表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/67

17話 作戦

「宜しくお願いしますお嬢様」


 従者としてジャミルがリシェルの元にやって来たのはそれから1ヶ月後だった。

 リシェルの部屋で陽気な挨拶を交わす。


「ジャミル」


 リシェルが驚きの声をあげた。

 マルクの勧めで従者が来るとは聞いていたがジャミルだとは思ってもいなかったからだ。


「今日からお嬢様の手足となって働きますので!」


 と、薬屋で会った時とは比べ物にならないほどおどけた調子で言うジャミル。


「雰囲気が大分違うのですね?」


 リシェルが聞けば


「そりゃ、単なるしがない薬屋が公爵令嬢様の従者になれたのですから。

 テンションも上がりますよ」


 そう言って微笑むが、言葉の中にシークとジャミルと三人しかいない状態でも素性を明かす気はないと物語っていた。

 つまり――ジャミルは屋敷の中も安心できないと念を押したいのだろう。


「あら、お嬢様。新しい従者の方ですか?」


 お茶を持ってリンゼが部屋に入ってくる。


「はい。マルクとの衣装合わせの時に知り合いまして。

 彼と連絡が取りやすいように付き従ってくれる事になりました。

 身元はマルクが保証してくれています」


「お嬢様は本当に今回の王宮主催の舞踏会に力をいれておいでなのですね」


 リンゼがニコニコと微笑む。

 リシェルは彼女には復讐の件は教えていなかった。

 前世で共に殺される未来がどうしても脳裏から離れないからだ。

 もう少ししたら――適当な理由をつけて自分のメイドから外そう。

 そうすればともに殺される事もないと、リシェルは心に決めている。


 母親代わりでずっと自分を支えてくれたリンゼを殺すわけにはいかない。


 死ぬのは――自分だけで十分だから。



 □■□


「――というわけです。

 奇襲に備えればこのガルデバァム戦自体ではそれほど損害はありません。

 元々この戦いは、シャナーク国の王子が功を焦り仕掛けてきたものです。

 ほぼすべてがこのイフリート部隊の奇襲に賭けていて、父たちの戦う部隊はそう兵力がありません」


 地図を指し示しながらリシェルは説明しはじめた。


 ガルデバァム戦


 元々は隣国シャナーク国の王子達の王位争いから端を発している。

 第二王子に王位を奪われそうになった第一王子が起死回生を賭けてラムディティア領に仕掛けてくる。

 第一王子の独断で、本国から本格的な支援があるわけではない。

 なのに大きな打撃を受けてしまったのは、第一王子が隠しもっていたイフリート部隊の存在が大きい。


 本来イフリートは四足歩行のトカゲのような魔物で、かなりの上位種で人間が御せるものではない。

 それを魔道具に魔導士の魂を捧げるという非人道なやり方で、イフリートを操る事に成功したのだ。


 断崖絶壁をもやすやすと登ってしまい、本来ありえない位置から奇襲をうけ。ラムディティア軍は大打撃を受けてしまう。

 もしリシェルの父、グエン・ラル・ラムディティアでなければ、この戦いは負けていただろうと誰もが称するほどイフリートの部隊は圧倒的強さを誇ったのだ。


 グエンの今後一生分の魔力を捧げた広範囲魔法によってイフリート部隊を倒す事に成功し、敵を蹴散らしはしたが、ラムディティアの被害も甚大だった。


 リシェルの王子との婚約を断れなかったのも、この戦争でラムディティアは国に多大な借金をしてしまった事が関係している。


「確かにイフリート部隊を何とかできれば、被害は少なくてすむでしょう。

 ですがそれを私たちだけでやると?」


 シークが地図を見ながらリシェルに尋ねる。


「はい。ジャミル達に働いてもらいます」


 リシェルが答えれば


「ちょっと待ってくれ。俺たちを過大評価しすぎじゃないか。

 いくら何でもイフリートなんて化け物倒せないぞ。

 俺たちの専門は人間だ。モンスターじゃない」


 と、ジャミル。


「そこは心配しないでください。

 直接イフリートとは戦いません」



「まず、イフリート部隊は、クラチェ峠を越えて、この岩場のルートを通って来たことが後にわかっています。

 ここは道幅も狭い。

 待ち伏せには最適な場所です。

 しかも通過したのは夜。

 罠を仕掛けるのは絶好のタイミングかと」


「なるほど。そこに罠をはっときゃいけますね。

 しかしイフリートに効果のある罠などありますか?

 並みの魔法なら跳ね返す鋼鉄のウロコの持ち主だったはずですが?」


 ジャミルが地図を見ながら聞けば


「イフリートは無理でしょう。

 狙うのは、イフリートではありません。

 騎乗している人間の方です」


 そう言ってリシェルは地図から視線を上にあげた。


「後の調査でイフリートは主が死ねば、動きを止めるのはわかっています。

 魔道具に魔力を通さないとイフリートは動きません。

 私たちが倒さねばならないのは騎乗している騎士達です。

 幸いな事にここは岩壁に囲まれた一本道。

 爆弾で部隊ごと爆破すればイフリートは無事でも騎乗している騎士は助からないでしょう」


「なるほどな。

 まぁ待ち伏せなら俺たちの得意分野だ。任せとけ。

 それにしてもよく調べたもんだな」


 ポリポリ頭をかきながらジャミルが言えば


「はい。父は完璧主義者でしたから。

 勝った戦いですらどうやったらもっと被害をださないですんだのかいつも検証する人でした」


「リシェルお嬢様はお父上に似たのですね」


 ジャミルが肩をすくめて言う。


「……いえ、私は父に遠く及びません。

 いつも出来ぬ娘と怒られていましたから……」


「グエン様がですか?」


 リシェルの言葉にマルクが尋ねる。


「……はい」


「だからでしょうか?

 お嬢様。貴方は少しご自分を過小評価する傾向にあります。

 貴方は同じ歳の貴族と比べれば優秀です。

 あまりご自分を過小評価しすぎぬよう。

 自分への評価を間違えれば、周りへの評価も読み違えてしまいます」


 マルクの言葉にリシェルは少し驚いた顔で


「そ、そうでしょうか?

 皆これくらいは普通に出来るのかと思っていました」


 リシェルの言葉にその場に居合わせた一同が顔を見合わせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

■□■宣伝■□■
★書籍化&漫画化作品★
◆クリックで関連ページへ飛べます◆

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵

表紙絵
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