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自重知らずの元邪神  作者: どらねこ
3章 『カリファとジョナス』編
23/30

23話 侵入

 寝静まった部屋。

 備え付けの大きなベッドで、すうすうと寝息をたてる金髪の少女。

 その寝顔は健やかで、とても自分が命の危機にいると自覚しているようには見えない。

 カタリ、と最小限の音だけを鳴らして、ピュケルは窓からカリファの部屋へと潜入した。

 今宵、ピュケルはカリファの命を奪う。

 理由は一つ。バルハルドがピュケルにそう命じたからだ。

 バルハルドの命令だけがピュケルを動かす理由であり、それに対しピュケルは何の疑問も抱いていない。


 辺りを見回す。

 ピュケルの目には誰かが潜んでいる様子も見られず、何の物音もない部屋はしん、と痛いほどの静寂を奏でている。

 それだけ確認すると、ピュケルは窓の下に合図を出した。

 窓から次々と暗殺者が部屋へと入り込む。

 彼らは皆、一様に濁った眼をしていた。


 一人の少女を殺すのに、ピュケルを含めて十人の暗殺者を差し向ける。

 普通ならば些か警戒しすぎにも見える行いだが、今回はこれが適正だとのバルハルドのお達しだ。

 理由はこの屋敷に巣食う二人の超人。

 一人はメイドのネズフィラ。メイドという身でありながら一流以上の身のこなしとクナイ術、あれをメイドと呼ぶのはおかしい。

 そしてもう一人はジョナス。正体不明で、脈絡もなくカリファの騎士となった男。ふざけた言動が目立つが、その実力はもはや人外レベル。

 この二人がいるカリファの屋敷は、もはやそこらの要塞よりもよほど難攻不落だ。

 バルハルドが雇った暗殺者たち。それを率いて、ピュケルはターゲットの眠るベッドへと近づく。

 すやすやと眠る少女の掛布団を剥がすと――中からクナイが飛んできた。


「カリファ様はやらせはしません」

「……囮か」


 ピュケルの目の前で、少女がカツラを外す。

 金髪だった髪は藍色へと変わる。そこにいたのは、ネズフィラだった。

 どうやら策に嵌められたらしい。

 こちらの情報がどこかから――おそらく暗殺者の誰かが酒でも呑んで口を滑らせたのだろう。

 使えないやつらだ。ピュケルは思うが、彼らを雇ったバルハルドを責めるような思考には至らない。

 ピュケルにとってバルハルドの命令は絶対だ。

 彼が決めたことには一切反論せず、そしてまた反論などという選択肢はハナから存在しないと言っていい。

 なぜなら、そう教育されたから。

 数年に渡る洗脳に近い躾により、ピュケルの頭に反抗という思考は浮かばなくなっていた。


 目の前の藍色の髪をした美女を見ながらピュケルは頭を働かせる。

 このいけすかない女がここにいるということは、カリファを守っているのはまず間違いなくジョナス。

 であるならば、すでに自分たちに勝ちの目はほとんどない。

 ほとんどない――が、関係ない。ただ自分に与えられた仕事を全うするのみ。

 まずは目の前の厄介なメイドを殺し、そして十人がかりでカリファを殺す。

 いくらあのジョナスというやつが規格外だろうと、十人いれば隙は出来るはずだ。そこを突けばいい。

 それに、こちらにはバルハルド様が考案した秘策もある。

 そこまで考えて、ピュケルは懐から取り出したナイフを構える。

 そのために、まずはこの女を――


「おいおい、吾輩を忘れて貰っては困るな」


 聞こえてきた声に、ピュケルは僅かに顔をしかめる。

 ……ジョナス。ヤツまでいるのか。

 しかし、ならばカリファの護衛はいないということになる。逆に考えれば、これはチャンスだ。


「カリファを探しているのか? 悪いが、カリファは吾輩の主だ。渡せんな」


 ジョナスの傍らに空間のねじれが生じ、そこでカリファがすやすやと眠っているのがピュケルの目に見て取れた。

 有無を言わさぬ圧倒的な魔力。それが部屋を覆い尽くす。

 魔力に中てられ、連れてきた暗殺者たちは気を失う。

 つくづく役に立たない……舌打ちしたくもなるが、今はゴミに構っている暇もない。


 魔力の広がりを察知したピュケルの反応は迅速だった。

