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2-4 噴かせたった




 奴隷契約は滞りなく終了した。

 ルクレツィアさんの首をぐるりと回る奴隷紋に俺の血を垂らして、ジルバルさんが呪文を唱えるだけだった。

 これでルクレツィアさんは俺に危害を加えようとしたり、逃げようとしたりすると苦痛に苛まれる。俺が死ぬと道連れにできるオプションもあるらしいが、それはやめておいた。


 そしてルクレツィアさんの支度も終わり、奴隷商館をあとにすることになった。


「ぜひまたお越しください。他の奴隷がご入り用の際はもちろんのこと、ルクレツィアをお売りになるのでしたら高く買わせていただきます」

「そのときは四百枚でいいですよ。聖銀貨でですが」


 要するに売る気はないということだ。

 それは当然ジルバルさんもわかってる。そうですか、と言って上品に笑った。


「ふふ……本日は大変良い商いをさせていただきました。ありがとうございます」

「……人がいいですね。商売人として失格なのでは?」

「いえいえ、お客様に商品を愛着をもって使っていただく喜びを忘れてしまえば、それこそ商人失格でございます。もちろんそれだけではやってはいけませんが、ね」

「なるほど、そういうものですか。ではこれで失礼します。ありがとうございました」


 俺が軽く頭を下げると、ジルバルさんは惚れ惚れとするような美しい所作で頭を下げた。

 俺たちが会話しているときは物体Xでも見ているような顔をしていたルクレツィアさんも、長い時間頭を下げていた。


「じゃあ行くか。えっと、クレクレちゃん」

「……もしかしてその物乞いのような名前は私のことでしょうか、主殿」

「うん。ルチアとどっちにするか悩んでるんだけど」

「ぜひルチアでお願いします」

「わかった。こっちからもお願いだが、ルチアはジルバルさん相手に値切ってたときの喋り方が素なんだろ? だったらもっと楽に喋ってくれ。思ったことがあれば言ってくれていいし。その方が俺も楽。さっきみたいに、馬鹿って呼んでもいいよ」


 なるべく壁を感じさせないように接してもらわないと、俺も壁を作ってしまいそうだから。

 出会った当初はあまり好きではなかったとニケにも言われたことがあるし、実際俺も適当に応対していた覚えがある。


 同じ失敗はしない。ルチアとは仲良くなりたいし、俺自身少しはこの性格を治していけるよう頑張るのだ。


「いっ、いやあれは物の弾みで……わかった、これでいいだろうか、主殿」


 こういう一発でこっちの望みを受け入れてくれるところ、すごく好み。


「呼び方はそのままなのか。タチャーナ・オンドゥルルラギッティンディスクァか、真一って呼んでもいいけど?」

「おんどぅる……?」

「続きはホテル行ってからにするか」


 ホテルの位置は離れていなかったのですぐに着いた。街に滞在することは滅多にないので、たまに宿を取るときは奮発してお高いホテルのお高い部屋を取っている。でも設備的には〈研究所ラボ〉の方がいいんだよなあ。

 とりあえずルチアをソファーに座らせ、俺はその隣に座った。


「お茶をいれますね」

「ありがと」


 ニケは水を汲んできてローテーブルを挟んで向かいの椅子に座った。

 さすが高級ホテルだけあって、熱を発生させるホットプレートみたいな魔道具がテーブルに備えつけられている。


「さて、ではまずは」

「まずは一つ私からいいでしょうか」

「いいともニケくん。自己紹介」


 するがいい、と言おうとしたのだが、なぜかニケはずいっと俺に顔を寄せてきた。


「彼女も言っていましたが、マスターは馬鹿ですか」

「えっ、ほわい」

「お金の話です。男性が見栄を張りたいときがあるのは理解しています。ですがあそこで本当に丸々取られていたら、残りの資金が半減していました。わかりますか、半減です。いくらなんでもお金に対して頓着(とんちゃく)がなさすぎです。これからは小遣い制にして、それ以上必要な場合は私の承認を得るようにしてもらいます。いいですね」

