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6-21 筋肉では負けるが大きさは完勝だった 1




 帝国とは戦わず、傾国の美女たちとベッドで何戦か交えた翌日の朝、外に出た俺たちを待っていたのは数多の恨みがましい視線(ジトメ)だった。


 そして夕方には一際大きなぱっちりジト目が訪ねてきた。

 ネコ系獣人の筋肉セクシーシャニィさんだ。

 おまけで筋肉ダルマ夫レノンさんも。


「昨日は一杯食わせてくれてありがとねえ。お陰で内通者を捕まえられたんだから」


 ティルたちのテントで勇者に囲まれながらも、シャニィさんとレノンさんは悠々とあぐらをかいている。

 その口は()の字だが。


「喜んでもらえたようでなによりです。良心の呵責に耐えながら、皆さんを騙した甲斐がありました」

「ったく、嫌味の一つも通じやしないよ。大した子だねえ」


 俺には初めから獣人の戦いに参加する気などないのだ。当然あんな夜襲からの火計なんて策は嘘っぱちである。


 真の狙いは、それによって内通者をあぶり出すことだった。内通者が本当にいるのであれば、その存在が動くタイミングを絞りたかった。そのための即出撃案だ。即出撃とあれば、帝国に伝達するためには内通者も即動かねばならなくなり、そこを捕らえたかったのである。

 それもあまり小規模な作戦では内通者が動かないだろうから、あそこまで大袈裟にする必要があったのだ。


 もちろんそれでも動かなかったり、そもそも内通者なんていないという可能性はあった。かなりレアだが、遠距離通信可能なスキルもある。

 だが、もし空振りになっても獣人たちの準備し損というだけなので、大した問題ではない。実際捕まえられたようだし。


 そして内通者を捕まえた功労者は──


「まさか誰にも本当の策を伝えないまま寝てるとは思わなかった」


 ──今日五回目の同じ発言をした、これまたジト目の操とその隣で頷いているティル。それとここにはいないが、二人の率いた警戒の得意なミーアキャット獣人たちである。

 集会所に突撃する前に操とティルにだけは真の策を伝え、帝国軍方面へのルート上に網を張らせておいたのだ。

 そうして操たちは、見事内通者を捕らえたのだ……が。


 作戦通りに内通者を捕らえましたと言って意気揚々と戻ってきた操たちを迎えたのは、なにも知らない獣人たち。

 もちろんとうの昔に出撃準備を整え終えているのに、一向に姿を見せない俺を待ちぼうけて長たちはブチ切れている。油とか魔術とか、俺たちは偽の策の要だったから、彼らだけで出撃するわけにもいかなかったのだ。


 操たちはそんな彼らに取り囲まれ、「あなたたちは騙されたんですよ」と説明することを余儀なくされたのである。ティルが半泣きで操の後ろに隠れている姿が、ありありと目に浮かぶ。


「ほんとひでぇよなあ。俺たちにまで内緒にしとくなんて」


 一番伝えてはいけない声がでかくて迂闊な吉田がほざいているが、スルーして操に目を向ける。


「だから言っただろ。下手なタイミングで本当の策が周りにバレたら、内通者の仲間がお前たちを始末しに向かう可能性とかも考えられたんだから、絶対にバレるわけにはいかなかったんだ」

「それは聞いたけど……正直すごく後づけっぽい」


 ふむ、バレたか。

 実際はルチアのピョンコン様計画が頓挫した時点でこの策に興味が無くなったので、放っておいただけである。もしピョンコン様計画が続いていれば、ノリ次第では本当に夜襲しに行った可能性も……ないかな、たぶん。


 それに昨日お風呂でイチャイチャしていたら、今気まずそうに目をそらしている三人にも火がついてしまい、ずっと離してくれなかったので仕方ないのだ。


「疑うなんてひどいじゃないか。部外者なのにこんなに手伝ったんだから、もっと感謝してもいいんだぞ」

「まあ……それは感謝するけど」


 全然心のこもってない謝意を示す操の逆サイドから、誰かのぼやきが聞こえてくる。


「また『部外者』、かよ……」


 なにか言いたそうな発言者──泰秀に顔を向けると、ふいっと逸らされた。少し元気になったようでなによりである。ほっとこ。


「それでシャニィさん、僕たちにどのようなご用件でしょうか」


 シャニィさんに尋ねると、ジト目をやめてニカッと笑った。

 昨日の策の話のときなどは乗り気ではないように見えていたが、それは別に俺たちのことを嫌っているからとかではなさそうだ。


「なあに、ちょっとアンタと話をしてみたくてね。イタチのことでわかったこともあるし」


 シャニィさんの言うイタチというのは、ティルたちのように内樹海で暮らすイタチ系獣人のことだ。

 帝国と通じていたのは、内樹海の帝国側で暮らす彼らだったのである。

 イタチ系獣人はイヌ系獣人との関係性が強いため、その取り調べはシャニィさんたちがやることになったそうだ。


「帝国の狙いについてはイタチはまだシラを切ってるけど、なんでアイツらが寝返ったかはわかったよ。帝国民にしてもらえるから、だそうだ」


 もっとはらわた煮えくり返っているかと思ったが、シャニィさんは意外と淡々と理由を告げた。

 そこに疑問を呈したのは、元帝国民のルチアだ。


「帝国民に? それならばわざわざ同族を裏切りなどせずに、ただ移り住めばいいと思うのだが。地域によって多少差はあるが、帝国は獣人や亜人が暮らすのに難しいわけではないだろう」

「それが、ただ帝国民にしてもらえるってだけじゃなくてね。どうやら今回の進攻が上手くいったら、帝国は将来的にあっちの樹海の入り口に町を作る気らしいんだよ。功績によっては、その町の管理をイタチに任せてもいいって言われたんだと」


 この世界で新たな町を作るなど、簡単な話ではない。みんなが驚くのも当然と言えた。


「町を!? 本当かしら……そこまでするだなんて」


 訝しむセラに、ルチアが応えた。


「たしかにまさかそこまでと思うが、帝国の内樹海近辺に町がないのは事実だ。大樹海に道を通して人を行き来させることを考えれば、町の一つ二つは必要になるのかもしれない」


 帝国の地理はよくわからないが、ルチアの言う通りなのだろう。

 改めて帝国の本気度が浮き彫りとなったところで、ニケが納得したように呟いた。


「町の管理を任せるという話についてはどこまで信じられるものかわかりませんし、イタチも額面通りに受け止めてはいないでしょう。ですがその町に住むことができる話は信用に値したのでしょうね。帝国が受け入れない理由も、さしてありませんし」


 現在帝国は聖国のように国として獣人奴隷狩りなどはしていないが、民間レベルでは内樹海の獣人に危害を加える者がいることは想像に難くない。

 しかし帝国民として国の庇護下に入れば、イタチはそんな憂き目に合うこともなくなる。しかも町は森の近くで、今までとそう変わらない生活ができる。おまけにあわよくば町を自分たちが支配できるかもしれない。


「ははっ、そりゃ裏切るわな」


 十分すぎる裏切りの報酬に、つい笑ってしまう。

 それを気に食わない者が一人。


「なんで笑えるんだよ……なにがおかしいんだよ」


 やっぱり泰秀である。




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