ぷろろーぐ 2
動くぞー
六時間目の終わりを告げるチャイムがいつもと変わらず鳴った。
黒板には、今回の授業の要点をまとめて分かりやすく書かれていた。
茶髪の少年――透夜は
「あとで写メ取ろ」
とそれを見てこぼした。
チャイムがなってから二分。
大事な部分に赤線を引ききってから、
「号令」
教師が短く言った。
チャイムがなってから雑談を始めていた生徒が黙り、間髪を入れず委員長が声を張り上げる。
「きりーつ!」
クラス中の人間が立ち上がっていった。
透夜も遅れてそれに続く。
「きをつけー!」
あるものはしっかりと指先までピンと伸ばし、
あるものは立ち上がったまま何もせず、
次の言葉を待った。
が、次の言葉は出てこなかった。
突然、聞きなれない音が――サイレンが鳴り響いたからだ。
『――火事です。――火事です』
生徒達の、まだだぼだぼな服から出る布が刷れる音。
台風が過ぎ去ってからも少しだけ吹いていた風の音。
教師がコツリ――と置いた黒板消しの音。
それらがすべて、サイレンに上塗りされる。
だがまた、そのサイレンを上回るざわめきが生徒の中から生まれる。
「え、訓練?」「訓練じゃないの?」「でも今日あるって書いてたっけ?」「日直! 今日の予定に訓練あったっけ?」「ねぇよ!」
「お前ら黙れ! これは訓練じゃない」
いつもは穏やかな教師が発した珍しく緊迫したその声で一度生徒たちは静まるが、すぐに少しまえのそれを越すざわめきが生まれる。
「待てよ、嘘だろ」「早く、外に」「ああそうだ早く逃げよ!」
生徒たちが立ち上がり、逃げようとした。
だが、またもや教師がざわめきを掻き消すように叫ぶ。
「良いから黙れ! 逃げるのは火元の場所を放送で聞いてからだ! お前ら焼け死ぬつもりか!」
「死」と言うその言葉に教室がシンとなる。
学生ならばこのスラングを使うこともよくある。
だが、それらは基本冗談で、かつあり得ないモノだからスラングとして成り立つのだ。
恐怖に震えながらも、次の放送を待つ。
『――――――発火場所は、職員室』
「お前ら、職員室周辺を通らずに落ち着いて移動しろ!」
こういうオッサン、良いよね。