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30話 滑稽

「おはようございます。お嬢様」


 目を覚ませば、そこにいたのはシークだった。

 父の姿もジャミルの姿もそこにはない。


 昨夜の出来事は夢だったのだろうか。

 

 リシェルは淡い期待を抱きつつも起き上がれば……


「目が覚めたか」


 部屋の隅で本を読んでいたのだろうか、リシェルの父グエンがリシェルに声をかける。


「お父様……」


 絶望的な表情になるリシェルにグエンは内心ため息をついた。

 いつもそうだ。

 

 自分は娘を悲しませる事しかしていない。

 

 リシェルの目の前で母親より国王陛下を選んだことを、リシェルが許していない事はわかっている。

 だからこそ、距離をとってきたのだが……。


 今回も出来れば内密にすませたかった。

 リシェルの前でリンゼを捕らえるなどという事態になってしまった事を恨めしく思う。


 リンゼの出すお茶に毒が含まれているかもしれない。

 そう、グエンに忠告してきたのはマルクだった。

 彼が連れてきた従者のジャミルがそういった情報に精通しており、リンゼの身のこなしに潜入を得意としている者独特の動きが含まれると。


 ジャミルが毒に精通しているが故に知っていた知識。

 食べ合わせにより初めてその毒の効果が生まれる。


 ごく一部の者だけが使える毒で、その毒は秘伝とされ一般には広く知られていない


 またその毒の効果も即効性のあるものではなく何年もかけて蓄積しなければならない。

 だからこそ、旅行と偽ってリシェルとリンゼを引き離した。

 


 ジャミルの助言で証拠がでるまでと、それとなく閉じ込めていたリンゼが抜け出したと聞き、慌ててリシェルの元に来てみればこれである。

 こんな事をすればリンゼがメイドから外されるのは容易に想像ができる。

 リンゼは自分が裁かれると理解したうえで行動した。

 おそらく今回リシェルに飲ませるつもりだったのは……即効性のある毒物だったのだろう。

 一体何を飲ませるつもりだったのか吐かせる必要がある。

 そして黒幕も。



 それには……ジャミルの持っている自白の薬を使う事も考慮にいれなければならないだろう。

 リンゼは壊れるかもしれないが、もともとメイドの証言など、証拠にもなりはしない。

 相手が貴族だった場合、そんな女知らないと言われればそこで終わってしまう。

 だったら知っている情報を全て吐かせるほうが得策だろう。


 既にマルクからリシェルが何をやろうとしているかは報告を受けていた。

 逆行前の記憶を所持し、国を相手に戦おうとしている事も。

 マルクの家に入り浸り怪しい行動をしている娘の行動を把握できていないほど無能ではない。

 調べさせていることをマルクに告げれば、仕方ありませんねと事情を話してくれたのだ。

 だが、娘が自分から話さない以上、知らぬふりを押し通すつもりだったが………そうも言っていられないだろう。


「あれは、お前に毒を盛っていた。

 今熱がでているのもその薬の作用だ。

 この一ヶ月薬をずっと摂取しなかったことで、副作用として熱がでる。

 しばらく寝ていればじき収まる」


 グエンが言えば、リシェルは


「嘘です!!リンゼがそんな事をするはずがありません!!!」


 と、今にも泣きそうな顔になる。

 幼い頃から従ってくれていたメイドが毒を盛っていたなどと言われて信じられない気持ちはわかる。

 母親をなくしたリシェルにとって母代わりに等しい存在だった。

 もともとリンゼはリシェルの母が連れてきたメイドだ。

 だからこそリシェルと共にした時間は父であるグエンよりも長い。

 リシェルにとってはかけがえのない存在だろう。


 妻が連れてきたからといって身辺調査をおろそかにしてしまったのを悔やんでも悔やみきれない。


「信じようが信じまいが事実は変わらない」


 そう言う、グエンの言葉にみるみるリシェルの顔が強ばる。

 

「……リンゼに!リンゼに会わせてください!!

 何かきっと理由があるはずです!!

 私が直接聞いてきます!!」


 そう言ってベッドから抜け出そうとするリシェルをシークが止める。


「シーク離して!!」


「できません。リンゼは手に毒針を潜ませていました。

 私とお嬢様どちらに使う気だったかはわかりかねますが……。

 リンゼは貴方が信じているような人間ではありません」


「嘘……嘘………」


 ポロポロと流れる涙を必死で手で拭う。


 リンゼが殺された時。

 自分は復讐を誓った。


 けれど……そのリンゼですら自分を裏切っていた。


 もうわけがわからない。

 自分を貶めた女のために自分は復讐を誓ったの?

 命をかけてまでやろうとしてきたことは全部道化にすぎなかったの?


 自分のいままでの行動すべてが……滑稽に思えた。


 自分は一体何のために復讐を誓い、何のために生きてきたのだろう。


 神に誓った?

 バカバカしい。

 自分に悪意を向けていた女のために命をかける?

 こんな馬鹿げた話がどこにあるのだろうか。


「お嬢様……」


「お願いです。一人にさせてください」


 顔を伏せていうリシェルにグエンは頷いた。


「わかった。好きにすればいい。

 シーク、お前も外で控えていなさい」


「……しかし」


 今にも自害してしまいそうなリシェルを一人にするのは流石にシークにははばかられた。

 グエンとリシェルの顔を交互に見比べる。


「この程度のことで自ら命をたつような弱い娘ではないはずだ。

 一人にしてやれ」


 そう言ってグエンが促せば、シークはしぶしぶながら頷いた。


 パタン。


 二人が部屋からでていく気配を確認した後、リシェルは大声で泣きだすのだった。

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