七月六日の彼らの夢
超短編です。
七月六日。午後六時。
俺はバイトから帰ってきた三時間前からずっとカレンダーを見つめている。
七月七日だけが赤く塗られたカレンダー。
なぜそんなことをしているかって?
明日がデートだから以外の理由がいるのか?
明日、七月七日は俺と彼女との約束の日。
誰にも邪魔なんてさせねぇからな。
時計を見て、現在の時刻に気づく。
ヤバい、夕飯の時間じゃん。
つくるのも面倒だし、今日くらいはカップ麺でいいよな。
やかんでお湯を沸かし、カップに注ぐ。
そこからの三分間が異常に長い。
いつもだったらあっという間なのにな。
仕方がないから俺はニュースをつけることにした。
明日は、久し振りに彼に会える日。
自然に頬が緩んでしまう。
こんなところ、誰にも見せられませんわ。
ダメですの、私ったら、彼のことを考えるといつもこうなのですから。
本日のディナーはフレンチでございます。という声が遠くから聞こえて来ますの。
そんなに畏まらなくてもいいのよ、といつも言っているのに。
今度、お説教が必要かしら。
まあ、今日くらいは許してあげましょう。
だって明日は七夕、彼と会える日ですもの。
明日の天気予報、絶望的な確率で雨。
そんなのってあるかよ。
てるてる坊主だってこんなに吊るしておいたのにな。
会えなくてもいい。
とりあえず待ち合わせ場所には行くか。
侍女が耳打ちしてくる。
お嬢様、明日は荒れるみたいですよと。
だからなんだと言うのです。
行かないという選択肢はありませんの。
私、台風であろうとも行きますわ。
眠れねぇ。
ニュースなんてつけなけりゃ良かった。
布団の上でこうしてても何も変わらねぇし、誰かにお願いでもしとくか。
明日晴れますようにってな。
雨が降る。
嫌な響きですわ。
これじゃあ彼と楽しめないですもの。
意味がなくてもいいの。
でもこれだけは言わせて。
明日晴れますようにってね。
夜が明ける。
あいにく、天気予報は外れてくれなかった。
それでも二人は待ち合わせ場所に行った。
互いに来てくれることを信じて。
午前九時、待ち合わせの時間。
彼らは間違いなくそこにいた。
でも、彼らは決して会うことはなかった。
「だって俺は、」
「だって私は、」
「「彦星/織姫だから。」」
七夕伝説を現代風にアレンジしただけです。
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