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5-7 もっとヌトヌトギラギラにしたかった



「その太腿の危険な隙間は、なにも俺の趣味で生まれたわけではないのだよ」


 本当は今回インナーとして、全身にタイトにフィットして覆い尽くすボディスーツを作ろうとしていた。

 でもさすがにそこまでは無理だった。関節部の動きを阻害しないように柔軟性を高めると、脆くなりすぎてしまうのだ。

 結局、着やすさやメンテナンスを考えてパーツごとバラバラにした方がいいという結論になったのである。


 上着についても今はノースリーブだが、別パーツから構成されるいくつかの袖の案がある。あとでそれぞれ選んでもらう。


 ちなみにサイハイだけでなく袖や上着にも少し使われているが、黒く透けている素材はボディスーツの失敗から生まれた。毎度世話になってるスライム混ぜのアダマントである。強くはないが、よく伸びるのだ。


「ハァハァ……趣味ではない、など、信憑性が皆無、ですが……これほど、荒ぶっておいて……」

「趣味で生まれたわけではないとは言ったが、趣味ではないなどとは言ってないぞ」

「うぅ……もう、こんなに……汚れてしまったの、だが……」

「大丈夫、替えならいくつも作ってあるから」


 まだ起き上がれない二人をスポーンスポーンとやって、新しいのを着せてあげた。

 更に腰に新たなパーツをつけていると、ようやく二人はヨロヨロと立ち上がった。


「なるほど……これならば問題ありませんね」


 ニケの腰につけたのは、スネまでの長さの巻きスカートだ。

 軽く右膝を上げればスリットからこぼれ出るおみ足が、とてつもなくセクシー。


「動くのにも支障はなさそうです」

「私も動くのは支障はないが……」


 ルチアの方は、膝上十センチの腰巻きだ。

 その前部は大きく空間が空いている。


「なぜ前を閉じてくれなかったのだ」

「そっちの方が動きやすいだろ? ルチアは腰を落として踏ん張ることも多いし。デザイン的にも後ろは尻尾を収めるようにボックスプリーツになってて重たいから、前は軽やかであるべきだ。それに」

「ああわかったわかった……まあこれくらいならいいか」


 俺の完璧な理論に納得したルチアはわかっていない。

 チラリズムする健康美がどれだけ不健全なのかを。


 一番の山場であるルチアの説得という大仕事を終え、次はこの上につける鎧だ。

 鎧については作る前から相談していたので、揉めることもないだろう。二人に教えながら装着していく。


 袖に関しては、ルチアは腕と肩周辺を別パーツで包む諸籠手を選んだ。これは袖と鎧が一体となっているし左右も繋がっているタイプで、着用しやすさが決め手となった。

 ニケは《無限収納》から直接装備できるので、着用しやすさではなく運動性重視だ。肩はむき出しになるが、二の腕から先を包むアームカバーにした。その上からごつい籠手をつける。


 全体的なデザインとしては、日本の具足要素を取り入れるという方向性は今までと変わっていない。

 大きく変わったのは鎧の厚さだ。

 アダマントの密度は大きいが、重量比での強度は非常に高い。なので薄くしても、今までの防具より防御力が高いものができたのである。


 それに伴い、今までは動きの阻害を嫌って籠手とすね当てだけだったニケも、胸当てと腰回りの装具をつけることになった。

 そして二人ともにカチューシャ型の頭部防具、顔の輪郭部につける近未来フェイスギア的な頬当てが追加された。

 頬当てに装着できる面具も、口から上を隠すタイプと目から下を隠すタイプを作った。これは威圧的すぎる見た目のせいで、二人は拒否。かっこいいのに……まあいつか正体を隠して行動するときにでも使う日がくるだろう。


 全てを装備したニケがチェックのために軽く動いているが、問題なさそうだ。

 ルチアも肩当てや、腰巻きの上に重なる草摺(くさずり)など含め全防具をつけて動いていた。しかし、ふと立ち止まってジッと籠手を見ている。

 ふふふ、あれに気づいたか。


「主殿、これは意図的な模様なのだろうか?」


 籠手だけでなく、鎧全体の表面にはわずかに赤みがかった部分が存在している。

 ルチアが不思議がっているのは、色の差が目を凝らさねば気づかないほどあまりにわずかだからだろう。


 しかしその模様こそが、この鎧最大の目玉なのである。


「ルチアよ、よくぞ気づいてくれた。そうだな……あれこれ説明する前にやってもらおうか。胸当てなんかは分かりやすいだろ。左胸の模様に手を当てて、魔力を流し込んでみてくれ」

「この部分はアダマントではないのか?」

「アダマントだよ」

「アダマントの魔力伝導率でまともに流せるのか?」

「いいからいいから」


 訝しげな表情を浮かべながらも、ルチアが胸当てに手を当てる。

 部屋を少し暗くして待つことしばし……胸当てはうんともすんとも言わない。


「やはり流せないが」

「ええ、流れませんね」


 一緒にやっていたニケも上手く行かないようだ。おかしいな。


「ほら、こう、ヌーって感じじゃなくて……ドゥーン、は言い過ぎか、トゥロンって感じで」

「ああ、なるほど」

「魔法を使うときのようにすればいいのですね」


 よくスポーツやってて妹とかに俺の教え方は下手くそだと言われたが、なんのことはない。残念だが妹に感性が足りなかっただけだろう。現にこうしてしっかりと伝わっているのだから。


「む……なかなか難しいな」

「そうですね」


 ちゃんとイメージは湧いているようだが、なぜか二人は手こずっている。簡単だと思うんだけど。

 しばらくして、ようやく変化が起こった。


「できましたが、これは……」

「こちらもできたようだ。模様が光って……ずいぶん禍々しいな」

「悪魔でしょうか」


 こちらの世界にも、悪魔と言っていいような存在が神話などで出てくる。それは魔族とは別物だ。

 これは悪魔じゃないけどな!


