馬と鹿 ゲームスタート
馬と鹿編 この二人は基本的に交互に主人公を交代させながら、VRゲームとしての異世界を堪能するお話です。
「おー!すっげぇ!!」
トクちゃんが大はしゃぎで外に出た。俺もこの光景に唖然としてる。
「マジやべぇ、感触とかマジじゃん・・・」
俺もあちこち触ってみる。土の感触、風の感じ、どう見ても現実と変わらない。
「ようこそー、ここがアナザーワールドだよー、凄いよねこれー、んじゃ改めまして、私は狐坂 紅、私がこのゲームをナビゲートするよー」
紅はのほほんとした口調で挨拶をした。
「んで、んで?これってどうやって遊べばいいんだ?」
トクちゃんが目を輝かせてる。
「んー?そうだねー、まずは魔法やってみよ?」
「うぇえ!?魔法!?マジ!?」
魔法!?そういえばあのエファナとかいう男も言っていたな。
「そうだよー。やり方としてはね、なんか集中してるとばぁーってなるよー。こんな感じー」
紅の手元に風が巻き起こった。
「説明がよくわかんないや・・・」
俺も分かんね、ばぁーってどういう意味だ。こいつ本当にナビで大丈夫なのか?
「うーん、ちょっと手を貸してね男鹿さん、えーっと、まずは簡単に目を閉じて見て」
紅はトクちゃんの後ろに回って手を取った。トクちゃん、すんげぇきめぇ顔になってんぞ。
「あれ?身体熱いよ?風邪?じゃなさうだけど・・・まぁいいやー、んでね集中してごらん。そして信じればいいよ。ここでは魔法が使えて当たり前なんだ。常識は意味をなさないって、そう願うの。そう、その感じ・・・大きく息を吸って、今だよ!」
トクちゃんが目を見開いた瞬間、あいつの右手に黄色い稲妻が纏っていた。
「うお!!出来た!!出来た!!」
「すごいよー!!よく出来ましたーー!」
二人は互いに楽しそうに喜んだ。それにしても、今のはなんだ?この女、まるで人が変わった。よく分かんねぇけど、貫録って言うべきなのか?子供が急に大人になった感じというか、なんというか。
それより、ここでは常識は必要ないか・・・常識なんて、俺には元から必要ねぇんだよ。誰が何と言おうが、今までもこれからも俺が常識だ。
俺は目を瞑って少し集中した。この感覚はなんだ?世界が教えている?魔法を教えている・・・
「はあ!!」
俺は手をかざした。すると少し離れた地面が一気に凹んだ。
「うわおっ!!さっすがいっちー!!なんとなくだけど俺じゃここまでは出来ないよ!!」
俺自身も少し驚いている。ここまでなるとは思わなかった。だがそれ以上に紅が口を開けて俺を見ていた。
「す、すごいねー。魔法の扱いはレベルが上がってないとここまでは使いこなせないのに」
「あ、そうだコレ写メろうぜ!ってあれ?」
トクちゃんがスマホを取り出した。そうだ、こんな世界でスマホなんか使えるのか?
「電源入ってないや、ていうかつかないんだけど・・・」
「あ、男鹿さん、スマホはここじゃ使えないよー。ここは一応ゲームの世界だからねー、そのスマホは只のお飾りにしかならないよー?」
「あ、そっか。よく分かんないけど」
「スマホは使えないけど、コレは使えるからねー。先に渡しておくよー」
紅は俺たちに腕時計型の端末を渡した。
「なにこれ、スマートウォッチってやつ?」
「それに近いのかなーとりあえずそれはここでの通信とか色々出来るやつだよー。まぁゲームのメニュー画面的な役割だね。とりあえずそれにはプレイ時間と自身の状態、ゲージが二つあるでしょー?簡単にHPとMPって思えばいいよ。上が体力、下が気力で一応君たちと状態はリンクしてるんだー。だからMPの方は少し減ってるでしょー?」
確かに減ってる。そしてさっきの魔法で確かに少し疲労感がある。最近の技術って凄いな。
「んでね、一番の機能としては相手のレベルを見れるんだー。まずはお互いに向けてみてー」
俺はトクちゃんに向けて腕時計を向けた、トクちゃんも同様に俺に向けた。
「男鹿 特急 レベル18。属性雷だってよ。お前のにはどう出てる?」
成程ね、いよいよゲームっぽいな、あいつがレベル18なら俺はどれくらいだ?
