表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/67

29話 忘れた想い

 三日後に全て話す。

 そう言って三日後に会う約束をしてロゼルトと別れた。


 逆行がロゼルトが関係しているというのなら。

 リシェルの願いが神に届いたわけではなかった。

 

 一体何がどうなっているのだろう。


 そして何より、逆行の真実を知る喜びよりも……たった三日ロゼルトに会えない事実が辛くてしかたなかった。


 ロゼルトは呆れながらも成功すれば必ず褒めてくれた。

 いつも周りの大人はリシェルが出来て当然という態度で褒めてくれる人などいなかったのに。

 それに失敗しても、そんなことも出来ないのかとも言われない。

 失敗を笑って許して貰えるなんてことはいままでなかった。

 失敗をも笑って受け入れてくれる。


 だから――彼の前では何も恐れず素直になれた。



 自分と同じ逆行前の記憶があるという似た境遇を共有できる相手がいてくれてとても頼もしかったのもあるかもしれない。

 ロゼルトと一緒だと、不安で押しつぶされそうだった毎日がまるで別物のように感じられた。


 毎日がとても楽しくて。

 ずっとこのままが続けばいいと思っていた。


 忘れかけていた。

 復讐するという目的を。


 自分の復讐に対する気持ちなど所詮その程度のものだったのだろうか?


 頭が痛い。

 何故か胸が締め付けられる。


 たった三日。会えないのは三日だけなのに。

 ロゼルトに会えないというだけで不安で押しつぶされそうなのだ。


 私は――どうしたのだろう。

 自分はこんなにも人に依存する体質だったのだろうか?

 一人で戦うというあの決意はどこにいったのだろう。


 頭がクラクラする。

 

 どうしようもない寒気にリシェルはそのままベッドに潜り込んだ。


 □■□


「お薬をお持ちしました」


 シークがリシェルに薬を差し出した。

 あれからリシェルは眠ることもできず、シークが様子を見にきたときには高熱でうなされ医者に診てもらったあとだ。


 恐らく、緊張がとけて疲れが出たのだろう。

 シークは高熱でうなされる少女の横に座る。


 薬をメイドが運ぼうかとも申し出たが、鑑定のギフトもちのシークが飲ませたほうが安心ではある。


 ここに来る前にジャミルに毒系統だけは気をつけろと念を押されたからだ。

 彼もついてくるのかと思ったが、用事があるからと同行はなかった。

 ここの滞在が延びたと連絡をしたときも彼がこちらに訪れる様子はない。

 この地なら安全と思ったのかそれとも何か用事があるのだろうか。


「……ありがとう。シーク」


 リシェルはそう言って苦しそうに上半身をおこし、薬を飲み始めた。


「ロゼルト様がくるのは二日後です。

 それまでに風邪をなおしましょう」


「はい。そうですね。治さないといけませんね」


 そう言ってリシェルは微笑むがかなり辛そうだ。

 シークが手から冷気の魔法をだせば、涼しいのかリシェルが目を細める。


「ありがとうございます。でも無理はしないでくださいね」


 薬が効き始めたのか少しウトウトしだす。


「リンゼは……まだこちらにこられないのでしょうか」


「はい。一応便りは送ったはずですが……」


「そうですか……」


 そう言ってリシェルはため息をついた。

 ロゼルトと遊んでいた時はそればかりに気を取られていたが、時々無性にリンゼのお茶が飲みたくなるときがある。

 こんな時彼女の温かいお茶があればいいのだけれど。


 薬が効いてきたのか、リシェルは眠気に意識を奪われるのだった。



 ■□■



 がしゃん!!!


 何かの割れる音ともみ合うような音でリシェルは目を覚ました。

 朦朧とする意識の中で目をあければ……何故か自分の前に守るようにシークが立ち、ジャミルがリンゼを押さえ、その様子をリシェルの父が見ている。

 状況が一瞬把握できなくてリシェルは固まった。


 どういうことだろう。 

 唖然とその様子をリシェルが見つめる。


「な、何をなさるのです!?」


 リンゼがジャミルに抗議の声をあげ


「どういうことか説明してください」


 と、シークも剣を構え、ジャミルを睨みつけた。


 実際、護衛のシークも状況が掴めていなかった。

 便りをだしたリンゼが到着し、お嬢様のお茶の用意をしますね。

 と、寝ているリシェルの横で静かに二人でリシェルの看病をしていたところに、いきなりジャミルとリシェルの父グエンが乗り込んできて、リンゼを押さえつけたのだ。


 シークは状況がつかめずリシェルを守る事を優先した。

 どちらにせよ、シークの護衛対象はリシェルだ。

 もし仮にグエンとジャミルがリシェルに危害を加えるつもりなら二人に逆らう事も厭わない。


「シーク、リンゼはもうお嬢様にお茶を飲ませたりはしてないよな?」


 ジャミルがものすごい剣幕でシークに尋ね


「……まだです。ですがそれが何か?」


「毒だ。あの茶の成分から毒が検出された」


 と、グエンが答える。


「な、何を言ってるのですか!!お二人とも!!

 お茶は毎回シーク様が鑑定してくれています!!

 毒など検出されなかったはずです!!!」

 

 ジャミルとグエンにリンゼが食ってかかる。


「そうです。鑑定ではそんな結果は……」


「あれは特殊な毒なんだよ。 

 紅茶単体では毒として作用しない。

 一緒にいつもビスケットを食べていただろう?

 それと一緒に摂取すると作用する毒だ」


 ジャミルが説明すればリンゼの顔が青ざめる。


「……その話……本当なのですか?」


 リシェルが聞けば、リンゼは目を逸らした。

 

「……騒がせたなリシェル。

 お前はゆっくり寝ていなさい。

 しばらく辛いだろうが、毒が抜けきれば、その熱も収まる」


 そう言って、グエンがリシェルの頬を撫でた。


 ついていけない。

 何がどうなっているのだろう。

 朦朧とする意識の中で、この出来事は夢なんじゃないかとリシェルは戸惑う。

 ずっと小さいときから一緒にいるリンゼが私に毒を?

 だってそれはおかしい。

 リンゼは私と一緒に殺されてる。

 敵のはずない。


「嘘…ですよね?リンゼ?」


 ポロポロと涙が溢れる。

 リンゼだけはずっと味方だと思っていたのに。

 前世からずっと私は裏切られていたの?


 リシェルの疑問にリンゼは何も答えない。


「どうして何も言ってくれないのですか?

 いつもみたいに笑ってくれないのでしょうか?


 お願いです。どうか否定して」


 すがるように手を伸ばした瞬間。 


睡眠(スリープ)


 父グエンの言葉とともに――リシェルはそのまま意識を失うのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■□■宣伝■□■
★書籍化&漫画化作品★
◆クリックで関連ページへ飛べます◆

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