 バルハルドから前もって受け取り歯の奥に用意していた薬を服薬する。

 コロシアムで使用した薬の、さらに上位の薬だ。

 これを使えばもう二度と正気に戻ることはないというが――そんなことは、自分には関係ない。

 なぜなら、元々正気など持っていないのだから。


 視界が赤と黒に染まっていく。

 考えが纏まらない。

 耳が聞こえない。目が見えない。見えない。何も見えない。


「そのような容貌(かたち)になってまで吾輩に抗おうとする、その信念だけは認めてやろう」


 最後にそんな声が聞こえ、ピュケルは意識を失った。

 そして、もう二度と意識が戻ることはなかった。






「……なんですか、この怪物は」


 ネズフィラが驚きの声を出す。

 無理もない、今吾輩たちの目の前にいるのは最早人間とは言えぬ生物だ。

 漆黒の肌に、隆起した屈強な筋肉。

 額から生えた角は雄々しく尖り己の凶悪さを誇示する。

 端的に言って、異形。もはやコヤツを見て元が人間だったと思う者はほとんどいないだろう。

 異形と化したピュケルは、もはやまともな精神など手放してしまったように見受けられる。


「哀れだな。さような生き方は、吾輩には理解できん。……せめて、なるべく苦しまずに逝かせてやる。ネズフィラ、目をつぶれ」


 全魔力の一割ほどを使い、爆裂魔法を行使する。

 周りを強固な魔法の盾で囲むことで、その範囲をピュケルだけに限定。

 そして爆裂魔法が炸裂する。


 眩いどころか閃光弾のような光が部屋中を照らし、ピュケルは断末魔もなく消滅した。

 ピュケルの影だけは強烈な光によって壁にくっきりと残ったが、それだけだ。

 結末は、あまりにあっけないものだった。


「相変わらず、すごい魔法ですね」

「もっと褒めてくれ」

「これ以上は調子に乗るので褒めません」


 ネズフィラめ、吾輩のことがよくわかっているではないか。

 だが、さすがに今は少し状況を整理せねばならない。


「にしても、ピュケルのあの姿はなんだったんだ? ネズフィラは知っているか?」

「いいえ、存じませんね」

「魔法ではないようだった。……薬か何かか?」


 吾輩が呟くと、ネズフィラは心当たりがあるのか、少し顔を持ち上げる。

 なんだ、と促すとネズフィラは少し躊躇いがちに言う。


 ……そういえば、バルハルド様は人知れず禁薬の研究をしているという噂は聞いたことがありますが……」


「しかしあくまで噂レベルです」とネズフィラは付け足す。

 カリファの瞳のこともあって、そういった噂はすぐに呑みこまないようにしているのであろう。

 しかし……薬か。貴族であるバルハルドなら充分なバックになるだろうし、研究したいヤツラも集まって来るのかもしれんな。


「ん、んん……」

「お、カリファが起きてしまったようだ」

「あれ、なんで二人ともいるの……?」


 寝ぼけ眼を擦りながら不思議そうなカリファ。

 ピュケルたちが近づいてきているのに気付いたのが直前だったので、寝ているカリファには何も説明できぬままだったのだ。

 まあ、説明できる時間があったとしてもしたかどうかは怪しいところではあるが。

 カリファは心根が優しいがゆえに、人の死に傷つきやすいゆえ。


「今ピュケルを倒した。これからバルハルドのところへ向かう」

「……え、ピュケルさんを倒した? で、お兄様のところへ向かう? ……!?!?」


 混乱するのも当然だろう。

 だが、説明は後だ。

 吾輩はカリファの腕をむんずと掴む。


「へ? ジョナス?」

「悪いが、一緒に来てもらう。カリファを一人置いていくわけにもいかんのでな」


 吾輩はそう言って、カリファを背に乗せた。

 そしてネズフィラを抱き寄せるように抱える。


「じょ、ジョナス!? あなた、突然何を……!?」

「空からの方が速い。時間がないかもしれんからな、急ごうではないか」


 そして、ピュケルが割った窓から空へと飛び立つ。

 吾輩は左腕で腹側のネズフィラ、右腕で背側のカリファを押さえながら、バルハルドの屋敷へと飛んで向かった。

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