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30話 畏敬の念が感じられない

「な、なんで邪神様がここに……!」


 ちょこんと生えた二つの角に、物の見事な幼児体型。

 腰までの銀髪に、黒を基調としたドレス。

 今目の前にいる魔人こそ、魔王リリティアその人であった。


「一万年振りだなぁ、リリティアよ……!」

「ひぃっ! か、顔が怖いのです!」


 当たり前だ、怖い顔をしておるのだから。

 なにせこの魔王リリティアと吾輩との間には深い因縁がある。


「其方に閉じ込められたこと、吾輩は忘れてないぞ」


 そう、何を隠そうこのリリティアこそが吾輩をあの洞穴に閉じ込めた張本人なのだ。

 そのせいで吾輩は一万年の孤独を味わい、その上邪神としての肉体を捨て去ることになったのである。

 長き生を振り返ってみても、あれだけの所業をされたことはまたとない。

 ゆえに簡単には許すわけにはいかぬ。


「誤解なのです、リリも被害者なのです!」


 しかし、リリティアもまた必死で自己を弁護する。

 身体全身から声を発するほどに必死だ。まあ、それだけ吾輩が怖いということかもしれぬが。

 まあ、何か理由があるというのなら聞いてやらんでもない。吾輩は懐が深いからな。


「ほう……申し開きがあるならば言ってみよ」

「えっと、ジェイルって魔人は知ってるですか?」

「ジェイル……? ああ、ぼんやりとだが覚えているぞ」


 吾輩はジェイルという魔人の顔を思い起こしてみる。

 良くも悪くも目立たず印象の薄かった男だが、顔くらいはなんとか思い出せた。

 それで、ソヤツがどうしたのだ。


「ソイツが、閉じ込めたらお菓子上げるっていうからなのです」

「……おいちょっと待て、吾輩はおかしに負けたのか……!?」

「でもでも! 酷いのですよ!? そのあとお菓子をねだったら、「用済みだ」って言ってリリも封印されちゃったのです!」


 つまり吾輩はおかしに負けたということではないか!

 なんたることだ。神である吾輩は、おやつに、おかしに……!

 こ、こんなことがあってよいのか……!?


 フッと力が抜け、吾輩は平野に膝をつく。

 リリティア、其方吾輩に膝をつかせるとは、中々やるな……。


「というか其方、部下に負けたということか?」


 部下に負ける魔王か。呆れてものも言えぬ。……そして吾輩は目の前の呆れててものも言えぬヤツに封印されたのだ。

 そう思うとなにか、何とも言えぬ疲弊感と虚脱感が全身を蹂躙していくな。


「ね、寝てるところを狙われたのです、不意打ちで仕方なかったのです! そうじゃなければリリだって、リリだって、きっと善戦くらいはできたのです!」

「そこは勝て。勝ってくれ」


 其方魔王よな? 相手は一魔人よな?

 ならばせめて真正面からやり合ったら勝て。頼むから。


「で、封印されちゃって……。すごい封印だったのですけど、リリはお菓子が食べたくて食べたくて……なんとか一万年かけてさっきようやく封印を抜け出して、今こうしてここにいるのです!」


 なんでそんなに自慢げに胸を張れるのだ。

 はぁ……もう怒る気も失せたわ。

 パンパンと草を払いながら立ち上がる。

 まあ騙されていたということらしいし、叱るのはやめておいてやろう。

 丁度いま封印を抜け出してきたところならば、疲労も溜まっているだろうしな。

 まったく……こんな風な気遣いが出来る吾輩が、どうしておやつに負けねばならんのだ。つくづく納得いかん。


「でも、邪神様がお元気そうでよかったのです。この人間どもは眷属ですか?」


 リリティアが大きな瞳をきゅるきゅると動かして傍らの二人を見た。

 おっと、そうだった。ついつい吾輩ばかり話し込んでしまって、二人を置いてきぼりにしてしまっていたな。


「この二人は同僚と恋人だ。こちらが同僚のネズフィラ」

「ネズフィラです。リリティア様はジョナスとは古くから既知の間柄のようで……どうぞよろしくお願いいたします」

「よろしくなのです」


 スカートの端を摘まみ、優雅な動作でお辞儀するネズフィラ。

 相変わらず外面は完璧だな。

 内面もカリファ関係以外は完璧なのだが、いかんせんカリファに関することが酷い。

 メリハリが効きすぎているから、もう少し全体的に(なら)してくれると吾輩助かるぞ。


「で、こちらが恋人のカリファ」

「はじめまして、カリファです。私も知らないジョナスのこといっぱい知ってそうなので、色々教えてくれると嬉しいです」

「知ってるですよ、色々教えてあげるのです!」


 カリファの人懐っこそうな顔を見て、早速リリティアは警戒心を解いたようだ。

 その短絡さが封印される原因だったのではと思わないでもないが、それは吾輩にもブーメランなので口に出すことはしない。

 ああ、ただ一つだけ言っておかなければな。


「リリティア、くれぐれも余計なことは言うでないぞ?」

「わ、わかってるのです! リリ、信用ないですか!?」


 これは驚いた。

 吾輩とおやつで後者を選ぶようなヤツに信用なんてものがあると思うのか。

 凄まじい図太さだな。ある意味尊敬に値する。


 そんなこんなで、吾輩は二人の紹介を終えた。

 リリティアは二人を交互に見ながら偉そうに何度も頷く。


「ふむふむ、なるほどなるほど。二人のことはよぉくわかりました。同僚と恋人ですね。……こ、こここ恋人ぉぉぉ!? 邪神様、頭ぶっ壊れたのですか!? くるくるくるなのですか!?」


 誰の頭がくるくるくるだ。

 それは貴様の頭であろうが。


「吾輩はまともだ。吾輩、カリファの恋人になったのだ」

「えへへ……そうなんです。私はジョナスとお付き合いしているんですよ?」


 かぁぁと頬を朱に染めながら、こちらを上目遣いするカリファ。

 なんとも奥ゆかしい動作であることか。さすがは貴族。

 そんなカリファに、リリティアも些か面食らったようだ。


「ほへー……びっくりなのです。邪神様とお付き合いしているにしては随分とまともな人間なのです」


 おい、それは一体どういう意味だ。

 貴様は吾輩に対する畏敬の念が不足しすぎてやいまいか?

 吾輩は其方の大元みたいな存在なのだぞ? 知ってる?


「邪神様、こんなに良い人見つけるなんてやるですね!」

「……うむ、そうだろう」


 ……まあ、褒めてくれたから良しとしよう。苦しゅうない。

 親指をグッと突き立ててグーサインを見せられたので、吾輩も同じようにグーサインを返してやった。

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【連載中】筋肉魔法の使い手と超絶美少女エルフが旅する話↓
『魔法? そんなことより筋肉だ!』
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『融合魔術師は職人芸で成り上がる』
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― 新着の感想 ―
[気になる点] いつになったら再会してくれるのかなぁ...って。 [一言] もうこの作品の事なんて忘れてるかもしれないけど、できれば続きを書いて欲しいです!!
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