34話 不器用
まったくあの旦那も不器用だよな。
小窓から中を覗きながらジャミルはため息をついた。
一連のやりとりをずっと見てはいたが特に声をかけることもしなかった。
ジャミルの仕事はリシェルを見張ること。
グエンはリシェルが心配だからとジャミルにリシェルを見張らせていた。
何か異変があったらすぐ対処できるように。
あまりにも体調が悪いようならすぐ部屋にいけるようにと。
無責任に放置していたわけでもない。
一人になる時間が必要だとグエンなりの判断だったのだろう。
だがロゼルトに責められているときもリシェルに対しても言い訳はしなかった。
そういった事を言わないが故にあの二人はすれ違っているのだろう。
まぁ……あの旦那も薬を飲まされていたからな。
薬を飲まされていたのはリシェルだけではない。
グエンもまたリンゼを信用し、彼女の入れるお茶を好んで飲んでいたのである。
あの薬は即効性の毒ではなく、少しずつ精神を狂わせていく。
長期間摂取していると段々と思い込みが激しくなり判断力が鈍ってくるのが特徴だ。
主に魔法や祝福を使えなくするために飲ませる秘薬である。
そして最終的には薬をずっと摂取していなければ狂ってしまう。
ただ、魔法や祝福を使えなくするには長期間毎日服用、それこそ20から30年単位で摂取させなければならず、まだグエンもリシェルもそこまでいってないのが救いだった。
だからこそ食べ合わせによる毒は時間がかかりすぎるため、流行しなかったのだ。
毎日同じ物を食べさせ飲ませるというのはある意味難しい。
だがリンゼがそれを可能にしたのは毒性はないが毎日食べていると欲してしまう麻薬効果のある葉を混ぜたことだろう。
そしてグエンとリシェルの好みにあうように味も変えていた。
材料を厳選しないと薬の効果を打ち消してしまうためリンゼ自身かなり秘薬の知識に詳しくないと無理だろう。
旅行が急遽取りやめになったのもそのためだった。
リンゼの件を調べるため。グエンは旅行に行くのをとりやめた。
だがリシェルはリンゼと引き離すためにリシェルだけで旅行に行かせた。
まだリシェルやグエンル程度の症状なら服用を一ヶ月もやめれば薬は抜ける。
その間に薬を欲しくなる症状がでるが、幸いなことにリシェルはロゼルトと出会い、その交流に夢中だったため薬を欲することもなかった。
問題なのは摂取期間と摂取量が多かったグエンの方だ。
薬の服用をやめたことにより禁断症状か終始イライラし、仕事をこなすだけで精一杯だったのだ。
だからこそリシェルに会いにもこられなかった。
微熱のでる身体でリンゼを追って早馬を走らせてきたグエンも相当きつかっただろうが、娘のためと自分も行く事を譲らなかった。
それを正直に言えばリシェルも喜ぶだろうに、何故か言わないでいる。
薬のせいもあっただろうが元々の性格もあるのだろう。
最終的に判断するのはグエンだが、リンゼの裏を洗う必要があるだろう。
いきなり自白剤を飲ませてしまってもかまわないが……リンゼが単なる末端に過ぎなかった場合、何も知らずに情報も得られぬまま殺してしまう可能性もある。
それにしても……嬉しそうにロゼルトと話すリシェルを観てジャミルは思う。
薬が抜けたおかげかロゼルトとの出会いのおかげかはわからないが、お嬢様でもあのような表情をするのだと少し安心する。
あとでシークあたりに何故自分にまで話さなかったと責められるだろうがそこはマルクに丸投げしよう。
シークはリシェルに忠実すぎて、マルクに信用されてないとは自分に言えるわけもない。
リシェルのためを思うなら時にはリシェルを裏切る事も必要なのだがそれができないと判断されているのだ。
さて、なんだか話がややこしくなりそうだ。
ジャミルはため息をついた。
過去に逆行した事をお嬢様以外も把握していたとは。
これはマルクの旦那も呼んだほうがいいのかな。
などとジャミルは一人ごちる。
リシェルとグエンに仕えてはいるがジャミルの正式なスポンサーはマルクである。
報告義務があるだろう。
ジャミルは自らのギフトの鳥を召喚するのだった。








