27話 鬼ごっこ
「なるほど。この鬼ごっこというのは子供のときから有事に備え逃げる練習を遊びに取り入れて鍛錬しているのですね」
ぜぇぜぇと息を切らせながら。
街の子供たちの鬼ごっこに参加したリシェルが呟いた。
「まぁ、きっとそんなもんだな」
そこまで深い意味はきっとないと思いつつも、しきりに感心しているリシェルにそれを指摘するのも野暮なのでロゼルトは肯定する。
「に、しても鬼ごっこくらいは貴族様でも子供の頃やらなかったか?
公爵家は違うのか」
息を切らせてばて気味のリシェルに聞けば
「私は同い年の子と遊んだ経験がありませんでしたから……。
常に周りに大人しかいませんでした。
自分の時間は神話の本をずっと読んでいましたし。
婚約もはやかったため社交界にもあまりでませんでした」
「なるほどね」
と、ロゼルトは頷いた。
この世界では社交界にでてくる貴族の令嬢は婚約相手がいない令嬢が多い。
婚約が決まれば、社交界に出ないのが暗黙のルールとなっているからだ。
魔法という力があるためにどうしても血筋が貴族の世界では重要になってくる。
社交界で別の相手を見つけ浮気をするなどという事態を起こさぬために、婚約者のいる令嬢は結婚し子を成すまではよほどの事情がない限り社交界にはでないのが暗黙のルールなのだ。
そのためリシェルはフランツとの婚約がはやかった為に同じ歳くらいの令嬢と交流したこともない。
に、してもグエン卿ももう少し同年代の子との交流を持たせてやればいいのに。
と、ロゼルトは思うがそれがゆえ、今回の案内人を同年代指定だったのだろう。
まぁ、過去を嘆いても仕方がない。
「うし、そろそろ休憩するか。疲れたろ」
「こ、これくらい!まだ大丈夫です!」
息を切らせて大丈夫と言い張るリシェル。
その瞳からはこんな事くらいで負けられないという意思が見て取れた。
……本当こいつ無駄に頑張りすぎなんだよな。
と、ロゼルトは心の中でやれやれとぼやく。
「お前なぁ。別にここは戦地とかそういうのじゃないんだから。
無理に頑張る必要はないんだぞ?
無駄な事で体力を使って有事のときどうするんだ。
余裕がないのは減点だ」
「す、すみません……」
体力という不得意の分野であまりいいところを見せられず、リシェルは意気消沈した。
これでは真相を教えてもらえないのではないかという焦りもある。
もうあれから20日が経過し……いまだにリシェルの死後やマリアについて何一つ教えてもらえていない。
それに……自分がいかに平民の生活を知っていなかったのか思い知らされた。
畑の農作業もそうだ。
ここの名産のクワレルの葉は、薬草になりとても高価な値で売れる。
けれどロゼルトと一緒に手伝った畑の作業や手入れは大変で。
毎日伸びる無駄な葉を丁寧に摘んでいかないとすぐ枯れてしまう。
畑の主はこの時期が一番忙しいからその時だけ他所から手伝ってもらっていると笑って言っていたけれど。
もし、これが収穫が増えて年4回になったら?
手伝いに来てくれる人にも生活はある。年4回も手伝えないだろう。
そして採れすぎて葉の値段が暴落したら?
考えるだけでゾッとする。
いくら大量に取れるようになるといっても採算はとれないだろう。
一度ハーブを植えてしまった畑はもう野菜などに転用するのは難しい。
この地はハーブに向く土を大事に大事に育ててきた。土壌から。
それを改善するには同じくらいの歳月が必要になるだろう。
農民たちが暴動を起こすのは自然の成り行きだった。
ロゼルトはきっとこういった平民たちの暮らしをリシェルに知っておけといいたいのだろう。
実りをもたらすにしても、計画的に何を増産するか決めなければ、逆行前と同じ過ちを繰り返す。
需要と供給。労働量とそれに見合う対価。
何が問題で何ができることなのかを的確に知っておかないと。
でなければ革命は叶わない。
民の心を得なければ、一時期平定はできたとしてもすぐ国は荒れてしまう。
あの王子を裁き、ロゼルトを王にしなければ国は滅ぶのだ。
だからこそ失敗は出来ない。
民の心を知らずしてどうして国を導けよう。
何としても彼のテストを合格しないと。
リシェルは決意を新たにする。
そんな黙り込んでしまったリシェルを見て。
ロゼルトはため息をついた。
……きっとまたこいつ小難しく考えてるんだろうなぁっと。
けれどそこまで難しい事考えてないからな?などと言えば、ならこんな事をしている場合じゃない!はやく国に喧嘩を売るのに自分も参加させろといいかねない。
ロゼルトはロゼルトなりに準備を進めている。
過去を知っている以上、同じ失敗を二度も繰り返す気はない。
それにリシェルを参加させるのはもう少し準備が整い彼女の安全が保障されてからだ。
少なくとも今ではない。
なんとか復讐以外にも目をむけてもらわないと。
今の余裕のない彼女では暴走しかねない。
基本頑張りすぎなんだよなこいつ。
と心の中でロゼルトはぼやく。
それがいいところでもあるし、悪いところでもある。
「うっし、少し休もう。
美味いもん食わせてやるよ」
そう言ってロゼルトは微笑んだ。
□■□
「ほらっ、この木の実。うまいぞ」
そう言ってロゼルトがリシェルに木の実を差し出した。
紫色の変わった木の実だ。
「見たことがありません。
これは何でしょうか?」
実をリシェルがマジマジと見つめれば
「カルシェの実だ。
とってから3時間以内に食べないと途端に苦くなる。
だからあまり市場に出回らないのさ」
「ああ、だから見たことがなかったのですね」
美味しそうにかじりつくロゼルトに倣ってリシェルもそのままかじりつく。
令嬢としてはこのようなはしたない行為はどうかと思うが、戦争になればいちいちナイフで切って食べている時間などないのだ。
闘うためにはこういったことにも慣れないと。
そう思って一口食べ、口の中に広がる甘い味にリシェルは思わず
「甘くて美味しい」
と、声をもらす。
「だろ?この実はここにある木にしか実らないからな。なかなか貴族様でも食べられないぞ」
そう言って微笑むロゼルトにリシェルは成程と頷いた。
平民が美味しい物を食べていないと勘違いしていたのは自分が貴族としての立場に驕っていたからなのだろう。
下手をすればリシェルよりも美味しいものを食べているのかもしれない。
ちゃんと彼らの生活もしっておかないと。
木の実を慣れない様子で食べながらリシェルは心に誓う。
もう二度とあのような不幸な未来にしないようにと。








