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自重知らずの元邪神  作者: どらねこ
1章 『黒き竜と元邪神』編
3/30

3話 ドラゴンなんてほぼスライム

「なあ人間。吾輩は何故に捕まっているんだ?」


 吾輩は警備隊とやらの建物で取り調べを受けていた。

 何故吾輩がこんな仕打ちを受けなければならぬのか、皆目見当がつかない。


「街中で騒いでいたからだな」


 なんと。

 吾輩は驚いた。


「騒いではいけないのか!? それは知らなかった……」


 人間という種族に対する知識はあるが、人間界のルールにはまだまだ疎い。

 吾輩は知らぬ間に不味いことをしてしまったらしかった。

 悪いことをしたら謝らねばなるまい。吾輩は男に頭を下げる。


「すまないな人間、迷惑をかけた」

「お前も人間だろ」

「吾輩は邪神だ。……ああ間違えた、元邪神か。今は其方らと同じ人間だったんだった」

「そうか、頭がお花畑なタイプか」


 頭がお花畑……? 少し前まで角は生えていたが、人間となった今はただの黒髪なのだが。


 にしても、騒いではならないというのは予想外だ。

 吾輩は顎に手を置く。


「そうなると、騒がずに目立たねばならないということか。難儀だな……。なあ人間、何か方法は思いつくか?」

「人のために一生懸命頑張れは目立てるんじゃないのか? お前には出来ないと思うが」

「おお、人のために! ありがとう人間、それを実行するとしよう」


 この人間、中々親切ではないか!

 吾輩は嬉しいぞ。


「ああ、あと人に迷惑をかけたり、悪いことは駄目だぞ。俺たちに捕まっちまうからな。それがわかったら、今日はもう帰っていい」


 喜ぶ吾輩に男はそう言う。


「わかった。重ね重ね、人間には感謝する」

「……たしかに俺は人間だが、ブライトって立派な名前がある。呼ぶんならそっちで呼べ」


 なるほどな。たしかに魔族にも名前という習慣はあった。

 自分がジョナスと呼ばれるより邪神と呼ばれることの方が多かった故、どうしても種族名で捉えてしまう癖があるようだ。折角教えてくれたのだし、きちんと名前で呼ぶことにしよう。