「いっちーね、凄いよレベル31だってさ!!属性は土だって!!」
31か、初期レベルでそれならまぁいいのか。というかレベルが相手に合わさるのか。ゲームバランスが崩れそうだな。
「へぇー馬喰さん31もあるんだーすごいねー。てなわけで。こんな感じで相手のレベルが見られるんだー。説明はこんな感じかな?一応この世界には害獣っていうのがいてそれがこの世界の住人に迷惑をかけてるから、それを退治していけばレベルはおのずと上がるはずだよー。とはいっても、ストーリーをやる訳じゃないからやってもやらなくてもいいけどねー。ここから先は好きなようにしていいよ。じゃ、私は行くね」
「え?もう行っちゃうんですか?」
「私も色々とやらないといけないんだー、通信ならいつでもしていいからね。あ、あと博士の連絡先もそれに入ってるからねー。また会いましょ。あ、それは常に肌身離さず持っておいてねー、それを元に情報収集したいから。またねー」
紅は俺たちを置いてどこかへと去っていった。
「はぁぁぁ・・・紅さん、いいよなぁ」
「なにトクちゃん、ああいうのがタイプなの?」
「い、いやそんなんじゃねぇし!!なんつうか癒しってかんじじゃん!?」
反応がありきたり過ぎだろ。
「それよりもトク。紅のレベルは見たか?」
「え?いや、やってないけど、いっちー見たの?」
「あぁ、ここはゲームとはいえそれぞれに合わせてレベルが設定されてるんだろ?俺は喧嘩には自信を持ってる、大人にも負ける気はしねぇ、けど、あいつのレベルは85だった」
「は、85ぉ!?いやいや、多分制作スタッフだから高めに設定されてるだけなんじゃね?じゃなきゃおかしいでしょ」
確かにおかしいよな、レベルというのが単純に体力に関係しているのか。それか魔法、精神力にも影響するのなら、85は精神異常者レベルじゃないのか?
俺の思い過ごしならいいんだが、どうにも違和感を感じる。ここがゲームの世界だからそれの影響なのか?それとも何か別の・・・とにかく、俺自身のレベルが上がればどういう事か分かるか。
「なぁいっちー、これからどこに行くー?」
「何でもやっていいのなら、まずはケンカだろ?レベルアップってやつもやってみてぇしな!!」
奴らは言った、ここで何をしても構わないと、ならばやる事は一つ、ケンカしかねぇだろ。
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「博士ー、あの子たちには渡してきましたよー。スマホのバッテリーも抜いておきましたからねー」
「そうか、ありがとう。これで実験が出来るな」
「そうですねー、薬を使った強制覚醒。まずは一週間通常で過ごしてもらうんでしょ?」
「そうだ、一週間後あの腕時計端末から興奮剤が投与される。わたくしが調合した特別なやつだ。それであの子たちが覚醒すれば・・・」
「実験は成功、この世界でのリスクは一気に減る」
「その通りだ、狐坂、引き続きあの子たちの面倒を頼んだよ」
「はーい、あの子たちは私が守ります・・・絶対に」
紅はエファナのいる部屋を後にした。
「さて、仕事は一旦終わりだ・・・急がなければ・・・あの子は既に覚醒に至った。次のステップに入るのは時間の問題だ。それまでに完成させなければ。次のステップに入ればもうあの子は戻っては来れなくなる」
エファナの表情は少し焦っていた。そして猛スピードでパソコンのキーボードを叩いた。