救えないっ!!!」
えっぐえっぐ泣き始めて言うリシェルに
「ご安心ください。神の使徒にロゼルト様は見張らせています。
私の指示なしではロゼルト様は終焉の業火へは行くことすら出来ぬでしょう」
エクシスがそっと肩に手を置いた。
神書に期待していただけあって、リシェルのショックは大きかった。
心のどこかでエルフの里にならロゼルトを救う術があると思い込んでいたのだ。
「でも……でもっ……」
「リシェル様。
初代聖女ソニアも誰も成し遂げるのは無理だといわれた邪神を倒しました。
ですから諦めないでください。
まだ神書がダメだっただけです。
聖女の力は手に入れられたのですから。
何か他に方法があるかもしれません」
ジャミルと並んで帰ってきたシークがリシェルに告げれば、リシェルはあることを思い出す。
「そうですっ!聖女になったとき、私は聖女ソニアと邪神との戦いを見ました!
聖女ソニアが使っていた未知の武器がありました。あの武器に何か秘密があるかもしれません!」
言ってリシェルは聖女ソニアが叫びながら振り回していた武器を紙に書いて見せるのだった。
■□■
「……これはハエたたきでしょうか?」
リシェルに紙に描いた絵をみて感想を漏らしたのはエクシスだった。
「ハエ叩き?」
「なんじゃそりゃ聞いたことないな」
エクシスの言葉にリシェルとジャミルが感想を漏らす。
「逆行前。マリアが平民に売りにだした虫を倒す道具の一つです。
こうやって手にもって虫を叩きます」
言ってエクシスが紙を丸めて叩く仕草をする。
「へぇそんなもの売れたんですかね?」
ジャミルが聞けばエクシスは苦笑いを浮かべて
「いくら平民でも虫なら魔法一つで倒せます。
わざわざこのようなものをお金を出して買う者はいませんでした。
在庫が余り、貴族のものに無料で配られていました」
「そりゃそうだろうな」
ため息まじりにジャミルが肯けば
「これは虫を倒す道具ですか……」
リシェルがマジマジと自ら描いた絵を見つめ――ー。
倒れ込む邪神。そして光。ハエたたき。
リシェルの頭の中で。全てのピースがつながった。
「お嬢様?」
固まったリシェルにシークが尋ねようとしたその時。
「聖女様!!!魔族の契約を覆すと思われる古文書の記述を発見しました!!!!」
と、慌てた様子で神官の一人が部屋に入ってくるのだった。











