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6-38 拘束ついでに亀甲縛りにチャレンジしようとしたらセラに怒られた



「ただいま……」


 復讐を終え、ラボにルチアが帰ってきた。

 一人ですっきりして帰ってくるルチアに思い切り文句を言って、今日の夜は目一杯イジメてやろう。


 そう心に決めていたのに、なぜかルチアは肩を落として落ち込んでいた。


「ど、どうした? せっかく仇を討ったのに……うまくいかなかったのか? まさか逃げられたとか!?」

「いや、そうではない。私なりに精一杯やった。やったが……私自身、一体どこまで本当でどこまで本気で言っていたのかわからなくなったというか……」


 どうやらケジメはつけたようだが、なにかゴニョゴニョと呟いている。

 そこに飛んだのは、ニケの軽口。


「なんですか? ついに自分のイヤらしさに気づきでもしたのですか?」


 いつもどおりの軽口であり、いつもどおりであればルチアはそんなことはないと怒ってみせるのだが……今日はそうならなかった。


 クリティカルヒットを食らったかのように、「うぐっ」とうめいて胸を押さえた。

 そしてヨロヨロと、セラの膝に座る俺の前まできて膝をつく。


「シンイチ……私がイヤらしい女でも、そばに置いてくれるか?」

「拒絶する理由はないし好きなだけイヤらしくなるといいけど、ほんとどうした? 大丈夫か?」

「すまない、いろいろなことがありすぎて……でも大丈夫だ」


 師匠のことはあったしようやく復讐を果たせたしで、感情がグチャグチャになっても仕方ないだろう。


 取りあえず全然大丈夫じゃなさそうに、潤んだ上目遣いでしがみついてくるルチアの頭を撫でる。

 捨てられた子ネコみたいで、イジメる気だった俺の邪気が払われてしまった。

 今日の夜は目一杯優しく可愛がって癒してあげることにしよう。


 そう心に決めていると、なぜかニケは爪を噛み、セラは恐れおののいていた。


「くっ、ルクレツィア、貴女はどこまでイヤらしいのですか」

「どの程度狙ってやっているのかしら……底知れませんわね」

「どったのキミたち。まあともかくこれで実行犯は始末できたし、多少はうらみも晴れたろ。よかったなルチア」


 撫で心地のいい癖っ毛ヘアをわしゃわしゃすると、ルチアは素直に「うん」と返事して体を離した。


「こう言うのが適切なのかわからないが……ありがとう。二人も」


 どういたしましてと返事する二人と微笑みあってから、ルチアが切なげに息を吐く。


「ただうらみは晴れたが、あいつらも昔は仲間だったからな。当時のことを思い出すと少し悲しくはなるというか、しばらく引きずってしまうかも……あ、いや、なんでもないんだ」


 ついポロリとこぼしてしまったルチアが、心配させないように慌てて首を振る。

 そうか……ならば思い出して落ち込んだときは、また俺が優しく慰めてあげよう。


「ルクレツィア……」

「底知れませんわぁ……そ、それであとは、ジミエンという上司の方と──」


 なんか顔を引きつらせているセラの言葉をそこまで聞き、神妙な顔でルチアはうなずいた。


「ああ……アドラスヒル様に会って真偽のほどを確かめたい。つき合ってくれるか」

「当たり前だろ。よし、じゃあ早速」


 帝国に転移しようと思ったら、セラにほっぺを引っ張られた。


「もうっ、まだですわよ。まずはミサオさんたちを追いかけませんと」


 すっかり忘れてた。


 それから足跡をたどり、その日のうちに操たちに追いつくことができた。


 先に逃げていた連中は帝国冒険者に追いつかれていたらしいが、勇者が食い止めているところに操たちが合流。挟撃される形になった冒険者は早々に撤退し、獣人に大した被害は出なかったそうだ。


