19話 試合開始
今日2話目の更新です!
食事を一緒したミーシャは「応援してます!」と言って帰って行った。
そして、それから三日後。
ついに吾輩と他の人間たちがコロシアムで雌雄を決す時が来た。
相変わらず忌々しくも美しく輝く太陽に照らされながら、吾輩はコロシアムの会場へと飛んで向かう。
すでにカリファとネズフィラは会場へと着いているころであろうが、吾輩は思うところあって一人でコロシアムに向かいたいと申し出た。
というのも、吾輩の相手は今日までに予約があっただけで二千人ほど。当日の飛び入りもいるだろうから、それを超えてくることは確実だ。
さすがに少し精神統一をしておくべきかと思い至り、吾輩はこうして今一人空を飛んでいるわけである。
空は良い、と吾輩は思う。
空は自由だ。地面という拠り所はないが、その分制限もない。
己の思うが儘に動くことのできる場所、それが空だ。
風に逆らわずに飛んでいると、まるで自分が自然と一体化したかのような気持ちになれるのだ。たまにはこういうのも悪くない。
そして、精神統一にはもう充分だ。
吾輩は上空から見ても一際盛り上がりを見せている、石の建造物に目をやる。
屋根の無いコロシアム。その真ん中に狙いを定め、吾輩は着陸態勢に入った。
瞬時に地面が目前に迫り、吾輩はコロシアムの地面に降り立つ。
そこにはすでにコロシアムを埋め尽くすほどの人間たちが、皆一様に殺気立って武器を構えていた。
「今日は良く集まってくれたな。吾輩は其方らの度胸と勇気に万雷の拍手を贈りたい」
彼らに対し、はなむけの拍手を贈る。
「そんなのはいいから戦わせろってんだ」
「そうだそうだ!」
そんな罵詈雑言が飛び交う中、吾輩の目はある一人の男を捉えていた。
バルハルドの付き人、ピュケル。三千人強はいようかというコロシアムの中で、一際の殺気を放つ男。
最早先日とは別次元にまで昇華されたその気配は、本来仲間であるはずの他の人間すらも畏怖させている。
「ククク……」
そんなピュケルを見、吾輩の口から笑いが漏れた。
面白い、面白いではないか。
ただの人間の其方が、元邪神である吾輩に本気で勝てると思っている目をしている。
それでこそ、それでこそ戦いだ。
そしてそこで勝ちを得たとき、吾輩は圧倒的な畏怖と憧憬を手にすることができるであろう。
しかもそれは同時に、カリファが最高レベルの戦力を持っているという証明にもなると来ている。
吾輩の力を見せつけるには絶好中の絶好の機会ではないか。
「何笑ってんだ、さっさと準備しやがれ!」
「殺されてーのか!」
「寝首かかれても知らねーぞコラ!」
耳障りな雑音だな。
まあよい、わからせてやろう。
――其方らと吾輩の、純然たる格の差というものを。
「来るが良い。吾輩の準備はもうできている」
手招きをすると、コロシアム全体が一瞬静寂に包まれる。
そして収縮した空気が一気に膨張するかのように、ボルテージが上がりきった人間たちが吾輩目掛けて攻撃を放ってきた。
今まさに、戦いは始まったのだ。
そんな中、吾輩が気になっていたのは敵ではなく、戦闘場所の広さであった。
コロシアムは戦闘場所を囲むように観客席が設置されている。
観客席にいるであろうカリファとネズフィラに怪我をさせるわけにはいかんのでな。
目算でおおよその大きさを感じ取る。
それができれば、あとは簡単だ。
「ゆくぞ、心せよ」
吾輩は戦闘スペース全体に隕石を落下させた。
魔法で作りだした疑似隕石であるが、吾輩クラスの魔力を用いればその威力は本物の隕石と変わらない……どころか、本物よりも高威力なものとなって天から降り注ぐのだ。
「やはり空は高い。未だ空には届かぬ……か」
隕石の降り注いた元の空を見やる。
邪神であった頃の吾輩ならいざ知らず、今の吾輩では空より高きところ――宇宙へ行くことはすでに叶わぬ願いだ。まあ、別によいが。
そんなものはすでに欲してはいない。吾輩が欲しいのは、感謝、尊敬、憧憬だ。
「ところで其方ら。これで九割以上はノックダウンか?」
戦場へと視線を移すと、すでにそこは死屍累々の光景が広がっていた。
吾輩が放った隕石によって、戦闘フィールド全体が跡形もないほど破壊され、いまだに戦闘が可能な人間は百人ほどといったところだ。
そしてその中には、ピュケルも混じっていた。
意思を失くしたかのような焦点の定まらぬ瞳で、しかししっかりと吾輩を射据えるピュケル。
吾輩の起こした隕石などには目もくれることなく、ただただ吾輩の隙を窺っている。
面白い、面白いではないか!
「精々抗うのだな、人間ども」
吾輩と残りの人間どもとの戦いが始まった。




