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20話 落胆

「お嬢様お気を付けて!」


 屋敷の城門で。

 旅支度をしたリシェルにリンゼが嬉しそうに手を握った。


「ごめんね。一緒に連れていけなくて」


 リシェルがリンゼに言えば


「仕方ありません。最近体調を悪くした私がいけないのですから。

 体調不良のものは他領地に移動は禁じられています。

 楽しんできてくださいね。何時ものお茶とお菓子はカーシャに持たせましたから」


「ありがとう」


 そう言ってリシェルは嬉しそうに微笑んだ。

 

 本来なら浮かれている場合ではないのはリシェルも重々承知している。

 けれどもしかしたら父は操られていただけで本当は自分に優しいのではないかと淡い希望も抱いてしまっている。


 それにこれから行くのは数多くの聖女の遺跡が残るクシャラーナ領。

 昔からリシェルが神話や聖女の話が好きだったのを覚えていてくれた父が遺跡を巡ってくれると申し出たのだ。

 何かマリアに対抗する手掛かりが掴めるかもしれないと、心踊る想いがあるのもまた事実だった。


「それじゃあ行ましょうお嬢様」

 

 シークに手を差し出され、リシェルは微笑んで馬車に乗り込んだ。


 リシェルの父は仕事が終わり次第合流することになっている。

 馬車で移動するリシェルは記憶が戻るまえの10歳の少女らしい微笑みをうかべていてシークは安堵した。

 記憶を思い出してからはリシェルは常に思いつめた顔で、一人の時は10歳らしい少女の顔を見せる事などなかったからだ。

 仮に精神が18歳だとしても。

 18歳の少女らしい表情も見せた事がない。

 まるでこれから命懸けの仕事に挑むような悲愴な表情で思いつめていることが多く、他の者に愛想笑いを浮かべる事があっても一人で居る時に笑うことなどなかった。

 暗殺者ギルドとの交渉の時も。

 何度止めようか。彼女の父親かマルクにでも相談するべきかと迷った。

 けれど、リシェルはシークが止めれば一人ででも行ってしまう危うさがどこかにあったのだ。

 だからこそ自分がそばで守る道を選んだ。


 その彼女が、純粋に歳相応に旅行を楽しみにしている様子は嬉しくもあり微笑ましくもある。


 彼女の進もうとしている道は茨の道で、出来れば彼女にそんな道を歩んで欲しくはないと思う。


 それでも――強引に止めようとすれば彼女の心は死んでしまう。


 彼女はいまそれだけを支えに生きているのだから。



 □■□


「お父様がこられなくなった?」


 別荘に到着するなり早馬の知らせがそれだった。

 

「はい。申し訳ありません」


 伝えた従者が頭を下げる。


「いえ、お父様もお忙しい身ですから。仕方ありません。

 貴方が謝ることではありませんよ」


 リシェルは伝えた従者に微笑んで用意された部屋へと戻り、扉を開けたところでその動きをとめた。


「シーク。今は一人にしてください。

 私が言うまで誰も部屋に入れないでください」


 顔も見せずにいうリシェルに「かしこまりました」とシークは頷いた。

 リシェルの背を見送り、やっとみせた笑顔がまた消えるのかと思うと自らの主であるはずのグエンに苛立ちすら覚えている自分にため息をつく。

 グエンはまだ彼女の記憶を知らされていないのだから、彼を恨むのは筋違いだ。

 けれど、彼女が抱え込んでいる未来がどれほどリシェルを苦しめているか知っているだけに、彼女に幸せであってほしいと思ってしまう。


 復讐しか見ていない彼女に少しでも安らぎをと願ってしまうのだ。


 リシェルの部屋から聞こえるわずかなすすり泣く声に、シークは大きくため息をつくのだった。

 

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