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自重知らずの元邪神  作者: どらねこ
1章 『黒き竜と元邪神』編
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1話 一万年の時を経て

「今日も、来ない……」


 地下の奥深く。

 太陽の光など一筋も届かぬ常闇の中、吾輩は一人嘆く。


 一万年。

 これを長いと見るか短いと見るかは人それぞれだろう。

 しかしこれだけの間誰とも会話を交わすことがなかった吾輩にとっては、絶望的なまでに長い時間だった。


「……もういい加減、我慢の限界だ。……なんでだ、なんで誰も吾輩に会いに来ない! おかしいだろうが!」


 大声を張り上げる。しかしその声に応えるものはない。


 吾輩の名前はジョナス。邪神である。

 なぜこの世の諸悪の根源たる邪神の吾輩がこのように辛酸をなめているかといわれれば、一万年ほど時を遡らねばなるまい。

 といっても、話は単純だ。

 魔王に「ジョナス様を祀らせてほしい。しばらくしたら迎えを送るから」と言われ、地下へと続く岩穴に入れられたきり、迎えが来ないのだ。……迎えが、来ないのだ。


 その上いつの間にか、地上へと上がる階段には邪神の吾輩をもってしても無傷ではすまないような、強力な護符が貼られているのである。

 いつかは迎えに来てくれるもの、迎えに来てくれるものと思いながら月日を過ごし、一万年が過ぎた。

 ――もう、限界だった。


「……いいだろう。誰も迎えに来ないというのなら、吾輩が自ら直々に地上への道を切り開こうではないか」


 洞窟の中、一人意気込む吾輩。

 勿論返事はない。むなしい。


 しかし、吾輩がここを抜け出すにあたっては一つ巨なる問題があった。張り巡らされている強力な護符の数々だ。

 魔法で送り込んできているのか知らないがその数は年々増えており、もはや百や二百では効かぬ量になっている。

 おそらくこれを無理やり突破などすれば、吾輩はもう神ではいられない。

 神という崇拝されるべき存在から、人間という下等な生物へと成り下がってしまうだろう。


「……まあ、別にいいか。それより誰か他人と会いたい。会って話がしたい。孤独にはもう飽いた」


 一万年という月日は、吾輩に強烈な寂寥感と孤独感を植え付けた。

 これは一人では取り除くことができず、治療法は他人と会うことだけなのだ。


 確かに人間のような脆弱な肉体になってしまうのは嫌だ。だがもう待てる気がしない。

 吾輩の中の承認欲求が、火を吹いて暴れているのだ。

 このままではこの炎に内側から燃やし尽くされてしまう。


 ――端的に言うと、目立ちたい。吾輩は目立ちたいのだ。

 褒めて欲しい、驚いてほしい、憧れて欲しい、凄いやつだと言われたい、崇め奉られたい、信仰されまくりたい。


 なのに吾輩はぼっち。

 おかしいだろこの世界。一遍滅ぼしてやろうか。

 ……まあ、閉じ込められている今の吾輩にはそんなことはできないのだが。


「よし、出てやる。吾輩はここから出る! 出るったら出るぞ!」


 吾輩は一万年間一度も登らずにいた地上への階段を上り始めた。

 一歩上る度、護符に力がどんどんと吸い込まれていくのを感じる。

 ええい、もう知るものか!

 神だけど一人なのより、人間だけど友達がいっぱいいる方が吾輩は羨ましい!

 そんな思いと共に吾輩はどんどんと会談を昇る速度を速め、ついには駆け上がり始める。

 力を吸い取られ続けて強烈な虚脱感に襲われたころ、ついに吾輩は地上へと到達した。




「おお、太陽よ。太陽よ……!」


 意識せぬうちに、口から言葉が紡がれた。

 一万年前は鬱陶しくて仕方がなかった天の星が、今は不思議と暖かい。

 吾輩は五感を自然に預け、その全てを感じる。

 太陽、空、雲、花々、木、風、地面……世界というのはこんなにも美しいものだったろうか。

 まるで吾輩が閉じこもっている間に地上が楽園へと変貌したかのような、そんな気分だ。

 しばらくの間、吾輩はその気分に浸っていた。



「これからどうするべきだろうか」


 誰にともなくそう呟く。

 一万年間の孤独で独り言が完全に癖になってしまったな。

 まあそれはともかく、今は今後どうしていくのかを決めねばならない。


 魔族と付き合っていくことを考えても良いが……奴等が人間となった吾輩を受け入れてくれるとは到底思えん。

 ただでさえ一万年間も迎えに来てくれなかったしな。吾輩の心の傷は深いぞ馬鹿者たちよ。


「それを考えると、やはり人間だな」


 少なくとも一万年前の時点では、人間はこの星で最も栄えている種族であった。

 その衰えを知らぬ勢いには、邪神たる吾輩も何度か冷や汗をかかされたたものだ。

 とはいえ今の吾輩はもう人間。ならば今までの禍根は全て洗い流し、人間と友好的にしていくのが一番賢い選択だろう。

 人間は数が多いから、その分多くの者に吾輩の雄姿を見て貰えるしな。

 うん、それがいい。そうしよう。


 とりあえず今後の指針を決めた吾輩は、清々しい気持ちで一つ伸びをする。


「とはいえさすがに……疲れた、な」


 力の大半を吸い取られたことによる疲労感。

 それは吾輩が想定していた物よりも数段と大きなものだった。


「眠い……なんだか無性に眠りたい気分だ」


 瞼が重くなってくる。

 視界が暗くなってくる。

 このような平野のど真ん中で寝るのは相当危ない行為だとわかってはいるが、それでも吾輩はこれ以上気力を絞り出すこともできない。

 ……まあ、寝てしまってもどうにかなるか。今は人間になってしまったとはいえ、元々は邪神なのだから。


「……吾輩の冒険は、ここからだ。……まず目標は、街を、見つけ……る……」


 そんなことを言いながら、吾輩の意識は闇へと沈んでいくのだった。

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