40話 逆行前の真実(2)
リシェルが死んでから。
世界は荒廃していった。
聖女であるリシェルが死んだ事で。
「……でも聖女の力を使えるマリアがいるのに何故ですか?」
不思議そうに聞けば
「マリアの使えた聖女の力はお前のものだったからだよ」
「……え?」
「マリアは異世界人だ。
自覚がなかっただけで他者の能力を吸い取って使えるという特殊なギフトをもっていたんだ。
お前の力を吸い取って聖女の力を使っていただけだ。
だから本来の聖女のリシェルが死んだ事で、その聖女の力も使えなくなった」
「そんな……でも、私は聖女の力を使えませんでしたし、聖杯も反応しませんでした。
それはマリアに会う前からです」
ロゼルトの話にリシェルが割って入るが
「それは逆行前の歴史でもずっと議論されてきたことだが、結論はでなかった。
……ただ、この間のお前が薬を飲まされていた件があったろう?」
「はい」
「もしかしたらそれが関係してたのかもしれない。
エクシス様の話ではリシェルの力は、マリアが使っていた力から考えれば歴代聖女の中でもかなり強かったらしい。
それがゆえ、精神を病んだ状態でその力を間違って使えば、世界に多大な影響をあたえる。
だから無自覚にセーブしていたんじゃないかって」
「……じゃあ」
「ああ、エクシス様の神託の通り、聖女はお前だったんだよ」
そう言う、ロゼルトの言葉に涙があふれた。
「……リシェル?」
「ご、ごめんなさい」
聖女でありたいと願った事は一度もない。
けれど。ずっと偽聖女と罵られ、暴力をふるわれ、理不尽な目にあったことは一体なんだったのだろう。
それが全部、大好きだったリンゼのせいだったと思うと、やはりやりきれない。
リンゼは何故こんなひどい事を?
誰かに操られていたのだろうか。
それに、誰の指示でこんなことをしていたのだろう。
リンゼがリシェルに仕えたのは、王子に会うよりもずっと前の事で。
10歳の現時点で薬を飲まされていたのだとしたら、王子やマリアが仕組んだことだとしたら、時期があわない。
「リンゼの件は今調査中だ。
逆行前は……リシェルやグエン卿が薬を飲まされていた事実にすら気づいていなかった」
「……そうなのですか?」
「ああ、お前がジャミルを仲間に引き入れたからこそ、初めてわかった事実だよ。
よくやった」
そう言って褒めてくれるけれど。
「……でも、まさかお前まで逆行の事実を憶えていて、そんな無茶をしているとは思わなかった。
暗殺ギルドに喧嘩をうるとかお前死んでもおかしくないぞマジで。
なんつー事してるんだよ」
と、ポリポリと頭をかく。
「ごめんなさい。
それくらいしないと歴史は変えられないと……」
「いや、まぁ、怒ってるわけじゃないからな。
確かにそれくらいしなきゃ、歴史を変えられないっていうのもわかるけどさ。
お前に無茶してほしくないつーか。なんというか」
傷つけてしまったかと慌てて取り繕うロゼルトにリシェルは微笑んだ。
「はい。わかってます」
「うん。それならいんだけどさ。
とにかく、本当の聖女のお前が死んだせいで、結局ファントリウムに力を注げなくなった。
そのせいで世界は荒廃していったんだ。
そして聖女を二度も殺してしまった「人間」にエルフと竜人が見切りをつけた。
人間の間に聖女を生ませてはいけない。
そのためにエルフと竜人達がとった行動はわかるだろ?」
「まさか……人間を?」
「そう、皆殺しの方向で動きだしたんだ。
聖杯に力を注げなかったことで生き物が生きるために必要な実りが減る。
今のままの人口は維持できない。
そして、人間は自分達の種から聖女を誕生させておきながら二度も殺してしまった。
もう人間には任せられないと、他種族が人間を殺しはじめた」
「そんな……」
「もう国がどうこうできるレベルの話じゃなくなった。
それで慌てたのがあの馬鹿王子とマリアさ。
一番の元凶なんだからな。
他国やら他種族から全てに批判をうけ、自分たちの立場が悪くなった途端、やらかしやがった」
「やらかした?」
「魂を捧げたのさ。
自分たち以外の国民の」
「……え?」
「王族しか使えない神器があるのはお前も知っているだろう?」
「はい」
「あれは神器なんていってはいるが元々、王族の血筋が魔族を封じたものだったらしい。
この国の王族の血筋はもともと神官の血筋だ」
「魔族ですか………神々に滅ぼされたはずでは?」
「神々に滅ぼされかけて衰弱した魔族を、あの魔道具に封じてその力を利用して王族にまで上り詰めたことが、この国のはじまりだ」
「魔族に自国民の魂を捧げ、取引しやがった。
自分の血と自国民の魂で解放してやるから、自分達を脅かす全てを滅ぼせとな」
「……まさかそんな事……」
「ああ、だから俺が邪魔をした」
「邪魔?」
「俺も王族の血筋だ。
取引の途中で割り込んでやったのさ。
咄嗟で何を願っていいのかわからなかった……だから、時間を巻き戻してやり直させてくれと願ったんだ」
「……それはつまり」
「ああ、歴史が逆行したのは俺のせいだ」
そう言ってロゼルトは溜息をつくのだった。











