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28話 迷う間もなく

「カリファ様、ジョナス、大変です! シーズ様からのご連絡で……カリファ様が貴族位を剥奪、並びに国全域で指名手配されたと!」


 そんなネズフィラの言葉に、吾輩は眉を顰める。

 カリファが貴族位を剥奪……!?

 それは一体どういう了見だ。吾輩はカリファの働きをこの一か月傍で見てきたが、貴族位を剥奪されるような行いは一切なかったぞ。ましてや指名手配など……。


「何が起こってるの……!?」


 いきなりの凶報に、当のカリファさえ口に手を当てて驚きを隠せない様子だ。

 当然だが指名手配のことも知らされていなかったのだろう。

 寝耳に水であり、青天の霹靂である。


「それはウチから説明させてもらうで!」


 はきはきと良く通る声をだし、ネズフィラの後ろから顔を出したのはシーズだった。

 カリファと同じように若くしてダイヤ家を継いだ四大貴族の内の一人だ。

 その隣には従者のエトラスも付き添っている。


「お招きいただく前に立ち入ってしまって申し訳ないでござる」

「あ、ネズフィラさん、勝手に入ってもうたけど堪忍な?」


 エトラスに言われて初めて気づいたように、シーズはぺこりと赤い髪に覆われた頭を下げる。

 どうやらシーズもかなり混乱しているとみて間違いないようだ。


「緊急事態ですからシーズ様たちを咎めるようなことはありません」

「そりゃよかった。ありがとうなネズフィラさん」

「それより、どういうことなんだ? 詳しく話を聞かせてもらいたいのだが」


 話に割って入るのは本来したくないのだが、そんなことも言っていられる状況ではない。

 なにせ、情報が情報だ。

 俺に会話を遮られたことを気にした素振りもなく、シーズは本題について喋りはじめた。


「せやな、時間あんまないからかいつまんで話すで。まずな、王様が乱心しよった」

「王が……?」


 この国の名前は何と言ったか……ディラブ王国だったか。その国を治める立場にあるはずの王が乱心したらしい。

 王と言えば、吾輩も一度顔を合わせたことがあったな。

 その時は人のよさそうな、ひげを蓄えた老人だと思ったが……あの男がか。


「王様、気の良い人やっててんけどなぁ。何を思うたんか、急に王家に力を集め出しよった。推測するに、どうも昔から四大貴族への鬱憤がたまっとったみたいやな。そんで同時に『忌人は悪だ!』とか言い出したから、『なんかおかしいぞ……?』なんて思うとる間にカリファの貴族位を剥奪プラス指名手配や」


 呆れながら告げるシーズの言葉を、カリファはただ黙って聞く。

 そしてその事態を自分なりに咀嚼し、喉を小さくコクリと鳴らした。


「……私いま、相当危ない状況ってことだよね」

「危ないどころじゃないで、じきに手配書が回る。カリファに逃げて欲しくてその前に知らせに来たんやから」

「手配書とはまた随分ですね」

「この国は本気でカリファの命を狙いに来てるっちゅーこっちゃ。四の五の言ってる場合ちゃうで。カリファ、あんたネズフィラさんとジョナス連れて逃げるべきや……いいや、逃げなあかん!」


 シーズがカリファの腕をとる。

 真っ直ぐに見つめられたその視線から、しかしカリファは躊躇いがちに目線をずらした。

 伏せた目はシーズではなく床へと向けられる。


「逃げるのは……私は貴族として、人々を守る立場なのに」


 貴族としての責任感の強さが、カリファから逃げという選択肢を奪っているようだ。

 それを聞いてシーズは「あほか、死んだら守ることもできなくなるっちゅーに!」と地団駄を踏む。


「この国のことはウチに任しとき! カリファは自分のことだけ考えてればええんや!」


 そしてシーズは、カリファの俯いた頭を無理やり自分の方に向けさせた。

 ゴツン、と二人のおでことおでこがぶつかった鈍い音が響く。


「まあ、ウチらダイヤ家もその内貴族位を剥奪されそうやけど……指名手配はされんやろうからな。クラブ家とハート家の連中とも協力して、この国は何とかして見せるわ。だから今は逃げるんや、カリファ」

「シーズ……」

「拙者もお嬢と同意見でござるな。早くしないと王国軍が屋敷にやってくるでござる」


 比較的冷静なエトラスがそう意見を述べる。

 ふむ……何やらあっという間に大変なことになってしまったが……よくよく考えてみれば。


「吾輩が城までひとっ飛びして、国王とやらの首から上と首から下を切り離せばいいのではないか? 吾輩なら容易であるが」


 逃げる方向で話が固まりつつあるが、王様が敵ならその首をとってしまえばいいのではないか?

 敵がいなくなればいくさは勝利であるし。

 どうだ、名案ではないか?


「国王の命を奪うのは国家への反逆ととられても仕方ありませんからね……その方法だとどのみちカリファ様の失墜は免れないかと」


 なるほど、そうも上手くはいかぬらしい。


「うぬぅ……現実は思い通りにいかぬものだな」


 そうなると、吾輩にもさすがに打つ手がない。

 悩んで腕を組むほかないな。

 どん詰まりになった屋敷の中。腕を組む吾輩。口元に手を当てて考え込むネズフィラ。

 そんな吾輩たちの姿をみて、とうとうカリファは決断を下したようだ。


「わかりました。逃げましょう」


 カリファの声が響く。相変わらず大きくもないのに良く通る声だ。


「二人とも、付いてきてくれますか?」


 そして、吾輩たちに尋ねてくるカリファ。

 そんなもの、答えは決まっているであろうに。


「無論だな」

「刹那の考える時間も要りません」


 吾輩たちは一瞬も間をおかず、そう答えた。




 そして、数十秒後。

 吾輩たちの身体は空にあった。

 唯一空を飛べる吾輩が、腹側にカリファ、背側にネズフィラを抱えて屋敷の窓から飛び出したのだ。


「この国のことは任しときー!」


 小さくなっていく屋敷の窓から、シーズが身を乗り出して叫んでいるのが見えた。

 それを見たカリファは、吾輩に抱えられながらニッと笑い、屋敷の方を振り返る。


「シーズ、私また必ず帰ってくるからね!」

「ウチもあんたが安心して帰って来れる国作って待っとる!」


 そして、完全に屋敷は見えなくなった。

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