5-30 閑話 不屈の剛拳と呼ばれた男は
儂は一体なにを間違っていたのか。
『あんたは自分に酔ってるだけ』
あの日から数日が経った。
今も狂子の小僧に言われた言葉が頭の中を巡り続けている。
もともと儂など、どこにでもいるような格闘職でしかなかった。希少なスキルなど、いまだに一つとして持ってはいない。
それでも冒険者として大成することを諦めず、なにくそという思いで走り続けた。そして己自身の力で、堂々と栄光を掴み取ってきた。
だから儂が、儂こそが冒険者の代表として相応しく、皆を率いてゆくべきだと……そう思っていた。
それが失敗続きの焦りから、多勢で脅すような手段を取っておいてこのザマだ。
どうしてこうなったのか。
やはり……己を信じなかったからだろうか。
儂はスキルとしての《直感》など持ってはいない。それでも奴らを近くで見たとき、冒険者としての勘は最大限の警鐘を鳴らしていた。
だからこそトゥバイをできる限り諌めたが……自分の勘を信じ切れていなかったのだ。
そのせいで結局戦いになり、儂らは負けた。
我ながら老いたものだ。
「てめーイビキがうるせーんだよ!」
「ああ? だったらなんだ! やんのかオラァ!」
冒険者ギルド修練場に、怒声が響き渡る。
土の上に張られた粗末な天幕から出ると、A級の冒険者二人が胸ぐらを掴み合っていた。
他の冒険者は焚きつけるか、興味なさげに眺めているだけだ。我らを監視している騎士たちにも動く気配はない。
仕方なく、儂が止めに入った。
「やめい! くだらんことで揉めるでないわ」
男たちはこちらを一瞥すると、統括である儂に反抗的な態度を隠しもせずに舌打ちを鳴らした。
「ちっ、偉そうに」
「誰のせいでこんなことになったと思ってんだよ。あ~ぁ、冷めちまった」
そう言って二人は背を向け、離れていった。
ふっ……誰のせい、か。
ついこの間まで、儂に媚びていた者たちとは思えんな。
確かにもとを正せば原因は儂にあるのだろう。
しかしA級といえば極めて数の限られた、多くの者の憧れともなる上位の冒険者だ。それが己の行動に責任を認めることもせずに他者を責める。一皮剥いてしまえばこんなものか……なんとも情けない。
あやつらからは、儂らは皆そのように情けなく見えていたのだろうな……。
とはいえ喧嘩をするほどの気力があるのであれば、まだマシな方か。
ほとんどの者はこの数日、札遊びなどでただ時間を潰している。どこか怯えたような、腐った目をして。
無理もない。
長年戦い続け、力を磨き続けてきた者が、小娘二人に束になっても勝てなかったのだ。
それもただ負けたというだけでなく、蹂躙されたというのが相応しい負け方。
儂も含めて皆、心を折られたのだ。
……なにもわからぬまま倒されたトゥバイを除いて。
あやつの場合、それが災いした。意識を取り戻したあやつは儂の制止も聞かず、見張りの騎士をなぎ倒して飛び出していった。
そして…………。
きっとそれも、儂が招いた結果なのだろう。
儂が可愛がり、特別扱いしてきたせいで肥大した自尊心が、トゥバイに惨事を成させた。今はそう思えてならない。
後悔のため息を漏らしていると、騎士が修練場に入ってきた。
フェルティス侯爵の腰巾着であるモンドリア伯爵。その息子シグルだ。
シグルは修練場を見渡し、儂に目を止めた。
「ダンドン、来い。客だ」
シグルに連れられ、ギルドの受付に向かう。
待っていたのは──
「貴様ら……」
「どーも」
──狂子パーティーの三人だった。
ニケだったか。儂を蹴り飛ばした女は相変わらず無表情だが、もう一人のルクレツィアは険のある顔を儂に向けている。
