ぷろろーぐ 4
ひのげんいん
◆◇同刻:職員室
紙の束はメラメラと燃え上がり、部屋全体が暖かく、熱くなってきている。
ついこの前終わったばかりのテストはすでに灰になっていた。
「…………」
その中に立っている人影が一つ。
フードを目深にかぶり、大きな外套を羽織っている。
周囲を炎に囲まれているというのに逃げもしない。
叫びもしない。
「…………」
ただ、そこに存在している。
足に火が迫ってきた。
しかしチラ、とそちらを見るだけで逃げようともしない。
地面に接するほどまでに伸びたその外套は火で燃焼するかに思われた。
「…………っ!」
めんどくさそうに足を振り払うとその周辺の炎はたちまち消えた。
突然、そもそも存在しなかったとでも言うように、一瞬で消えた。
「…………」
再び、空白。
メラメラと焼ける音だけが響く。
おもむろに広げた手の上にはいつの間にか火の玉が浮かんでいた。
「……で……し…、…ん………を、」
声のようなものが、漏れたような気がした。
「……ごめん」
手をちょい、と動かしそれを壁へとぶつける。
一際大きい炎が上がった。
新しい炎はちらっと見るだけに収め、耳に手をやった。
「ん、全部、起動、したみたい?」
何かを確認するようにこくんと頷いた。
フードが落ちて放火犯の顔が照らされる。
幼さの残る少女だった。
なぜか流している涙が、当たりに充満する炎に消されていく。
「やること、やった。わたしは、かえるよ?」
そうつぶやいて、先ほどの炎のように突然消える。
後には炎と灰だけが残った。