 吾輩は真っ直ぐ男に言う。


「ブライト人間」

「ブライトでいい。人間を付けるな」

「ブライト」

「そうだ。それでいい」

「おお……!」


 これが心を通わせる喜びというものか。

 久しく忘れていた感情だ。


「ブライト、ありがとうな! 吾輩はジョナスという! 吾輩は其方に感謝しているぞ!」

「おお。……ああそうだ、お前が邪神だってんなら、ここの壁ぶっ壊して出てっても良いぜ? まあ、国一番の実力者でも壊せないって評判の丈夫さだけどな」


 ブライトは不敵に笑って壁を指差す。

 そこには分厚そうな薄赤色の壁があった。

 取り調べの最中に逃げられないように、頑健な造りになっているのだろう。

 たしかに普通の人間には壊せないのかもしれないが、吾輩ならば可能だ。

 しかし問題が一つ。吾輩は今さっき迷惑をかけてはならないと教わったばかりなのである。


「壊してもいいのか? それは悪いことにはならないのか?」

「大丈夫だ、持ち主が良いって言った場合は悪いことにはならねえよ。まあ無論、できるならの話だけどな」


 なるほど。たしかに持ち主が良いと言っているのならば問題はないか。

 そういうことならば、吾輩もその期待に応えてやるとしよう。


 吾輩は壁を破壊して飛び出した。


「この恩は忘れぬぞ。ブライトよ、さらばだ!」

「……は? ま、マジで?」


 驚いた顔のブライトだけを残し、吾輩は夜の空へと飛びたった。





「ふむ、そろそろ降りておくか」


 飛び出した後すぐに、吾輩は地上へと降りたつ。

 あまり街中で悪目立ちしてはいけないと、さっきブライトと約束したばかりだからな。

 吾輩からすれば搾りかすのような力でも、人間にとっては強大な力である。

 力を使うときには気を付けねばならぬ、力は良いことに使わねばな。


 当てもなく彷徨っていると、ギルドとやらについた。

 そういえば、ブライトに言われたな。「お前のような変わったやつはギルドに行くといい。あそこなら大抵の人間は受け入れてくれるから」と。

 ……折角だから入ってみるか。

 吾輩は興味本位でギルドへと入ってみることにした。




 扉を開けた途端、今が星の出ている夜だとは思えないほどの声が耳に入ってくる。

 数人の人間が、中央で何やら言い争いをしているようだ。

 吾輩は一旦そこから視線を外し、ギルドの全体像を把握する。

 ギルドの中は木張りの壁や床をしていた。

 そこら中にある赤い染みは、ワインでも零したのか、それとも血か何かなのか。

 ともかく、閑散とは真逆の、耳が痛くなるほどの喧騒が響く場所……それがギルドのようだ。


 興味本位ではあったが、なるほどこれは吾輩に合っているかもしれぬ。

 吾輩は静かなところよりも賑やかなのが好きなのだ。

 人々が活気にあふれる中で、その中心に吾輩がいる。それが吾輩の思い描く理想である。

 これは改めて、この施設を教えてくれたブライトに感謝せねばならんな。


「お願いします! お願いしますっ!」


 と、中央で言い合いしていた中から女性の声が聞こえてくる。

 その声はかなりの切迫性を孕んでおり、ただ事ではないことが容易にうかがえる。

 自然と吾輩はそちらに耳を澄ました。


「助けてください! お願いします! 村が壊滅状態なんです!」


 女性は周りの男たちに必死な様子で頭を下げる。

 しかしその反応は芳しくない。


「ブラックドラゴンって、そりゃ無理だぜ嬢ちゃん……」

「俺らだって死ぬとわかってて依頼を受けるほど命知らずじゃねえしな……」

「今このギルドでは実力者は出払っちまってるからなぁ。転移魔法で他の国へ行くのが利口だと思うぞ」


 そんな男たちに、女性は首を横に振る。


「村にはそんな大金は無いんです! ここまで来るための転移魔法のスクロールも村に代々伝わってきたもので、もう予備はなくて……!」

「……なら、気の毒だが、村は諦めるべきだ。それに転移魔法がないんじゃ、今から村に向かってももう……」

「そ、そんな……っ! なんとか、なんとかならないんですか!?」


 詰め寄る女性に、気まずそうな顔をする男たち。


 なんだかよくわからないが……女が村の危機で困っていて、周りの男たちは危険すぎると助けるのを拒んでいるということか?

 ……これは、チャンスなのではないか?

 吾輩は考える。

 ここで吾輩がその依頼とやらを受け、ブラックドラゴンを倒せば、吾輩はとんでもなく目立てるのでは?

 しかも、誰にも迷惑をかけることもなく。

 そうとわかれば、あとは早かった。


「その依頼、吾輩に任せろ! 吾輩吾輩、吾輩がやるぞ!」


 吾輩は手を上げ、大声で言う。

 おまけとばかりにピョンピョンと跳ねてやった。

 すると当然、ギルド中の視線が吾輩へと集まる。

 おお、この感じ! 最高ではないか! 吾輩は今輝いている!


 そのように視線に浸っていると、男たちの中の一人が吾輩の方にと進み出た。


「お前、誰だ? 冒険者にこんなやついたか?」

「吾輩はジョナス。邪し……元邪神だ。ギルドに来たのは今日が初めてだ。よろしくな、人間」


 すると、男は怪訝そうな顔をする。

 普通の自己紹介をしたつもりだが、どこか変なところがあっただろうか。


「……お前、冒険者資格は持っているのか? 冒険者として活動するには、まずは簡単な依頼をこなさないとならないんだぞ」

「そうなのか? 知らなかったな、当然持っていない」


 ギルドを訪れたのさえ今日が初めてなのだ。そんなもの、当然持っているわけがない。


「なら、冒険者として依頼を受けることは出来ねえぞ? 支給品もなし、成功報酬が払われるかもわからず、魔物の買い取り金額も冒険者よりは値引きされる。端的に言って、割に合わないと思うが」


 どうやら男は親切心から吾輩に忠告をしてくれているようだ。

 顔に似合わず面倒見のいい男ではないか。そういう人間は好きだぞ。

 しかし、今回の場合にはいらぬ心配だ。

 吾輩は胸に空気を吸い込み、それを音へと変換し、言い放った。


「ならば、正規の依頼としてでなくともいい。なぜなら吾輩はただ、目立ちたいだけだからな!」


 しーんと静まり返る室内。

 ようやく誰かが発した言葉は「……ん?」だった。


「見よ、吾輩は凄い」


 そんな人間たちの前で、吾輩はギルド内を縦横無尽に滑空して見せる。

 吾輩は決して能力を隠したりはしない。

 才ある者は、その才を存分に活かすことこそが世界から与えられた使命であると信じているからだ。


「……は?」

「どうだ、凄いだろう。これが吾輩の力だ」


 呆然とする冒険者たち。

 ふふふ、いい顔だ。吾輩への強い戸惑いの感情を感じる。

 できればこれが尊敬や憧憬だと最高なのだが、いくらなんでも最初からそれを望むのは贅沢というものだ。

 吾輩は固まっている冒険者たちに言う。


「そういえば、冒険者としての活動には簡単な依頼をこなすことが必要だと言ったな。ならばこのジョナス、ブラックドラゴンを討伐し、その頭を持ち帰ることを約束しようではないか」

「……ブラックドラゴンの討伐が、簡単な依頼だと言う気か?」

「? 当然だ。ブラックドラゴン如き、何匹居ようと吾輩の相手ではない」


 当然のことを聞くのだな。吾輩は邪神ぞ?

 魔物の頂点である魔王、その魔王よりも格上の存在が吾輩だ。

 ブラックドラゴンなど、吾輩にとってはスライムとなんら変わりない。

 むしろ的が大きな分、スライムよりもやりやすい相手と言える。


「では件の村へ向かうとするか。おっと、道案内が必要だな。……よし。其方、乗れ」


 吾輩は、先ほどまで懸命に自らの村の危機を訴えていた女を指差した。


「わ、わたしですか?」

「そうだ、早くするがよい。村を救いたいのだろう?」


 大体、この場で村の場所を知っているのはお前だけではないか。


「は、はい! 失礼します……!」


 女は恐る恐るといった様子で吾輩の背中にしがみつく。

 それを確認し、吾輩は一歩だけ助走をつけた。


「――では、ドラゴン退治に行くとするか」


 吾輩はギルドの戸を吹き飛ばし、星空煌めく夜空へと躍り出た。

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