さもありなん、トゥバイのやったことを考えれば。
そして狂子の小僧は……わからん。
珍しく女に抱えられておらず、大きな白い袋に繋がる紐を手にしている。袋の汚れ方を見るに、引きずってきたのだろう。
本人は薄笑いを浮かべているが、なにを考えているのか……。
見た目通りの子供のように感情を表に出すこともあれば、唐突に切り替わりまるで読めなくもなる。はっきり言って気味が悪い。
これ以上関わりたくないというのが本音だが、そうも言っておれん。
「セレーラは、彼女はどうなった。生きているのか?」
あの愚か者が狂子を襲撃しに行き、居合わせたセレーラに危害を加えたというのは聞いている。
だがセレーラの容態などは、騎士たちすら知らなかった。
血痕から考えれば到底無事とは思えないという話だが、狂子が彼女を……あるいは彼女の遺体を、秘匿しているらしい。
小僧は驚きを隠そうともせず、目をパチクリとさせた。
「先にセレーラさんのことを聞いてくるなんて意外ですね」
当然の反応だろう。
セレーラだけでなく、トゥバイの消息を知るのもこの者たちだけなのだ。尋ねたくないわけがない。
それにセレーラは侯爵側に立っていた。
意見が対立することなど常日頃のことだったし、腹立たしく思ったことも数え切れない。
しかし、セレーラがこの街のために働いていたのは間違いようがない。高い能力を持っていたのも嫌になるほど知っている。
だからこそこの街だけではなく、彼女自身が国全体に視野を広げるべきだと思っていたことが、ぶつかった一因でもあるが。
それに……浅からぬ因縁もある。
セレーラのことを思えば、どうしてもあの遠い日の姿が思い浮かぶ。
冒険者を夢見てリースを目指していた道すがらで見つけた……瀕死の父に縋りついて泣く、幼子の姿が。
「彼女は……狂刃で倒れていいような者ではない」
いかに可愛がっていたトゥバイとはいえ、あやつが成したことはそう表現するしかない。
「ふーん、まあ教えてあげてもいいですけど。セレーラさんは生きていますよ。生きてはね」
──なんという目をするのだ。
怒りや憎しみのような、感情の籠もったものではない。
一切の熱がないのだ。自分が穢らわしい、ただの肉塊なのではないかと思わされるような眼差し。
この儂をして心胆寒からしめるとは……なんなのだ、この小僧は。
しかし、ゆえにわかることもある。言葉以上に、その目が雄弁に語っている。
セレーラの容態が芳しくないことを。
「僕はこうなったのはあんたのせいでもあると思うんですけどね。このことについては許してやれと言われているので、責めるつもりはありません」
「言われている? それはセレーラにか」
肯定も否定もなく乾ききった視線だけが返ってきたが、恐らくはそうなのだろう。セレーラに意識はあるということか。
「まあもちろんコレは許しませんでしたけど」
少しだけ胸を撫で下ろしていた儂の方に、小僧は引きずってきた袋を転がして寄越した。
「返します、コレ」
許さなかった……か。
覚悟はしていたが、きっとそういうことなのだろうな……。
しかし、紐で口が縛られ中身の見えないその袋は、あまりにも奇妙だった。
まず大きさがおかしい。
最悪首だけになって帰ってくることも考えていたが、それにしては袋が大きい。
ただそれも、狂子の小僧でも入り切るかどうかの大きさでしかない。大の大人が収まるものではない。
なによりも、あまりに丸々としすぎているのだ。ぶれることなく、真っ直ぐ儂の足元に転がってくるほどに。
それに地面に接している部分の潰れ方から、かなりの柔軟さが見て取れる。
躊躇いながらも開こうと手を伸ばしたその時、横から喚き声が聞こえてきた。
