表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

優しい宇宙人

作者: 碧蜜柑

僕らが宇宙に旅行に行けるようになって、どれくらいの時間がたっただろう・・・。


僕は、農閑期に宇宙への小旅行を計画した。


「じゃあ、行ってくるよ!」


「行ってらっしゃい!」


家族や友達に見送られて、たくさんの作物と交換した小型宇宙船に乗り込んだ。


「やっと免許も取ったし、いっちょ行ってくるか!」


僕はわくわくした。


自動運転とはいえ、危機管理はしないといけない。


休む時は、その辺の惑星に泊まるんだよ。なんて言われた。


大丈夫大丈夫。僕は宇宙船の免許センターでも成績優秀だったから。


旅は快適だった。思ったほどのトラブルもなく、いろいろな星のいろいろな景色を見ては、感動し心にとどめた。


しばらく走らせると、とても青く明るい、美しい星を見つけた。


僕は心惹かれ、その星に泊まることにした。


その星は、知的生命体らしきものがいた。


生命体がいる星はいくつか見たけど、知的生命体らしき生き物がいる星は初めてかもしれない。


僕は、なるべく干渉しないよう、こっそり様子を見た。


この星は、ほかの星に比べ生命体の種類が格段に多い。実に魅力的だ。


知的生命体は、ほかの生命体を襲って食べているようだった。


始めはその光景に、吐き気を催したけれども、しばらく眺めているうちに、慣れた。


僕らのように、作物を食べている生命体も多いが、それを襲う肉食の生命体がいる。それがこの星の生命体の生きる理なのだと気付いた。


それにこの星は、自転が異様に早い。


恒星の明るさが、すぐに消え、暗くなる。


知的生命体は、あなぐらに消え、そこから少し明かりがのぞいていた。


ほかの生き物を襲って食べるなんて、野蛮だと思ったが、彼らは火を使えるらしい。やはり知的生命体だ。興味が尽きない。


この星の生命体たちはすぐに死んだ。


僕たちの何億分の一の命なのだろう。


知的生命体もその理には逆らえないらしく、この星が自転を何万何千回か繰り返すと、体を弱らせ死んでしまう。


なんてはかない命なのだろう。


そのうち知的生命体は、作物を育て始めた。


おお、僕たちと同じだ。


もしかして、僕たちの祖先も、はじめは他の生命体の命を奪っていたのかもしれないな。そんなことを考えながら観察を続けた。


しかし、この星の知的生命体は他の生命体の命を奪うことをやめなかった。まあ、そうだろう。そう簡単に、食事の内容は変えられないよな。


僕だって、ほかの生き物の肉をくらえと言われても、吐き出してしまうだろう。


それにしても、この星の知的生命体は不思議だ。


何かわからない大きな建物を共同で作り、そこに住むでもなく死者を運び入れたり、知的生命体そっくりの土人形を作り、それで遊ぶでもなく並べてその前で膝をついて手を合わせたり、大きな建物じゃないにしても死者が出ると、地面に埋め、何かしらのマークをつけ、そこで手を合わせ、膝をついていた。


僕の星では死者が出ても、そのまま畑に埋めて肥料にしてしまうのに。


いったい何の意味があってそんなことをするのだろう。


またしばらく眺めていると、痩せたものと肥えたものの差が出てきた。


肥えたものは、痩せたものに作物を作らせ、作った作物を持って行ってしまうらしい。


何でそんなことをするのだろう。


僕の星では、自分の作物は自分で作る。


ほしいものがあるときは作物を提供する。


作物を作れない病人や、子供には、皆で作物を与え合う。


それが社会の理念だと思っていたが、この星では違うらしい。


強いものが、弱いものを支配し、作物を取り上げてしまう。


なんと恐ろしいことか・・・。


僕は、この地区では違うかもしれない、この地区では違うかもしれない、そんな淡い期待を抱き、星中を見て回ったが、どこでも同じようなものだった。


ある時は争い、作物を奪い合った。


僕は涙を流した。


なんて悲しいのだろう。なんて苦しいのだろう。同じ知的生命体同士殺しあっている。奪い合っている。


僕はまだ観察を続けた。こんな悲しい気持ちのまま、離れることなどできなかった。


きっとこの知的生命体は、まだ未熟なのだ。


そうだ、文明が発達すれば、奪い合うこともなく、殺しあうこともなく、立派な文明を築いてくれるに違いないと期待した。


しかし、この星の知的生命体は、強者が搾取することをやめなかった。それどころか、文明ができると、違う文明を持った種族に破壊され、搾取された。


どれくらいこの星が自転を繰り返したろう。


光を自由に操るようになった知的生命体は、大きな殺し合いを何度か繰り返すようになった。


わざわざ自分たちの土地を離れ、他の種族の土地を奪い、作物を作らせ搾取した。


搾取したほうは、文明を発達させ、搾取されたほうは、いずれ疲れ果て死んでしまう。


こんなの文明ではない。まやかしだ。


僕は、この星に来た時のドキドキした気持ちをすっかり失っていた。


強いものは、弱い者に与え、弱いものは、強いものに自分のできる形で恩を返す。


それが僕の星のやり方だった。


僕の星では、種族の違いや、文明の違いで殺しあったり奪い合ったりなどけしてしないのに・・・。


僕は、泣いた。奪われたこの星の知的生命体のために。殺されたこの星の知的生命体のために・・・。


そして、知的生命体同士で殺しあう、この星の理に涙を流した。


僕は、この星を離れた。


いつか成熟して、殺し合いや奪い合いをやめるまで、見ていたかったけれど、もう、心が限界だった。


僕は、もっと他の星を見ようと思っていたが、静かに帰路についた。


宇宙船の中で、あの星のことを考えた。


きっと、他の誰かを思いやるには、あの知的生命体は命が短すぎるのだろう。


僕たちの星でも子供は喧嘩をするものだ。


あの星の知的生命体は、大人になれずに死んでゆくのだろう。


哀れだ。とても哀れだ・・・。


僕は、自分の星に帰ったら、この話を子供たちにしてやろうと思う。


きっと驚き、嘆き、悲しむかもしれない。


しかし、あの星での出来事が、僕たちの住む星で起きないとは限らない。


いや起こさせないために。


きっと僕の星では、あんな悲しみは起きない。そう信じて。


あの惑星を知的生命体は何と呼んだかな・・・たくさん言語があったあの星・・・多くの知的生命体が読んでいたその名前・・・EARTH・・・あーす・・・。


終わり


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