36話 デート?
「今日はロゼルトは来ないのでしょうか?」
屋敷の中で、自分のお付きに戻ってくれたジャミルにリシェルが尋ねた。
毎日ロゼルトが来てくれていたのだが彼も忙しくなってきたのか顔を見せる頻度が減りつつある。
「そうですね。忙しいって聞いてますよ?」
「……そうですか」
ジャミルが言えばリシェルは明らかに落ち込んだ。
以前なら表情をかえることすらなかった少女が随分歳相応になったものだとジャミルは思うが。
それと同時にロゼルトに依存しきっている状況を危うくも思う。
シークやマルクは本人が無茶をしなくて喜んでいるようではあるが、ジャミルからすれば依存先を復讐する事からロゼルトに変えただけであって状況は何一つかわっていないようにも見えた。
「それじゃあお嬢様」
「はい?」
「今日は気晴らしに自分とデートしませんか?」
ジャミルの言葉にリシェルは一瞬キョトンとし
「ジャ、ジャミルとですか?」
「はい」
リシェルの問いにジャミルはにっこり微笑むのだった。
■□■
「一体何を考えてるんですか!?」
ジャミルと平民の格好ででかける準備をしていれば抗議の声をあげたのはシークだった。
「ん?何が?」
「お嬢様とデートなど!?気は確かですか!?」
シークが抗議するさまがおかしくてジャミルは意地の悪い笑みをうかべ
「何だ。シークお前もデートしたかったのなら誘えばいいじゃないか」
と、笑って返される。
「ち、ちちちち、ちがいます!!!」
「そうですよ。ジャミル。
シークが私などとデートをしたいわけが……」
リシェルがフォローをだすが
「そ、それも違いますっ!!
お嬢様とデートが嫌なのではありません!?
こう身分差をわきまえない事が問題なのでありまして!!」
「アホか。マジのデートじゃないんだからいいだろ。
ちょっと街で遊んでくるだけだ」
「しかしですねっ!!身の危険を考えれば!!」
シークが一生懸命反対する様が不思議で
「ロゼルトとは毎日出かけていましたよ?」
と、リシェル。
「あの時はロゼルト様の護衛もいました!!」
「あー、護衛なら心配ないだろ」
と、ジャミルはぽりぽりと鼻をかいた。
流石大神官が味方についただけあって……神殿の暗部を担うエキスパート達が姿を隠してリシェルを見張っている。
そちら方面専門のジャミルですら素直にすごいと感嘆する身の隠し方だ。
何人かはどこに潜んでいるかすらわからない。
エクシスがリシェルを守るためにと新設した部隊だと言っていた。
ジャミルとシークは紹介されたが……マジものの狂信者ばかりだった。
聖女様の為にこの命を捧げます!!と、リシェルの危機があれば知らぬ間に命を捧げて勝手に死んでいてもおかしくないほど……どこか狂気めいたものを感じたが、ジャミルは黙っておいた。
神殿連中にはできる限り関わるな。
これがジャミルの生きてきた人生経験で得た教訓だったからだ。
「た、確かにそうですが」
シークもそれを知っているがためにうなだれる。
「さて、お嬢様。今日はどこに行きましょう?」
「私が決めてもよろしいのでしょうか?」
「そりゃそうでしょう。お嬢様の気晴らしもあるんですから」
ジャミルが微笑めばリシェルは嬉しそうに微笑んで
「では、また商店街を歩いてみたいです」
「へぇ、それでいいんですか?」
「はい。人々の営みを見るのは楽しいですから」
そう言ってリシェルは嬉しそうに微笑んだ。











