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自重知らずの元邪神  作者: どらねこ
2章 『貴族の姫と元邪神』編
17/30

17話 突然の来訪者

 三日後。

 カーテンの隙間から外を見ていたネズフィラが、吾輩の方を振り返る。


大事(おおごと)になっていますよ」

「ふむ、そうか」


 吾輩は食卓に並んだ果実をしゃくりと食す。うむ、甘美だ。


「『ふむ』じゃないですよ。いい案があると言ったと思ったら、いきなりあんなことを言いだして」

「まあまあネズフィラ。ジョナスは私を庇ってくれたんだし。ね?」

「カリファ様がそう言うなら……」


 ネズフィラは渋々口を噤む。


「心配するな。吾輩は誰にも負けん」

「うん。ジョナスなら勝てるって信じてるよ」


 カリファが吾輩にニコリと微笑む。

 吾輩の宣誓により、この三日間で状況はかなり変化した。

 四大貴族の後継者候補の騎士である吾輩に土をつけるチャンスだということで、腕自慢が続々と闘技場への参戦を決めているらしい。

 その中にはあのピュケルの名もあった。

 こちらは十中八九、吾輩を負かして自らの地位を盤石にしようというバルハルドの企みだろう。

 他の四大貴族の面々は様子見のようだが、バルハルドはピュケル以外にも何人かの刺客を送り込んでいるようだ。


 期せずとも訪れた、人間どもがどれほどの力を持っているかがわかるいい機会である。

 もちろん負けるつもりはない。

 吾輩はカリファの騎士であり、元邪神であるからな。

 吾輩は先程とは別の果実に手を付ける。うむ、これも美味だ。


「まあ、ジョナスなら負けることもないでしょうが……」


 吾輩を見ながらネズフィラが呟く。

 その呟きを、カリファは聞き逃さなかった。

 ネズフィラの頬を突っつきながら、軽くからかうような顔を浮かべる。


「あ、ほら。ネズフィラもジョナスを信じてるってさ」

「そ、そうは言ってません! 言ってませんからね、ジョナス!」

「ネズフィラ、其方が吾輩を信用しているのは分かっている」

「違いますってば! カリファ様もジョナスも、戯れは止めてくださいっ」


 そんな会話をしていると、不意にチャイムが鳴った。


「誰か来たようであるな」

「っ!」


 カリファの肩がビクリと跳ねる。

 おそらくあのバルハルドの訪問がまだ脳裏に残っているのだろう。


「……確認してきます。ジョナス、カリファ様は頼みましたよ」

「任せるがよい」


 吾輩の返答を確認し、ネズフィラは玄関へと訪問者を出迎えに向かう。

 吾輩は残されたカリファに声をかけた。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて」


 カリファはそう答える。

 実際、身体には異変は見られない。

 本当に平気なのか、それとも意思の力で抑え込んでいるのか。

 分からぬが、どちらだとしても吾輩にできることはない。心の問題は吾輩には荷が勝ちすぎる。

 腕力や戦闘力の問題であれば全てたちどころに解決できるのだが……人間というのはままならないものだ。


「気にするでない。吾輩は尋常でない懐の深さを誇っているからな」

「ふふ、そっか」

「うむ、そうである」


 しかし笑みを浮かべる余裕があるのならば、差し迫った問題ではないだろう。

 問題となりそうなのは再度バルハルドと会うことになった時だが、その時は吾輩がカリファを守る。

 ゆえに、問題は皆無だ。


 吾輩とカリファの元に、ネズフィラが帰ってくる。

 なぜかその表情は不審げだ。

 何かに納得がいっていないような顔のネズフィラは、吾輩と目を合わせる。


「ジョナス、あなたの顔見知りだという方が来られました。確認していただいてもよろしいですか?」

「顔見知り……? 吾輩、人間にはまだあまり知り合いはいないのだが……」

「ジョナスに知り合いがいるなんて私も変だと思ったのですが、見る限りは人を欺けるような性根をしていなそうな方ですし、嘘はついていなさそうです」


 ネズフィラの人を見る目はそこそこ確かなものだ。

 ということは、本当に吾輩の知り合いなのか?