「その、半分残るならいいかな、なんて思って……あ、いやそのごめんなさい。でも小遣い制は……いえ、文句などないです。それで月にいかほどいただけるのでしょうか?」

「金貨一枚で十分でしょう」

「えっ、少な……くないです、はい」


 じゅ、十万円なら日本の一般家庭のお父さんより断然多いよね……うん……豚の貯金箱錬金してお金貯めよ……。


「聞いてもいいでしょうか。お二人は夫婦なのですか?」


 ルチアの問いかけに、有無を言わせぬ迫力で身を乗り出していたニケが相好を崩した。


「いいえ、()()違います。やはり貴女は見所がありますね。私はニケ。共にマスターを支える者として、貴女を歓迎します。これからよろしくお願いしますね、ルクレツィア。それと、私にもマスターと同じように話してもらって構いません」

「了解した。こちらこそよろしく頼む。このような体でどこまで期待に応えられるかわからないが、微力を尽くすつもりだ」


 二人は互いに頭を下げたあと、微笑みあっている。この様子であれば問題ないか。仲良くなれそうで、ひとまず安心した。


「貴女も先ほどの件でわかったでしょうが、マスターは時折後先を考えない行動や、理解不能な行動を取ることがあります。貴女もしっかりと目を光らせておいてください」

「ああ、わかった……というか本当に理解できないのだが、なぜ主殿は私にあんな大金を払おうとしたのだ? そもそも金貨四百枚でも高すぎると思うのだが」


 小首を傾げているルチアの口調は常にさっばりしていて、聞いていて気持ちがいい。今も卑屈になっているわけではなく、純粋に疑問なのだろう。


 そうやって客観的に自分を見て、それを受け止められる心の強さを待ってるような人だから欲しかったのだが。


「自分のことってわからないもんなんだな。しかし俺は理解不能な行動なんて取ったことないんだが」

「自分のことはわからないものですね、本当に。まあマスターが余計に支払おうとしたことはさておき、ルクレツィアは本来大金を積んだからといって簡単に手に入るような人材ではないことは確かです」

「こんな体の者に一体なにを……」


 ワケわからんと言わんばかりに、二の腕の途中までしかない左腕に目を向け、ルチアは顔をしかめている。


「ま、気にしなくていいよ。俺が気に入った。それだけわかってくれれば」

「はあ」


 ルチアは釈然としていないが、どうせ話したところで謙遜されるだけな気がする。


「わからないと言えば、なんでジルバルさんは俺にルチアを紹介してくれたんだろうか。そもそも支配人のあの人が俺の相手してくれた理由もよくわからん」


 ニケの注いでくれた紅茶を一口飲んで喉を湿らす。香りが鼻に抜け、渋みとわずかな甘みが舌に広がった。


「ニケは紅茶いれるの上手くなったなあ」


 俺が飲むのをじっと見ていたニケは、うれしそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。ジルバルが相手をしたことでしたら、私が理由ではないかと思います」

「ニケが美人だから?」

「そうではなく、後ろに控えている私が、マスターより明らかに上質な服を着ていたからでしょう」


 俺の服はザ・町人といった感じでヨレヨレの中古品だが、ニケが持っている服は全て、大荒れ地近くの街の中で一番高い店で仕立ててもらった。ニケにいい服を着せたいのは当然だし、そもそもおっぱい的な都合上ニケは中古を着れないのだ。


 しかも今日のニケは、白いブラウスにフワッと柔らかな濃紺のロングスカートという深窓の令嬢ルック。

 言われてみればなるほど、ジルバルさんの前に相手した店員も怪訝そうな顔をするわけだ。


 ちなみにだが……本当にちなみにであって別に気にしてなんかいるわけじゃない本当に本当で本当だが、ルチアちゃん……ニケちゃんほどじゃないけど中古服は着れません。

 今もノースリーブのゆったりしてるはずのワンピースがパッツンパッツンで、大玉メロンが割れちゃいそうで目の毒……気の毒です。

 でも重くて甘そうなメロンは実がつまっていて弾力が強そうなので、ワンピースに勝てるかもしれません。


「ああ、それは私も思ったな。主従が逆なのではないかと」

「そう思わない方が無理でしょうね」


 む、メロンを応援していてあまり聞いてなかったが……逆だと? 無理だと?