「花だよ! 花にしか見えないじゃん!」

「なるほど、言われてみれば」


 薄暗い部屋の中、二人の左胸に煌々と輝くのは、橘の花。

 本来の花の色である白ではなく、赤だけど。


 その赤い光は花だけにとどまらず、胸当て全体を巡る模様を浮かび上がらせた。木の枝や葉っぱのような、植物模様だ。

 二人は鎧の他部位にも触れ、魔力を通して輝かせていく。


「それなりにMPを使うか。それにしても、花だとわかれば美しいな」

「ええ。まるでシータのようですが……同一の機構なのでしょうか」

「うん、機構としては同じだ」


 シータも人形繰りを発動するために魔力を流すと、魔力を籠もりやすくしている部分が赤く光る。

 俺はこれを、生物の体内にあるとされている魔力経路に響きを寄せて、魔血留路(まけつりゅうろ)と呼んでいる。

 ただ、旧シータの場合は人形繰りでの運動性を高めるために用いられていたが、この鎧や新シータはそうではない。


「機能は違うけどね。そこに留まった魔力が周囲にも浸透して、鎧の全体的な防御力が上がるんだ」


 いい具合に浸透してくれる理由は、恐らく同一個体の素材を使っているからだろう。

 魔血留路の名前そのままに、アダマンキャスラーの血液とか使っているのだ。


「上昇率は一.一倍から一.二倍程度だけど、強敵相手にはちょっとでも硬くなっときたいだろ? 一度やれば結構長持ちするし、MP使う価値はあるはずだ」


 二人のために頑張って開発したのだが、半開きに口を開けた二人は反応してくれない。

 少し経って、ようやくニケが呆れたように首を振った。


「アダマントを強化など……また前代未聞なことを」

「できたのは偶然なんだけどな。素材あってのことだし」


 実は二人の籠手やブーツやすね当ては、全てをアダマントで作ってはいない。アダマントの極低魔力伝導率のせいで、全部アダマントで覆ってしまうと魔法などが上手く使えなくなるからだ。

 それをなんとかできないかとあれこれしていたら、これがあれそれしたのである。

 本来の目的は果たせなかったが、強度や魔力伝導率、魔力保持性が良バランスの素材が生まれたのはラッキーだった。


 ルチアはずっと口をパクパクさせていたが、ようやく声が出た。


「盾職にとって、いや、武人にとって、アダマントがほんの少しだけ使われている装備ですら、それ以上を考えつかないほどの物なのだが……」


 ルチアは俺の前に来て、俺を正面から持ち上げた。

 そして珍しく、ルチアの方からあちこちにチュッチュしてきた。


「どした?」

「うん……私も世に名だたる名品を見聞きする度に心躍らせたものだ。いつの日か私も、と。それがアダマントどころか、それを超えた物を纏っている……なんだか現実とは思えなくてな」


 俺をムギューっとしながら、嬉しそうにくるくる回る。

 喜んでもらえて俺も嬉しいが……武具でこんな珍しい浮かれ方を見せるルチアの戦闘狂さよ。


「そもそもこれを作れたのはルチアのお陰なんだがな」

「ふふ、そうですね。そういえばマスター、これはなんの花なのですか?」

「橘だ。俺の家名の花だよ」

「タチバナというのは、植物の名前だったのですね」

「ああ。柑橘系の実がなる木で、花言葉は『追憶』だ」

「……追憶、ですか」


 ニケはどこか神妙に、噛み締めるように呟き、ルチアはピタリと動きを止めた。

 でも別に俺は、日本に心を囚われているわけじゃない。


「元々いた国だと、どんな家にも家紋があったんだよ。それをちょっと変えて、これをこっちでの家紋にしようかと思って」


 元のコロッとしてた家紋も悪くなかったが、少し可愛すぎた。なので、よりシャープで優雅なアール・ヌーヴォー調? にしてみた。

 追憶を超えて、こちらで新しい家族を作るのだ……などと言ったら格好つけ過ぎかな?


「主殿がいた国では、貴族以外でも家紋が持てるのか……今更主殿の家紋を私が背負っていいのかなどと聞く気はない。だがそんなものが刻まれているとなると、この鎧は傷つけられないな」

「鎧を守って体を傷つけでもしたら怒るからな。新しい盾にも家紋は入ってるから諦めろ」


 その新しい盾と、必要に応じて着る陣羽織風のアウター(袖は着脱式)で、新装備のお披露目は終了だ。


「想像を遥かに超えた充実さでしたね」

「全くだ。しかし、アクセントの問題というのはなんだったのだ? もう完成しているようにしか見えないが」


 ん? なにを言っているんだルチアは。


「いや、黒いじゃん」


 一応金や銀で装飾や縁取りはしているが、それ以外は黒一色なのである。


「そうだな、アダマントだからな…………あー」

「……色ですか」

「そりゃあ光りはするけど、基本が真っ黒なんてつまんないだろ? でも塗装でなかなかいい発色が出ないんだよねー。なんとか蛍光色っぽい黄緑とかピンクとか乗せられるように頑張って研究してるから、期待して待っ──」





 なぜかな。

 ニケは一部に白、ルチアは一部に黄色を入れるだけで終わりにさせられたんだけど、なんでなのかな。


「これで準備は整いましたね」

「ああ。あとは進むだけ、だな。主殿」


 うん、そうね……。




あくまでもラフなイメージ的な装備の絵が活動報告にあります。

ヘタな文のせいでイメージが湧きづらい方は見てもいいかもしれませんし、見ない方がいいかもしれません。

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