48話 猶予時間
魔族との契約
それは生ある者が魔族と交わす血の誓い。
神器に血を注ぐと、その血の持ち主の魂と魔族とが契約を結ぶ。
魔族に魂を捧げる約束で契約はなされ、その契約が実行されれば、魔族は契約した者の魂を喰らう。
その契約の力は絶大で魔族がもつ本来の力以上の力を行使できるようになる。
それ故魔族側もリスクが高く、100%成功するわけではないため契約を結びたがる魔族はいない。
ガルシャ王子は神器に国中の住人の血を注ぎ、それを贄に契約をしようとした。
聖女を今この場に生き返らせて幸せな世界にし、ガルシャとマリアをその世界の王にしろと。
だがガルシャ王子が血を注ぐ前に、無理矢理割り込んで自分の血を捧げたのがロゼルトだった。
ロゼルトは自らの血を注ぎ、強引に儀式を乗取ったのだ。
時代を巻きもどせと。
魔族にも叶えられる願いと叶えられない願いがある。
聖女を生き返らせてガルシャとマリアが望む幸せな世界にしろという願いは、そもそも魔族の存在意義上不可能な契約だった。
だからこそロゼルトは逆行を選んだ。魔族がのりやすい内容で挑んだのだ。
そして魔族もそれにのった。
魔族も、聖女亡きあとに世界が滅びゆくのを望んでなどいなかったからだ。
彼らの望みはモンスターが闊歩する世界であり、世界がなくなることなどは望んでいない。
魔族自身、血の契約という特殊な条件下でなければ時間の逆行などという巨大な力を行使できなかった。
それがゆえガルシャの契約を気付かなかったふりをしてロゼルトの方の契約に乗った。
現在ロゼルトは魔付きの状態になっている。
契約を果たした時点で魂が喰われるのだ。
ロゼルトの魂が食われれば魔族は復活する。
地上は混乱に陥るだろう。
だが遥か昔。
魔族の契約を反故にもせず、魔族に魂を食わせない方法が存在した。
「それが終焉の業火と言われるマグマへの投身です。
この方法が確立してしまったがため魔族も血の契約を結ぶのを拒否するようになりました」
エクシスが馬車の中でリシェルに告げる。
「霊峰クリディルスにあるといわれる聖なるマグマですか?」
「はい。左様です。
あの炎は魂すらも焼きつくします。
その炎に焼かれて死ねば魔族とて喰らうことはできません」
「でも、それでは……」
「はい。ロゼルト様は輪廻すらできなくなります。
そこまで覚悟しているところが彼らしくありますが」
「そ、それは何時ごろ飛び込む予定なのでしょう!?」
リシェルは慌てて身を乗り出した。
リシェルに一ヶ月も掛かりきりになる余裕があったのだったのだから、ロゼルトが死ぬのはまだずっと先だと見込んでいた。
けれどどうしても不安が先にきてしまう。
「ご安心ください。
最低でも7年。彼は死ぬ気はありません」
エクシスの言葉にリシェルはほっと胸をなで下ろす。
よかった。まだ余裕がある。けれど。
「何故7年なのでしょうか?」
「第二王子が成人するのが7年後だからです」
「第二王子?
不慮の事故でお亡くなりになったはずでは」
「不慮の事故などではありませんよ
第一王子派にそう見せかけられて殺されただけです。
ですが事前に防がせていただきました。
本物の王子は死亡していません。死体はすり替えてあります」
「つまりロゼルトは……」
「はい。保護した第二王子を、神器の正当な後継者にするおつもりです。
一度復活しかけた神器を正当に継承する者がいない状態では魔族が復活してしまう恐れがありますので」
「つまり7年間の間に、ロゼルトを救う術を考えなければいけないわけですね」
「御意」
「第二王子が王位についてもロゼルトは魂を奪われてしまうのでしょうか?」
「はい。第一王子以外が第一王位継承者もしくは王位についた場合も、魂を捧げる契約になっています」
「なるほど。つまりそれまではガルシャ王子を王位継承者にしておこうというわけですね」
「その通りです。魔族を封じる祭事を執り行うにはやはり正式な王族の血を引く者が必要です。
空席にしておくわけにはいきません。
王族の血を引く者があの地を治める必要があるでしょう」
「……なるほど」
言ってリシェルは目を伏せる。
リシェルに与えられた時間は7年。
長いようにも感じるが……魔族を相手にするのに7年で方法を探す事などできるのだろうか?
リシェルは馬車の外に視線をうつす。
出来るかではない。
しなければいけない。
でなければ彼の隣を共に歩いていけなくなる。
絶対ロゼルトを死なせはしない。
今は自分に出来ることを――。
自分の中にある聖女の力を目覚めさせてみせる。
リシェルは決意を固めるのだった。