「たしかにな……常識的に考えればそうだろう」

「珍しいですね、マスターが常識を理解するなど」

「いやいやそりゃね、普通に考えればメロンはワンピースには勝てないさ。でもな……それでも俺はメロンを信じてる。メロンには無限の可能性がある。俺はそう思っている」

「メロン? あの、主殿……なんの話を」

「戸惑う気持ちはわかる。でも二人にもメロンを信じて欲しい。一緒に応援してほしい。さあ二人とも、俺に続くんだ。メーローン! メーローン! どうしたんだ、なにを二人して遠い目をしてるんだ」

「……貴方はなんの話をしているのですか。私たちは服の話をしていたはずですが」


 あれ、そういえばそうだったか。

 ちょっと興奮して立ち上がってしまっていたが、腰を下ろして紅茶を飲んだら落ち着いた。


「で? なにが逆だって?」

「あ、ああ、主殿とニケ殿の主従が逆に見えたということだったのだが」

「ほほう、なかなか言うじゃないかルチアくん。つまり俺は主に相応しくないと」

「いっいや、違うんだ。そういう意味ではなく」


 ちょっと気まずかったのでつついたら、ルチアは凛々しい雰囲気を崩してわたわたしていた。なんか可愛い。

 こういう人は、ついいじってしまいたくなる。


「どうせ俺なんかモブ顔の雑魚だよね……その他大勢だよね……火サスで言ったら大量殺人事件の被害者にもなれない野次馬だよね」

「かっ、かさす? いやそうではなくて、待ってくれ、本当に違うんだ」

「マスターやめなさい。もともと貴方が自分の服に無頓着過ぎるのが原因です。ルクレツィア、メロンのことでわかったでしょうが、この人の言うことはまともに取りあわないようになさい。疲れるだけですよ」


 ひどすぎじゃないかな? 恋人だよね?


「い、いいのかそれで。しかしニケ殿は、私とさほど歳が離れているようには見えないが落ち着いているのだな。いくつなのか聞いてもいいだろうか。私は十九なのだが」

「四ヶ月ほどです」

「……なるほど」


 ルチアの片目がどこか達観したものになった。心の内を代弁するなら、「ダメだこいつら」だろう。ニケはある意味本当に四ヶ月なのだが。

 と言っても精神的にはお婆……なんだか寒気が。


「マスター……つまらないことを考えると早死にしますよ? 話を戻します。従者と思わしき私に、マスターが自分より上等な服を着せていることにジルバルは興味を持ったのでしょう。そのあとも私とマスターのやり取りを観察している節がありました。その際にルクレツィアを売るにふさわしい相手か見定めたのではないかと」