 もう慌てて逃げる必要はなくなったが、情勢がわかるまではみんなまとめてイヌ系獣人のもとに身を寄せることになり、俺たちは一路、西へと向かった。




 そして二週間後──東へ赴いていた者たちが、俺たちのいるイヌ系獣人の村に戻ってきた。

 疲れ果て、意気消沈といった様子の獣人たちだったが、思っていたよりもその数は多かった。


 その様子からしても結果など聞くまでもなかったが、その中に混じってクマ獣人のポーラさんの家族も来ていたようだ。

 彼女を通して事の顛末を教えてもらった。




 まず東へ向かったトゥーブさんやシャニィさんたち獣人は、帝国を待ち受けるために陣を張り援軍を待った。

 しかし援軍として到着したはずの、東に残っていたネコ系獣人やその一派が剣を向けた先は、同じ獣人たちだった。


 混乱する他の種族に向けシャニィさんが告げたのは、降伏勧告……そして──


「驚いたぞ、シャニィ殿がまさか国を作ることを考えていたとはな」


 ──建国宣言だった。


 以前からシャニィさんは集会所がある場所に獣人が誰でも住める街を作り、そこを(みやこ)として大樹海を一つの国にしようと考えていたのである。

 獣人が一丸となって、各国と渡り合っていくために。


 しかし、自分たちだけで国を主張し領土を主張しただけでは、今までと大差がない。他国の者たちは好き勝手に森に入ってくるだろう。

 特に聖国が獣人の国を認めるなど、ありえるはずがない。

 頭を悩ませているところに始まったのが、帝国の大樹海への侵攻だ。


 今回の帝国侵攻において、まず初めから帝国と通じていたのは本当にイタチ獣人だった。

 彼らは帝国に情報を流し、内樹海を帝国が進んでいたときは妨害するフリをしていただけなのだ。そのことを援軍として向かったネコ系獣人が突き止めた。


 当初はイタチの裏切りに憤慨したシャニィさんだったが、妙案を思いつく。


「建国など、今までの獣人の生き方を考えれば意外と言うほかありませんね。しかも帝国の侵攻に加担する代わりに、自分が作る国を帝国に承認してもらって国交を結ぼうとは」


 ──帝国と強固に同盟を結べばいいのだと。


 帝国の目的はやはりドワーフだった。狙いは火薬関連と見ていいだろう。

 それに加担すれば代償として大森林が切り開かれて、縦に突っ切る道が通ることにはなる。しかしそれも建設予定の街の発展などを考えれば、悪いことばかりではない。

 あとは自分たちの気持ちの問題と、関係が悪いわけではないドワーフだが……背に腹は代えられなかった。


 そこでシャニィさんはイタチを伝い帝国とコンタクトを取り、手を結ぶことに成功した──拍子抜けするほど簡単に。

 その申し出は、帝国にとっても決して悪いものではなかったのだ。


 帝国としては大樹海の統治に興味はなく、ドワーフが住む火山群との輸送ルートさえ確保できればそれでいい。

 今までは種族ごとにバラバラだった獣人の考えがまとまり、ルートの安全が保証されるというのであればそれ以上のことはない。


 といってももちろんそれは、『今のところ』だろうが。

 今後、大樹海も治めることを目論むようになるかもしれないが、今その予定はないのだ。


 そして同盟はお互いにとって対他国、とりわけ対聖国という面でメリットがある。共闘までするかどうかはこれから次第だろうが、少なくとも聖国は両者に対して動きづらくなる。


 やっぱりこういったところは聖国の在り方の弱点だろうな。

 仮にどれだけ不利益を(こうむ)ろうが、彼らは獣人と手を組むことはできない。必ず敵とせねばならない。自ら選択肢を減らしているのだ。

 したがって周りは、それを踏まえて戦略と戦術を練ればいい。


 今はまだ獣人の力は小さいから計算に入らないが、これから伸びてくることがあれば、その弱点を突いて帝国や周辺国は仕掛けていくかもしれない。俺はそう期待している。


 とまあ、見え隠れする聖国の衰退はさておき、シャニィさんたちネコ系獣人は内密にことを進め、ついには二週間前の決戦でイヌ系獣人一派を服従せしめた。


 この大樹海に、獣人の国が産声を上げることになるのだ。


 しかし、その決戦についてはいささか疑問が残る。


「それにしてもなぜ帝国と共に反対勢力と戦うことをせずに、自分たちだけで決着をつけることにしたのかしら。やはり勇者や私たち不確定因子を排除するためかしら」


 たしかにあれほどの帝国の軍勢を使えば、より楽に確実に勝利を収めることができると普通は考えるはずだ。

 初戦でも帝国を利用して、イヌ系獣人を削ったのだし。


「考えても実際のところはわかんないし、本人に聞いてみよっか」


 俺はニケから降りてしゃがみこんだ。

 そしてガムテープをピッとはがす──アダマント製の(かせ)で手足を封じられている、筋肉質な女性の口をふさいでいたやつを。


「ってことで、教えてプリーズ」


 ここはあぐら大岩集会所。

 拘束され足元で転がっているのはネコ系獣人の長、シャニィさんである。



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