なにか揉めているようだが、徐々に近づいてくる。
「このっ、大人しくしろ!」
「離して! 離してったら!」
この声は……。
案の定、しばらくして姿を見せたのはオリアナだった。
トゥバイのパーティーメンバーである彼女が、騎士二人を引きずるようにして修練場から出てきてしまったのだ。
「馬鹿者、なにをしておる!」
「だって……あっ、い、いたっ。貴方たちトゥバイをどうしたの! トゥバイを返して!」
狂子たちが来たことを知って、飛び出してきたのか。
オリアナは回復メインの魔術師ではあるが、それでもS級に相応しい能力を持っている。連れ戻そうとする騎士たちも手を焼いていたが、そこにシグルが向かった。
そしていとも簡単に、オリアナの腕を捻り上げる。
後ろ手に回されたオリアナが苦痛に顔を歪める中、騎士に対してのシグルの叱咤が飛んだ。
「お前たち、女相手だからといって容赦などするな! 同じ失敗をするつもりか!」
儂らの監視を仕切っていたシグルにとって、トゥバイの一件は痛恨の極みだったろう。
それにセレーラとも親交が深かったはずだ。あれ以来ずっと、張り詰めた空気をまとっている。
「ああ、ソレのパーティーメンバーの人ですか。あのとき回復魔術使ってた」
そう言った小僧の口の端が、禍々しく弓形に釣り上がる。
「シグルさん、離しても構いませんよ」
「しかし……」
「大丈夫です。ちょうどトゥバイを返したところですし。ほらお姉さん、そこにいますよ」
「なっ、小僧!」
袋を指差す小僧を見て、訝しみながらもシグルはオリアナを離してしまった。
「トゥバイ!」
袋の異様さを気にも留めず、儂を突き飛ばしたオリアナが袋の口に手をかけた。
「よせ、オリアナ!」
たたらを踏んだ儂だったが、慌てて袋を掴み、奪おうと引っ張る。
だがそのせいで……引きずってきたためにほつれていたのか、いとも簡単に袋が裂けた。
わずかに浮いていた袋から飛び出たそれが──トゥバイだと言っていたそれが、べチャリと床に落ちた。
「…………え?」
疑問の声を上げるオリアナ同様、儂にもそれがなんなのか理解できなかった。
静寂の時が流れたのち、今度は頭が理解することを拒んだ。
なにかの形をしていたモノを、溶かして雑に丸めたような柔らかな球体。
それだけではなく部分部分で透けていて、薄紅色の臓物が見て取れてしまう。
……煮こごり、といっただろうか。
昔海沿いの街で食べた料理を思い出して吐き気を催すが、ぐっとこらえた。
これが…………こんなものがトゥバイだというのか。あまりにも奇怪過ぎて、トゥバイとこれが結びつかぬ。
だがそれを証明するかのように、特徴的な群青の毛束が外に飛び出たり、内に透けて見えていた。
受け入れがたい現実を前に、呼吸すら忘れる儂やオリアナが見つめる中──突如としてそれが震えた。
「まさか、これは──」
──生きているのか。
問う前に答えが出た。
上部に位置していた、輪郭すら溶けかけた顔。そこについている目が開く。
そしてわずかに彷徨ったのち……その瞳が儂らを捉えた。
「ぁ、あ…………イヤアアアアァァァァアァア!」
爪を立てるようにして頭を抱えたオリアナが、絶望に天を仰ぐ。
あまりの精神的負荷に耐えきれなかったのだろう。そのまま後ろに倒れたオリアナは、意識を飛ばしていた。
「ありゃ、白目剥いちゃってる。ヒドいお姉さんだなー、ちょっと見た目が変わっただけじゃん。こういうのに限って、人は見た目じゃなくて中身が大事、とか言うんだぜ。肝臓以外はあんなに健康そうなのに」
「その中身ではないと思うぞ」
「ちょっと変わったどころではないですしね」