「そういうことかー。やっぱ怖いな、やり手の商人ってのは。いい人だったけど」


 あんな糸目のジルバルさんだったのに、なにを見てるかわかったニケもすごいけど。


「あの、すまない。いまひとつ話が見えないのだが……見定めるとか、いい人とか、どういうことなのだろうか。確かにあの奴隷商館は奴隷の扱いがよかったと思うのだが……」


 やはりルチアは、どういう理由でジルバルさんが俺と引き合わせたのかわかっていないようだ。


「んー、ルチアは客の前に通されたのって、俺が初めてだったんじゃない?」

「その通りだ。あそこには二ヶ月ほどいたが、私の体では求める者もいないのだろうと思っていた」

「やっぱそうか。こういうことを言うのはあれだけど、ルチアの体の状態で売られたら、普通どういうことになるかわかるよね?」

「よくて使い潰されて終わりだろうな。その覚悟はできている」


 キリッとした……むしろ自信満々くらいの顔でそんなことを言って俺を見るのはやめなさい。


「いや、しないからねそんなこと……っていうか、ジルバルさんがそういう相手を探してくれたんだよ。ルチアを欲しがって、かつちゃんと扱ってくれる相手を」


 ジルバルさんが商売のことだけを考えていたならば、ルチアのような状態の奴隷を店に置いておくこと自体がおかしい。

 儲けは少ないうえに、高級店としてのイメージも壊れかねないのだから。


「だからこれまで客前に出すことはなかったんだろうし、今日もルチアが値切り出したとき奴隷紋を使えば止められたのに止めなかった」


 奴隷紋は任意で奴隷に苦痛を与えることもできるのだ。

 ちなみに契約奴隷と生涯奴隷の奴隷紋は別の種類なので、契約奴隷にはそういうことはできない。


「きっとルチアの評価を俺が上げると思ったからだろうな。さすがにあれには本気で驚いてはいたみたいだけど。でもルチアが値切らなくても、なんだかんだで安くしてくれたかもしれない。ジルバルさんも俺に売りたかっただろうから」

「それをマスターが言い値以上にお金を出したので、あの金額になってしまいましたが」

「……ま、まああの人にはたっぷり感謝しとくといいと思うよ」


 ジルバルさんは別に、誰も彼も救っているわけではないだろう。ルチアの気質を評価する買い手が必ず現れると信じたから、ルチアをあの店に置いたのだと思う。

 ある意味では、ルチアは自分で自分を救ったと言える。

 それでもあの人がルチアの未来のために骨を折ったのは、間違いようのない事実だ。


「……そうだったのか。このような体となって、一度は絶望もしたが……生きていればこのような出会いもあるのだな」


 そうだな、俺も驚いているよ。俺というひねくれ者が、尊敬できるような相手と一日に二人も出会えるとは思わなかった。

 ジルバルさんに関しては、慈善事業ステキー! というわけではなく、信念を持って行動しているのがかっこいいと思うのだ。


「俺もジルバルさんの期待に応えられるよう頑張るから、これからよろしくな」


 今はルチアにしてみれば、身も蓋もなく言えば買われただけだろう。でもいつの日かこれが、巡り合いだったと思ってもらえるように。


 うつむいて肩を震わせるルチアの頭をわしゃわしゃ撫でると、迷惑そうにしながらも笑顔を見せてくれた。

 傷でひきつっているけれど、とても綺麗な笑顔だった。


「すまない、みっともないところを見せた。こちらこそよろしく頼む」

「ああ。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着いたらどうだ」


 ニケに渡されたハンカチで目元を拭い、ルチアが紅茶に口をつける。

 その動きは凛々しい雰囲気とは少しギャップを感じさせる、上品で洗練されたものだった。


「しかしよかったよ。俺はてっきりジルバルさんに、俺が聖国の勇者だってバレたのかと思ってた。だから俺の相手をしようとしたのかと」


 ぶふぉっ、とルチアがむせて紅茶を噴き出した。

 勇者の存在を知っていてくれてよかった。タイミングを見計らった甲斐があるというものだ。


「さすがにジルバルもそこまでは考えていないでしょう。黒髪というのもそこまで珍しいものではないですし」


 ゲホゲホとむせていたルチアは、今度は口元を拭ったハンカチを持ったままの右手を突き出した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。主殿は聖国の勇者なのか!?」

