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9話 ルーク(マルク視点)

 自分は未来を体験してきた。


 まるで夢物語のような話を貴族の令嬢は語りだした。

 突然、次の舞踏会での衣装の打ち合わせがしたいと、公爵家の屋敷の個室に通され、語られたのが――リシェルが断罪されて死ぬまでの未来だっだ。


 これから先の未来にしてはあまりにも王子の行動が常識を逸していて、作り話にしてももう少しうまく作れるのではないかという話にどう反応していいかマルクは迷った。

 

 幼い頃から取引があり、目の前の少女が嘘をつくような少女ではないということはよく知っている。母に似て聡明で、裏表のない純粋な少女だ。


 それでも、リシェルの話す話はにわかには信じられなかった。

 いくら賛同するものを周りにはべらしたとしても王子の横暴を、かつぎ上げた有力貴族が誰も止めないというのはおかしな事だ。

 そのような愚鈍な王子なら裏で操っているものが誰かしらいるはずで、多少の遊びは許しても国が傾くようなそのような暴挙を許すはずがない。

 適当に遊ばせておいて、重要な事はすべてかつぎ上げた派閥の貴族が握るはずである。

 財務という貴重な仕事を自分の派閥以外の人間に。しかも18歳の少女に廻すなど言語道断だ。


 かつぎ上げた貴族達すら王子を制御できていない。

 いくら傍らに聖女が控えているとしてもおかしいと感じてしまうのは商人基準で考えてしまうからだろうか?


 国王陛下が病気とはいえ、まだ生存している状態でそのような王子の横暴が許される状況に不自然さを感じる。



 けれど。


 リシェルの母がマルクの母親に薬を渡した話をしたことで確信した。

 この話は真実だと。

 マルクはもともと、父と娼婦の間に生まれた子供だった。

 子の居なかった父と義母が、どうせ育てられないだろうと、半ば強引に生まれたばかりの自分をひきとり義母が産んだ事になっていた。

 けれど、それを知ったマルクは母親を探し出し――長い間娼館で働き重い病にかかり助からない身体だということを知る。

 商会は父と義母に実権を握られていた。当時のマルクに母を助けるほどの高価なポーションを買えるわけもなく、それを助けてくれたのが学友だったリシェルの母だ。

 この事はマルクとリシェルの母親しか知らないはずである。

 マルクの出生に関わることゆえ、リシェルの母が他言するとは考えにくい。

 彼女はそのような人間ではない。



 リシェルの母、ラチェルの微笑む顔が脳裏に浮かぶ。



 きっとあの時受けた恩を自分は今返す時なのだろう。


 マルクは一言リシェルに断りをいれると書類に目を通しながら、リシェルの言葉に耳を傾けた。


 必死に自分に関心をもたせようと言葉を選んでいるのはわかる。

 確かに国を相手にするのに、一令嬢にすぎないリシェルが何かをしたければ、手足となって動く駒は必要だろう。

 その手持ちの駒に彼女は自分を選んだのだ。

 彼女は今無防備で、何一つ後ろ盾がない。

 恐らくこの様子では父親にもまだ真実は知らせていないはずだ。

 父親に話を通しているなら直接父親の方から自分に話がくる。

 

 それにしても……出された資料は財務の仕事を任されただけあって、必要な情報が余すことなく書かれている。

 これだけの事を18歳の少女が記憶し、何が必要で不要な情報か選びとり、まとめ上げた事は素直に感嘆に値する事だ。

 もしこの書類が本当なら巨万の富を手にいれるのも夢物語ではない。


 それがゆえ、手持ちのカードを出す順番に問題がある。

 恐らく自分を100%信頼するという、意思表示のために書いたのであろうが……。

 このように詳細に憶えているのなら、情報をもう少し小出しにするべきところを、最初からこのように全てだしては交渉人としては失格だ。

 これだけあれば儲ける事などいくらでもできる。

 情報を隠しもっと詳細な情報がほしい、この少女から聞き出そうと興味をもたせる情報量を提示すべきで、すべて情報をだしてしまっては彼女と組む意味がない。

 18歳の少女なのだから書類に少々不備があったほうがかえって相手を油断させ自分のペースに持ち込みやすくすることも出来たはずなのに 根が正直すぎ、優秀がゆえに、他の18歳の人間ならこのくらいのレベル、というのがわからないのかもしれない。



 逆行前の年齢は18歳。

 国でそれなりの役職につかされたようだが……マルクから見ればまだまだ子供。

 本人は大人として対等に渡り歩こうとしているが、敵意のある商人などを相手にすればたちどころに言い負かされてしまうだろう。

 それだけ言葉の端々にスキがある。

 このように証拠に残るような紙に書いて渡してしまうのも、彼女がそういった交渉事になれていない証拠である。


 後でもう少し指導しないといけませんね。


 マルクは胸中で軽くため息をつくのだった。



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