43話 マント
「見てください!ロゼルト!マントを仕上げました!」
6日ぶりに訪ねてきたロゼルトにリシェルは嬉しそうにマントを広げた。
ロゼルトの家紋が綺麗に刺繍されている。
本当は一ヶ月二ヶ月かけてもっと手の込んだものにしたいところだが、婚約の儀は明日。
それ以後リシェルは、エルフの里に向かうことになっている。
「おおっ!!凄いなっ!てか、リシェルこんなのまで用意してくれてたのか?」
「はい。
……ロゼルトにとっては形式だけにすぎなくても、私にとっては大事な儀式ですから」
そう言って顔を赤くしてうつむくリシェルに
「え、あ、いや!?
そんな事ない!!
俺だって大事な儀式だ!!」
「本当ですか!」
「あ、うん。そりゃリシェルとの婚約だし」
「よかったです!」
そのままリシェルに抱きつかれロゼルトは赤面した。
リシェルが好意を向けてくれたのは知っていたが、それはどちらかといえば友達関係としてだと思い込んでいた。そのため、まさかこんなに婚約者として全面的に喜んでくれるとは思っていなかったからだ。
こ、これ期待してもいいのか?
などと、ドキドキしてしまうが天然のリシェルの場合そこまで意味はなかったとかありそうで怖い。
それに、仮に本当にリシェルが自分の事を好きだったとしても、自分は彼女を幸せにはできないのだ。
それでも。
せめて生きている間。
仮初だとしても、その間だけでも彼女を大事にしてあげたいと思う。
「本当に俺でいいのか?」
ロゼルトが問えば
「はい!大好きですから!」
恥ずかしげもなく言われ、ロゼルトは撃沈するのだった。
■□■
「……なぁ、リシェルの場合は逆行して精神が幼くなっているとかあるのか?」
自分の館に戻ったロゼルトはまだこちらの領地に待機しているエクシスに尋ねた。
あれから一通りいつものようにリシェルと下町に遊びに行ったが。
婚約したためか、リシェルが嬉しそうに手を繋いできたり、前よりもスキンシップをとるようになった。
自分から積極的に手をつなごうとして、でもやっぱりどうしようとためらったりしてる事が多くなったのだ。
それがまた……可愛いから困る。
決して幼女趣味はない。
だが未来の彼女を知っているだけに意識してしまう。
逆行前。
少なからずリシェルに好意を抱いていたロゼルトにしてみれば嬉しいことこの上ないのだが。
10歳の少女の場合、恋人ごっこの場合もある。
「そうですね。それは否定できません。
現にロゼルト様も子供の遊びを楽しんでいる時点で、精神が幼くなっているのかと」
「……だよなぁ」
ロゼルトも自分は自覚していないが、28歳の時には子供の遊びを微笑ましいなと思って見ていたのに、今は子供達が遊んでいるのを見ると参加したくて仕方ない。
精神が幼くなっている部分もあるだろう。
10歳の少女に好かれたからといって、それが18歳のリシェルがそのままロゼルトを好きでいてくれる保証にはならない。
子供が懐いているようなものかもしれない。
変に期待するとがっかりするだけだよな、とロゼルトは頭を切り替えることにした。
「それで、イフリートの奇襲の対策はできたのか?」
「はい。イフリート部隊の討伐は私の私設部隊が秘密裏に行います。
表向きは奇襲に気づいたグエン卿が倒した事にしますが」
そう言って紅茶を一口啜る。
「あとは、保護した第二王子と第三王子の存在を隠さないとだな。
まぁ奴らも神殿で保護したのでは手を出せないだろうが。
それまではいままで通り王子派を泳がせておかないと」
「そうですね。
ガルシャとマリアは……たとえ記憶をなくしていたとしても、聖女様をあのような目にあわせた背信者。
聖女様が味わった苦しみの倍以上の苦痛を与えて殺してみせましょう。我が手で」
そう言ってエクシスは紅茶を飲み干す。その目は据わっていて。
こいつマジだ、とロゼルトはたじろぐのだった。








