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10話 条件

「では、貴方は聖女マリアが魅惑系の魔法が使えると?」



 あれから三日後。

 再びリシェルはマルクと面会していた。

 今のリシェルの交渉では大人とやりあうのは無理だとマルクに指導を受ける事になったのだ。

 リシェルはマルクの商会の店の一角で会話をしていた。

 もちろん盗み聞きなどは出来ぬように盗聴防止の魔道具も設置してある部屋で、リシェルとマルクはドレスの相談と称し、二人きりで密談中だ。


 年頃の少女が自分のドレスをこっそり特注するのはよくあることなので不審に思われる事もない。

 貴族令嬢が出来上がるまでドレスを身内のものにも明かさないというのはそう珍しいことではないのだ。

 それだけ令嬢にとってはドレスは重要な位置を占めているのだから。


 マルクは優雅にティーカップを持ったまま


「はい。でなければ、王子が独断で全て行動できてしまっている事に説明がつきません。

 そのような蛮行を行う王子ならば監視をつけているはずが、そういった形跡もない」


 と、振り向く。


「まず。お嬢様の話によれば王子派の派閥の筆頭はあのロティエン家です。

 かの地は経済力も高く、神殿にもある程度の影響力があります。

 神殿の圧力で王子に進言できないという家柄ではありません。

 領主のクロム公爵は頭もよく、機転もきく人物と噂されています。

 それなのに王子の奇行が止められていないのは、不自然です。


 そして問題なのは、お嬢様も含め、その可能性を誰も考えていないこと」


 マルクの言葉にリシェルは思わず息を飲んだ。

 たしかに……まずは一番に疑うべき案件だったのに、リシェルは何故か考慮にいれていなかった。


「魅了できる程度の差はあれ、かなり広範囲の人物に影響を与えられるとみていいでしょう」


「……そうですね。彼女を褒め称える貴族たちに違和感がありましたが……。

 魔法にかかっていたのなら納得できます」


 相手は聖女。それくらい出来て当然なのかもしれない。

 

 もしそれが本当なら。


 フランツとマリアが仲睦まじく話をしている姿が浮かぶ。

 もしあれも……マリアの魅了だったのだとしたら、リシェルは捨てられたと一方的に逆恨みしていただけなのかもしれない。

 元より、無理矢理とはいえ婚約を解消した身なのだからリシェルが彼にどうこう言える立場ではないが……。


 それでも……心だけは繋がっていたと期待してしまう。

 だからこそ、今世では傷つくのが怖くて、リシェルはフランツとは会話すらしていない。

 彼と出会うはずの場所は今世では一度も行けずにいる。

 またフランツに会ってしまうのが怖いから。

 好きになり、裏切られるのが何よりも怖い。

 きっと今世では別のだれかと幸せに結婚するのだろうとリシェルはため息をついた。


 それが……マリアでないことだけを祈りながら。


「お嬢様?」


「いえ。何でもありません。ごめんなさい」


「……さて。

 聖女に魅惑系の魔法が使える可能性がある以上、お嬢様の願う復讐は並大抵の努力ではできないかと思われます。

 まずはその魅惑系の魔法に対抗する術を見つけねば逆らいようがありません。

 私としては他国に逃げる事も考慮にいれるべきだと」


「それはありえません。

 神に誓いました。

 必ず皆の復讐を果たすと。

 仮令(たとい)また朽ちようとも、私は神との誓いを守ります」


 リシェルの言葉にマルクはふむと顎をなでた。


「わかりました。

 聖女についてはこちらでも文献等調べるよう手配しましょう。


 さて、それではまずはこちらがお嬢様に協力するにあたり条件を提示させていただきます」


 まるで試すような目でマルクがリシェルを見つめそう申し出た。

 リシェルは無言で頷く。

 条件を付けるとは最初から言われていた事だ。

 マルクも無償で協力してくれるほどお人好しではない。


「まず、私たちが最初に解決しないといけない課題は、我が領地です。

 2年後にあるガルデバァムの奇襲の被害を最小限にすることが重要でしょう」


 ガルデバァムの奇襲。

 これから二年後におこる、隣国からの奇襲。

 なんとかリシェルの父グエンがそれを防ぐものの奇襲によって多くの戦死者や領地の一部が荒らされた。

 そのせいでラムティドゥア領の領地の力は弱ってしまう。

 これを防がねば反旗を翻すなど夢のまた夢だ。


「ですから、この侵略の被害を最小限に抑える事ができるか。

 それを試させていただきます。


 もちろん、資金面などの準備は全面的に援助します……が、計画・実行するのは全てお嬢様です。

 私はお嬢様に指示されたことを用意するだけです。

 私がしてしまっては意味がない。何故かわかりますね?」


 マルクの問いにリシェルは頷いた。


「はい。その程度も一人で出来ないのに、国に逆らうのは恐れ多い。

 貴方はそう言いたいのでしょう」


 私の答えにマルクは人のよさそうな笑を浮かべて肯定する。


「そうですね。

 国に逆らえば貴方だけの命ではすみません。

 領地ごと罪に問われる。

 申し訳ありませんが、私も無能者の無謀な復讐劇につきあう気はありませんので。

 

 その程度もできぬのなら、諦めて他国に亡命する事を約束していただきたい」


「……ですが!」


「それが約束できないというのなら、この話はなかった事に」


 そう言ってマルクは笑みを深くしてリシェルに微笑む。

 けれど瞳はまったく笑っておらず、反論の余地はないという事なのだろう。


 確かに――マルクの言う事はもっともだった。

 その程度もできぬならあの王子達に逆らうことなど出来ない。

 例え一度の失敗でも、失敗すれば連座で領地のものまで罪に問われる。


 リシェルのやろうという事はつまりはそういう事だ。 


 そう――失敗は許されない。



 王家に反旗を翻す。

 それは一族諸共罪に問われる事を意味する。

 試すのは当然の権利。


 

「……わかりました」


 リシェルは大きく頷くのだった。

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