ヴォイド 不思議な出会い
ヴォイドは単身、ターゲット排除の為アダムスを目指す。
「アダムスまではあと一日かかりそうだな。今日はここまでだな」
俺はバイクに積んでおいた軍用食を取り出し口に含んだ。
「ボルシチにアヒージョ、缶詰の割に随分と豪華な物が入ってるな。しかも勝手に温まる。外気に触れると発熱するか。カイロみたいだな」
にしても、缶詰の内容、全く統一性がない。中国料理にフレンチ、和食まで世界各国の料理がある。
「ふん、国がこんな形で一つになっているなんてな。皮肉な事だ」
俺は食べ終わった後、しばらく星空を眺めていた。ここは何もない故か尋常じゃない程の星が空を覆いつくしている。
「やはりここは異世界か。地球と同じように太陽もあれば月のようなものもある。だが月の模様が違う。星も見たことのない星座しかない」
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「ん?」
僅かだが、物音が聞こえた。草むらをかき分けている・・・足音は聞こえない、小動物か蛇か?
俺は腰に付けていたハンドガンを取り出し、セーフティを外す。
「出てこい」
俺は茂みに銃口を向けそいつが出てくるのを待った。
「・・・」
『ガサッ!!』
一番手前の草がかき分けられた。俺はそいつを見て銃口を降ろした。
「ウサギ?いや、こんなウサギは見た事がないな・・・」
そいつはウサギの様に長い耳を持っているが他が違う。確かにウサギのような丸い尻尾はあるが胴体よりも大きい。そして額から角が生えている。そして何より二足で歩いていた。
「その感じは俺を標的と見ている訳じゃないな・・・」
「きゃる?」
そいつは変な鳴き声で反応を示した。そしてそのすぐあとそいつは更に変な行動に出た。
「きゃーるろ!」
そいつは突然ぷかぷかと宙に浮き始めた。
「どういった原理で飛んでるんだ?いや、ここは異世界という事で割り切ろう。この世界にはこのような生物もいるという事だ。後でこの生物について聞いてみるとしよう」
俺はそいつを無視しライフルを抱え木にもたれかかり軽く目を瞑った。
・・・・・・いつまでたっても気配が消えないな。
俺は目を開ける。するとそいつは俺の隣にちょこんと座っていた。
「あっちに行け」
「きゃるる?」
何なんだ一体、懐かれた?いや、俺は動物に好かれるタイプじゃない。猫も犬も俺を見た途端に逃げるか吠えるか、下手すりゃ襲ってくるのばっかだ。
しばらくするとそいつはぴょんと飛び上がりふわふわと飛んでいった。
俺は再び目を閉じた。
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朝だな。朝日が差し込み俺は目を開けた。
「なんだこれは」
俺の目の前には昨日のあいつがじっと俺を見ていた。そしてコロコロと何かを転がしてきた。
「缶詰?」
「きゃるる」
この缶詰、バイクの中にあった・・・俺はバイクを見ると雑だが紐を解きその中にあった缶詰を持ち出してきた形跡があった。
こいつ、かなり知能が高いのか?俺は缶詰を取り蓋を開ける。
「きゃるらん!!」
こいつは俺が開けた途端、まるで喜んだかのように宙を飛び回りだした。
「・・・まさか、欲しいのか?」
こいつ、コレを食べ物と理解し、食べ方の分かるであろう俺を利用したのか?俺は缶詰を食べ始めた。そいつはそれを見て奪いに来ることはせずただじっと俺を見ている。
「・・・・・・仕方ない、後はやる。これがお前の食えるものか知らないがな」
「きゃる!?」
こいつは驚いたような声を上げた。いらなかったって言うのか?だったらなんで持ってきた?
こいつは短い手を使って缶を抱きかかえた。そして俺の顔を見たり缶詰の中を見たりと繰り返した。
「きゃ~る!」
「なに?」
驚いた。そいつは缶詰を食べ始めた。食べる事は分かったがその食べ方に俺は驚かされた。入れておいたスプーンを持ち出しそれを使って中身を口へと運んでいる。これをどうやって使うのかこいつは完全に理解している。俺の食べ方を見て学んだんだ。
「まさかここまで知能の発達した生命体がいるとはな、オランウータン以上だ。意外とこの世界も面白いな」
俺は少し離れライフルの手入れをする。俺は一発だけ弾を込めスコープを覗いた。スコープがずれていないか確認するためだ。
「きゃる?」
突然肩にあいつが乗って来た。
「おい降りろ、というかついてくるな」
「きゃるるぅ・・・・・・きゃる!!」
こいつは何か考えたような素振りを見せるとようやくどこかに飛んでいった。
「これでよし・・・なに!?」
俺がもう一度スコープを覗くとそこにはさっきまで無かったものが映っていた。
「あの缶詰!まさか!」
俺はさっきあいつが食べていたところを見る。缶詰ごと無くなっている。俺はもう一度スコープを覗いた。
「きゃーるろー!!」
缶詰の少し離れた所であいつがぴょんぴょんと飛んでいた。
「一体なんなんだあいつは?」
一旦落ち着け、とりあえずこの銃の調整だ・・・俺はあの缶に照準を合わせ、一発の弾丸を撃ち込んだ。
『カーーーン!!』
缶は綺麗な音を立てて宙を舞った。するとあいつがそれを拾いこっちに持ってきた。
「きゃるる!」
「・・・ど、どうもな」
「きゅふふふはは!!」
こいつに俺はお礼の言葉を言うとぴょんと宙に浮かび口元を手で押さえて笑い出した。類人猿やラットが今のところ笑う動物と知られているが、こいつはそのどちらでもない。なのにこいつは今明らかに笑っている。喜びを表すかのように。
俺が珍しく興味を引く存在ではあるが今は任務優先だ。こいつにいつまでも構っている時間はない。
俺はバイクにまたがりエンジンをかけた。
「きゃーる!」
「駄目だ、ついてくるな。分かったか?」
「きゃらる?」
知能が高いとはいえ俺の言葉を理解している訳じゃないのか。
「っておい!」
こいつはバイクに積んである荷物の中に潜り込んで、頭だけをそこから出している。
「いっしょに行きたいって言うのか?」
「きゃる!!」
駄目だ、こいつは何が何でもついて来ようとするに違いない。これ以上ここでもたついていても埒が明かないな。仕方がない・・・
「俺の邪魔はするなよ」
「きゃーるるん!!」
今の言葉は理解できたのか・・・なんという自分勝手な動物だ。
俺はバイクを走らせアダムスと呼ばれる場所へと進んでいった。
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「きゃーる♪きゃーる♪」
こいつは特に何もすることなく嬉しそうに外の景色を歌いながら見ている。
「お前、名前はなんて言うんだ?」
俺はこいつに質問する。言葉の意味をしっかりと理解できてるかの確認だ。
「きゃる・・・・・・きゃぁ」
しばらく考えた行動をした後、何か諦めたように首をガクッと落とした。名前を忘れたというか、伝える手段がないという様な反応。だが理解は出来てるみたいだな。
「名前無いのか?」
「きゃる・・・」
こいつは小さく頷いた。やはり完全に言葉を理解している。さっきのは分からないふりをしたいたのか。
「じゃあ適当に、きゃるきゃる言うからキャロットって呼ばせてもらうぞ」
俺は何となくウサギっぽい見た目とこの鳴き声から適当に名前を付けた。まぁ俺がこいつを呼ぶのに使う程度だ。
「きゃる?きゃろ・・・と? きゅふふふん♪」
名前が気に入ったのかキャロットはまた笑いだした。