イカレている……小僧だけでなく、これを見ながら笑みを浮かべる女二人も十分に。
これにはトゥバイを憎く思っているはずのシグルも、極限まで顔をしかめていた。
「ここまでするとは……一体なにをしたらこうなる……おい、女を連れて行け」
吐かないように口を手で押さえていた騎士に命を出す。これ幸いと、騎士の二人はオリアナを抱え、そそくさと修練場に逃れて行った。
「貴様ら、いくらなんでもこれは……自業自得と言うには、あまりにも無惨ではないか……」
……自分の抗議が口先だけなことに、我ながら驚く。
トゥバイの変わり果てた姿に、もちろん怒りは湧き上がっている。
しかし、それは制御できないほどの激情とはほど遠い。
半ばトゥバイのことは諦めていたというのはあるが……心を折られたということを、改めて痛感する。己の中にあったはずの牙はすっぽりと抜け落ち、影も形もない。
そんな自分に対する情けなさの方が、怒りよりも強く感じるくらいだ。
「せっかく生きて返してあげたのに、なにが不満なんですかねえ。もっともそれはもう元には戻りませんし、飯も食えないので死ぬしかないですけど」
小僧の言う通りもう限界が近いのか、再びトゥバイの目は閉じられる。
これ以上見世物にしてはならぬと思い、破れた袋でその体を隠した。
興味なさげにそれを見ていた小僧が顔を向けると、向けられたルクレツィアが小僧を抱え上げる。
「では僕たちはこれで帰りますが、こうなりたくなければ、くれぐれも大人しくしているよう皆さんにもお伝え下さい」
恐らくトゥバイをここまで破壊したのは、見せしめという面も強かったのだろう。そんなことをせずとも、噛みつくような者はもういないというのに。
立ち去ろうとする小僧たちを憎く思うし、去ることに安堵もしている。
しかし一方で、どうしても引っかかっていることがあった。
「待て! ……待ってくれ。一つだけ教えてくれ」
こらえきれずに呼び止めてしまうと、きびすを返そうとしていた三人が立ち止まる。
ルクレツィアの後ろに続こうとしたニケに、儂は顔を向けた。
「お前は言っていたな。儂がエルグレコの言葉を勘違いしていると。それは一体どういう意味だ」
聞くに値しない痴れ言……そのはずだ。だがこの女の底知れない佇まいに、尋ねずにはいられなかった。
トゥバイをこのようにした者たちと、口など聞きたくないはずなのに……すまぬ。
「そのことですか」
「ああ、そういえば言っていたな。私も気になっていたのだ」
そう言うルクレツィアに対し、小僧は全く興味がなさそうにしている。
「えー……どうでもよくない?」
「まあそう言うな。ニケ殿、勘違いというのはなんのことなのだ?」
やれやれと小僧が肩をすくめるのを見て、ニケが話し始めた。
「そうですね……あのときも言いましたが、確かにエルグレコはあの者の言う通り、『冒険者ギルドは冒険者のためにあれ』と口酸っぱく周囲に言っていました。ですが、そもそも冒険者とは誰のことを指していたのか、という話です」
「誰のこと……なるほど、そういうことか。セレーラ殿が慧眼の持ち主だと、改めてわかるな」
なぜセレーラが出てくるのかわからぬが、ルクレツィアは理解したようだ。ニケの微かな笑みが、正解だと言っている。
「わからぬ、どういうことだ」
回りくどい言い方に苛立つ儂に、ニケが向き直った。
「でははっきり言ってあげましょう。今で言う冒険者は、当時は冒険者などとは呼ばれていなかったということです。昔は三部門に別れてなどいませんでしたし、彼らを指す言葉はありません。言うなれば冒険者ギルドのただの構成員でしかなかったのです」
冒険者が冒険者ではない……?