 いや、まだ可能性はあるな。

 顔見知りを騙りつつ、なおかつ悪意のない人間の可能性が。


「もしかしたら吾輩の溢れ出るカリスマ性に憧れた人間が、吾輩に弟子入りを志願しに来たのかもしれぬな!」


 吾輩の名推理に、しかしネズフィラは澄ました顔で首を横に振る。


「それは無いです。カリファ様の幼少期の写真をかけても構いません」


 そう言ってネズフィラは懐から一枚の写真を取り出した。

 そこには幼き日のカリファが笑顔で手を振る姿が色鮮やかに写っていた。

 幼年の無垢な笑顔でありながら、すでにどこか気品が漂っている。

 それを見たカリファは即座にネズフィラに詰めよる。


「私が構うよ!? ちょっとネズフィラ、あなたそんなの持ってたの!?」

「私の家宝です」

「わ、私に渡して!」

「渡しません。絶対に。私はこの写真を見つめながらでないと寝られないんです」


 カリファは写真を奪おうとピョンピョンと跳ねるが、ネズフィラの運動神経に適うはずもなく、試みは失敗に終わった。

 カリファはその場にうずくまり、頭を抱える。


「うぅ……黒歴史だよぉ……」

「何を言うカリファ。可愛らしいではないか」

「やめてジョナス、とっても恥ずかしいからやめて……」


 カリファは悶々と頭を振り回しだす。

 人目がある室外ではまず見せない光景だ。


「カリファ様が可愛すぎてもっと見ていたいのですが、お客様を待たせるわけにも参りません。行きますよ、ジョナス」


 下唇を噛みながらカリファから離れるネズフィラ。

 どれだけカリファが好きなのだ其方。

 とはいえネズフィラの言うことも正論なので、吾輩はネズフィラに続いて屋敷の玄関へと向かう。

 ネズフィラが玄関を開けると、そこには確かに見覚えのある女が立っていた。


「ジョナスさん、お久しぶりです!」

「おお、ミーシャではないか」


 ブラックドラゴンに襲われた村を救ってほしいと言って、吾輩に助けを求めてきた人間だ。

 ……いや、吾輩が無理やり助けたのだったか?

 過ぎた話だし細かいことはどうでもよいな。

 たしかにミーシャは吾輩の顔見知りで間違いないであろう。


 ミーシャの衣服は初めて会った時の質素なものから打って変わって、綺麗なものに変わっていた。「今度会うことがあれば、次は煌びやかな服を着た其方を見てみたいと思うぞ」という吾輩の言葉を覚えていてくれたらしい。

 といっても元々の性格からか、「煌びやか」というよりは「華麗」くらいの領域に留まった服だが。

 まあなんにせよ、姿は変わらなくとも纏うものが変われば、人の印象もまた変わるものだ。


「綺麗になったな。似合っているぞ」

「えへへ。ありがとうございます。私にはもったいないような服ですけどね。これもジョナスさんのおかげです」


 ミーシャは照れたようにはにかむ。


「ジョナス、この方は……?」

「ああ。吾輩の顔見知りで間違いない。軽く村を救った時に知り合ってな」

「村を救った?」

「はい、私の村はジョナスさんに救っていただいたんです」


 怪訝そうな顔をするネズフィラに、ミーシャが詳細を告げる。


「ブラックドラゴンを一人で撃退したんですか……相変わらず無茶苦茶しますね、あなた」

「あの程度、造作もないな」


 そう答えながらも、吾輩の頬はピクピクと動いてしまう。

 驚かれるというのはやはり嬉しいな。

 ネズフィラの場合、驚いているというよりも呆れているという方が強そうなのが少し気に入らないが。


「いただいたお金で老朽化した村の設備を一新しようと思ってきてみたら、色々と噂を聞いたのでいてもたってもいられずにきてしまいました」

「でしたら、屋敷に入っていただきましょうか。外は人の目が多いですから」


 ネズフィラが門の外を見ながら言う。

 庭まではさすがに入ってきてはいないが、屋敷の外には多くの人が集まっている。

 たしかに外で立ち話というのはあまり良くないかもしれない。


「え、でも私なんかが貴族様のお屋敷にお邪魔してもいいんですか……?」

「気にすることはありませんよ、ジョナスでさえ許可されていますから」

「それはどういう意味だ!?」

「そういう意味です」


 ぬぐぐ……ネズフィラめ、後で覚えておくのだな。

 吾輩は意外と執念深いのだぞ。


「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 ミーシャがぎくしゃくとぎこちない動作で屋敷へと上がる。

 そしてネズフィラが玄関を閉め、吾輩たちはミーシャと共にカリファの待つ部屋へと向かった。

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