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19話 旅行

「旅行に行こう」


 そう言い出したのは父グエンの方からだった。

 舞踏会も結局リシェルは出席することなく終わり、逃げるようにグエンと領地まで戻って来ていたのだ。

 あれだけ入念に準備をしていた舞踏会に出られなくて気落ちしていると勘違いしたグエンが気を使ってくれたのかもしれない。

 実際はマルクとの打ち合わせで忙しかっただけであって、ドレスなど興味もなかったのだけれど。

 リシェルは父の申し出に戸惑った。


「記憶の中の父と違い戸惑っています」


 結局リシェルの自室で、旅行のために新しい衣服を買いたいと呼び出したマルクに一番に相談する。


 その様子にマルクは目を細めた。

 何故あそこまで父親を信用しないのか不思議ではあったが、どうやら母親の件だけではないらしい。

 

「お嬢様。もしかしてお嬢様も魅惑の影響下だったため記憶が曖昧になっているのではないのでしょうか?」


「え?」


 思いもよらなかった言葉にリシェルが言葉を呑み込んだ。


「私の知るグエン様は貴方をとても大事にしていらっしゃいました。

 私からすれば何故貴方がグエン様を信用しないのか不思議でなりません。

 グエン様が魅惑で貴方に辛くあたっていた可能性も考慮にいれてもです。

 お嬢様がグエン様に大事にされていた記憶がないのがおかしいと思いませんか?

 いくら目の前で母親が殺されたといっても、私の知る限り7歳まで貴方はとても大事に育てられていたはずです。

 それを忘れていらっしゃる状況がとても不自然でなりません。


 真実を確かめるために旅行に行かれてはどうでしょう?」


「……でも、それでは敵襲が」


「まだ一年半の猶予がありますし、グエン様はお忙しい身ですからそう長居はしないでしょう。

 第一王子を見張らせてはいますが今のところ怪しい動きはありません。

 そちらは気にしなくても大丈夫です。


 それよりもグエン様が信用できるか。


 見極めるために行かれるべきです。グエン様を味方に引き込めれば戦力は大幅に上がります」


 マルクの言葉にリシェルは少し考え込んだあと


「はい。ではそうします」


 と、少しハニカミながら微笑んだ。

 その表情は10歳の少女のそれでマルクは安堵する。

 常に思いつめた表情しかしていなかった少女が初めてみせた嬉しそうな笑顔にやはり歳相応に甘えたいのだと理解した。


 ……それにしても。


 マリアという聖女は危険だ。


 もし魅惑などというものが本当に使えるのであればリシェルが死んだあと、被害はランディリウム国だけに収まらず世界中に広がっているかもしれない。

 イフリートを倒すため魔力を失ったグエンが魅惑にかかるのは仕方ないにしても、魔力の高いリシェルまで魅惑にかかっていたのではあらがえる者はいないだろう。

 聖女の使えるかもしれない魅惑を防ぐ術など存在しているのかすらわからない。


 魅惑に対する対策も何かとらなければ勝てるかどうかすらわからないのだ。


 本来なら無理をしてでも今のうちに殺しておきたいが、聖女であるがゆえそれも不可能だ。


 聖女が聖杯に力を注がねば世界そのものが崩壊してしまう。

 聖女を殺すなどと恐れ多い事は出来ない。


 そしておかしい事がもう一つ。

 マルクがどんな伝手を使ってもマリアなる存在がレンデーゼ家に存在しないのである。

 妾の子をのちに迎え入れたのだとしてもその存在自体がつかめない。

 一商人に出来ることはやはり限られてしまっている。

 出来ればグエンの力があったほうがいい事は確かだ。

 本当はマリアなど存在せず、全てがリシェルの妄想だったという可能性もあるが――。


 今更これだけのことを言い当てているリシェルの言葉を信じないという選択肢はありえない。

 リシェルの資料のおかげで、現在マルクは莫大な富を手に入れている。

 未来では患っていたマルクの病気も早期にわかったため重篤にならず、事なきを得た。

 それにジャミルの話ではジャミル達すら知らなかった暗殺ギルドの情報を所持しており、それが正しかったのだから。

 彼女の話した未来は真実なのだろう。


 とにかくもう少し調べてみないと。


 マルクは嬉しそうに旅行の準備の話をはじめたリシェルを見つめ思う。


 せめて今世では--彼女を幸せにと。



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