待て……それが事実であれば、話が全て違ってしまう。
「そして構成員の実態はといえば、力はありながらも軍などの規律に馴染めないような、力を持て余していた者たち……言ってしまえば『ならず者』ですね。エルグレコはそのような者たちを集めたのです」
「己の腕一本で生きてるようなやつらのことだな!」
小僧がこちらを見てニヤニヤしている。なんと嫌味ったらしい。
「ふふっ、そうですね。理由としては、そのような者たちが少しでも真っ当に生きられるようにということもありましたが、それ以上に安く使えたからです。そしてなんのためにそのような者たちを集めたかといえば──」
ここまでくれば、儂にもわかる。
今の冒険者が冒険者ではないというなら、他にいるのだということが。
「本当の冒険者のために……か」
ニケがゆっくりと頷いた。
「危険を冒してでも信じた道を征く者──冒険者とは、本来そういった者を指す言葉でしょう? その言葉通りの冒険者に助力するため、エルグレコは冒険者ギルドを立ち上げたのです」
つまりエルグレコが言っていた冒険者というのは、ギルド内部の者ではなかったのだ。どちらかといえば、依頼者側を指していたということか……。
「わかりましたか、貴方の大きな勘違いが。貴方の目指したものが無価値とは言いませんが、それはエルグレコの目指したものとはまるで違うのです」
なぜ儂も知らぬようなことをこの女が知っているのか、そしてそれが真実なのか儂にはわからん。
しかし、過去の文献の中で今一つ理解できなかった記述があったが、これを当てはめれば理解できてしまう。
それにニケの気負いのない、さも当然のように言う態度を見れば、少なくともこちらを騙す気などないのはわかる。
「そうか……」
目の覚めるような思いに、それ以上言葉を紡げなかった。
同時に儂がなにを間違えていたのかを理解した。
儂は冒険者という言葉だけしか、表層だけしか見ていなかったのだ。本質を見失っていたのだ。
なんと薄っぺらい……エルグレコの遺志を継ぐなどと、よくも言ったものだ。これでは己に酔っていると言われて然るべしだろう。
儂ほどではないものの、シグルや職員など聞いていた者たちも皆、冒険者ギルド発祥当時の話に驚きをあらわにしている。
だが……そんな中、小僧ただ一人がつまらなそうに鼻をほじっていた。
「うーん、やっぱりどうでもいい話だったな。さっさと帰ろうぜ」
……人の心を持たぬ小僧を抱え、ルクレツィアが呆れたように笑う。
「全く……またお前は。私は偉人の生き方や考えから学べることは多いと思うぞ」
「いや、だってエルグレコがやったのってあれだよね。単に大バカ者がやろうとすることを、バカ者どもに手伝わさせたってことだろ。そのシステムを形にした行動力は凄いと思うが」
「大バカって……そんな乱暴な」
「ふふ、ですがあながち間違ってはいないかもしれません」
「だろ? ほら、どうでもいいじゃん。バカはもちろんだけど、大バカにもなりたくないし。クレバーに、平穏無事かつ面白おかしく生きてくのが一番だ」
……真顔で言っていることに、驚きを通り越して恐怖を感じる。この小僧には自らの行いがどのように見えているのだ。
だいたい平穏無事と面白おかしくというのが矛盾しているではないか。すでにクレバーではない。
「なあニケ殿、大バカ者を超えるバカは果たして何者になるのだろうな」
「さあ……楽しみですね」
そう言って笑いあった二人と、理解できずに首を傾げている小僧は、今度こそギルドを出ていった。
「ふぅ……本当に嵐のような者たちだな」
誰に言うでもなく、シグルが独りごちた。
嵐か……負けるわけだ。
薄っぺらな儂など、木っ端のように吹き飛ばされて当然か。
もはや役職に固執する意味も気力も消え失せた。
それでも……最後の務めは果たさねばな。
「シグルよ、街の外に出たい。付き合ってくれぬか」
顔をしかめたのは理由が掴めなかったからではなく、トゥバイに対し思うことがあるからだろう。
それでもシグルは応えた。
「……剣も貸そう」
「助かる……いや、やはりいらん」
せめて幾度か食らわせたことのある、儂の拳骨で送ろう。
そう思いトゥバイを抱え上げる。
その体は、見た目よりも遥かに重く感じた。