「元だけどな。逃げ出してきたから」

「そんなにさらっと……逃げ出して? まさかとは思うが、錬金術師だったりは……」

「よく知ってるな」


 雷に打たれた演技でもしてるのかっていうくらい、ルチアはビクーンとなった。残されている右の眼球まで飛び出そうなほど、目も見開いている。


「じゃあししし神剣! 神剣シュバルニケーンは!」

「ああ、ここに()()けど」


 しばらくフリーズしたあと、ルチアはゆっくりと天を仰いだ。


「まさか噂が本当だったなんて……」

「もうこの国にも、そんな詳しく広まってるのか」

「いや、それはどうだろうか。私は帝国の騎士だったのだが、そのときに聞きかじっただけだ。神剣を強奪して逃げた錬金術師の勇者を、聖国が血眼になって探していると」


 ルチアは今いるマリアルシア王国のお隣の国である、帝国の騎士だったのか。どうりで軍人っぽいと思った。

 喋り方もそうだが、腰かけてる姿とかもカッチリとしていて、背筋が伸びててすごく綺麗だ。

 そんなことを考えていたら、ルチアがモジモジと体を揺すりだした。


「あの、もしよかったら神剣を見せてはもらえないだろうか……いや、すまない忘れてくれ。私のような新参者に、おいそれと見せられるようなものではないことはわかっている。ただ剣を持つ者として、子供のころから憧れていたものだから、つい」

「もうルチアは見てるぞ。今も見えるし」

「えっ、どっどこ!」


 ルチアは慌てて首を動かし、部屋の中を探しだした。実にいいリアクションを取ってくれる人だ。

 ……でも傷の痛みを我慢までして、そんな機敏に首を動かす必要はないと思うよ?


 しかしニケはどう思っているのだろうか。シュバルニケーンという剣に憧れるルチアを前にして、うれしいと感じているのか悲しいと感じているのか。つらく思っていないといいのだが。


 表情を崩さないニケの様子を窺ってみると、目があって微笑みかけられた。心配するなということか。

 そして、まだキョロキョロしてるルチアに話しかけた。


「ルクレツィア、私です」

「えっ?」

「私がシュバルニケーンと呼ばれていた剣でした」

「すまない、なにを言っているのかわからないのだが」


 わからないのも当然だろう。いきなり私は元剣です、と言われても。


「ルチア、俺の錬金術のスキルレベルいくつだと思う?」

「主殿の? そうだな……勇者は色々と成長に補正がかかっていると聞く。ならば四……いや、まさか五なんてことは」


 変に気を使って低く言ってるわけではなく、本気で当てにきてるようだ。素晴らしい。

 年齢当てとかで大げさに低く言うあれ、本当は絶対そんな風に思ってないことがバレバレのやつは見てて痛々しいからな。ちゃんと本気っぽく見えたり、ギャグとかならいいんだけど。


「八だ。スキルレベル八」

「はっ、八!? 本当か!? そんな若さで……しかも錬金術で八なんて聞いたことがない」

「本当だ。こっち来るとき身についてたスキルのおかげでな。で、だ。そこまで高レベルの錬金術となると、色んなことができると思わないか。そうだな……例えば剣を人にしてしまうとか」

「まさか……いやいや、さすがにそんなことは無理だろう」

「だよねー」


 あははと二人して笑い合う。


「ところでルチアは、シュバルニケーンの能力って知ってるか?」

「もちろんだ。主の危機を未然に察知し、いかに多くの荷であろうとやすやすと運ぶことができ、例え折れたとしても不死鳥のように元の姿を取り戻す。そしてなによりも、神の怒りを自在に操り山をも穿つ、唯一無二と言われる〈神雷〉。その力で邪竜ディズリンドを撃退したのはあまりに有名な話だ。私は特に剣の主であるヒブラスが、街を守るために単身邪竜のねぐらに向かう場面が好きで──」


 本当にシュバルニケーンに憧れているのだろう。凛々しい雰囲気を取り払い、子供のようにキラキラした目でルチアは語る。

 でもヒブラスくんの話は今度にしてもらいたい。


 今はもっと衝撃的な話をしてあげねばならないから。


「うん落ち着け。まあ紅茶でも飲みなさい」

「す、すまない。少し興奮したようだ」


 ルチアが紅茶に口をつけたのを見計らい、俺はニケにアイコンタクトを取った。


(わかっているな)

(ハァ……わかりました)


「〈ステータス〉〈開示〉」


 ニケのステータスを見たルチアのスプラッシュは、一度目よりも盛大だった。




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