優しい宇宙人
僕らが宇宙に旅行に行けるようになって、どれくらいの時間がたっただろう・・・。
僕は、農閑期に宇宙への小旅行を計画した。
「じゃあ、行ってくるよ!」
「行ってらっしゃい!」
家族や友達に見送られて、たくさんの作物と交換した小型宇宙船に乗り込んだ。
「やっと免許も取ったし、いっちょ行ってくるか!」
僕はわくわくした。
自動運転とはいえ、危機管理はしないといけない。
休む時は、その辺の惑星に泊まるんだよ。なんて言われた。
大丈夫大丈夫。僕は宇宙船の免許センターでも成績優秀だったから。
旅は快適だった。思ったほどのトラブルもなく、いろいろな星のいろいろな景色を見ては、感動し心にとどめた。
しばらく走らせると、とても青く明るい、美しい星を見つけた。
僕は心惹かれ、その星に泊まることにした。
その星は、知的生命体らしきものがいた。
生命体がいる星はいくつか見たけど、知的生命体らしき生き物がいる星は初めてかもしれない。
僕は、なるべく干渉しないよう、こっそり様子を見た。
この星は、ほかの星に比べ生命体の種類が格段に多い。実に魅力的だ。
知的生命体は、ほかの生命体を襲って食べているようだった。
始めはその光景に、吐き気を催したけれども、しばらく眺めているうちに、慣れた。
僕らのように、作物を食べている生命体も多いが、それを襲う肉食の生命体がいる。それがこの星の生命体の生きる理なのだと気付いた。
それにこの星は、自転が異様に早い。
恒星の明るさが、すぐに消え、暗くなる。
知的生命体は、あなぐらに消え、そこから少し明かりがのぞいていた。
ほかの生き物を襲って食べるなんて、野蛮だと思ったが、彼らは火を使えるらしい。やはり知的生命体だ。興味が尽きない。
この星の生命体たちはすぐに死んだ。
僕たちの何億分の一の命なのだろう。
知的生命体もその理には逆らえないらしく、この星が自転を何万何千回か繰り返すと、体を弱らせ死んでしまう。
なんてはかない命なのだろう。
そのうち知的生命体は、作物を育て始めた。
おお、僕たちと同じだ。
もしかして、僕たちの祖先も、はじめは他の生命体の命を奪っていたのかもしれないな。そんなことを考えながら観察を続けた。
しかし、この星の知的生命体は他の生命体の命を奪うことをやめなかった。まあ、そうだろう。そう簡単に、食事の内容は変えられないよな。
僕だって、ほかの生き物の肉をくらえと言われても、吐き出してしまうだろう。
それにしても、この星の知的生命体は不思議だ。
何かわからない大きな建物を共同で作り、そこに住むでもなく死者を運び入れたり、知的生命体そっくりの土人形を作り、それで遊ぶでもなく並べてその前で膝をついて手を合わせたり、大きな建物じゃないにしても死者が出ると、地面に埋め、何かしらのマークをつけ、そこで手を合わせ、膝をついていた。
僕の星では死者が出ても、そのまま畑に埋めて肥料にしてしまうのに。
いったい何の意味があってそんなことをするのだろう。
またしばらく眺めていると、痩せたものと肥えたものの差が出てきた。
肥えたものは、痩せたものに作物を作らせ、作った作物を持って行ってしまうらしい。
何でそんなことをするのだろう。
僕の星では、自分の作物は自分で作る。
ほしいものがあるときは作物を提供する。
作物を作れない病人や、子供には、皆で作物を与え合う。
それが社会の理念だと思っていたが、この星では違うらしい。
強いものが、弱いものを支配し、作物を取り上げてしまう。
なんと恐ろしいことか・・・。
僕は、この地区では違うかもしれない、この地区では違うかもしれない、そんな淡い期待を抱き、星中を見て回ったが、どこでも同じようなものだった。
ある時は争い、作物を奪い合った。
僕は涙を流した。
なんて悲しいのだろう。なんて苦しいのだろう。同じ知的生命体同士殺しあっている。奪い合っている。
僕はまだ観察を続けた。こんな悲しい気持ちのまま、離れることなどできなかった。
きっとこの知的生命体は、まだ未熟なのだ。
そうだ、文明が発達すれば、奪い合うこともなく、殺しあうこともなく、立派な文明を築いてくれるに違いないと期待した。
しかし、この星の知的生命体は、強者が搾取することをやめなかった。それどころか、文明ができると、違う文明を持った種族に破壊され、搾取された。
どれくらいこの星が自転を繰り返したろう。
光を自由に操るようになった知的生命体は、大きな殺し合いを何度か繰り返すようになった。
わざわざ自分たちの土地を離れ、他の種族の土地を奪い、作物を作らせ搾取した。
搾取したほうは、文明を発達させ、搾取されたほうは、いずれ疲れ果て死んでしまう。
こんなの文明ではない。まやかしだ。
僕は、この星に来た時のドキドキした気持ちをすっかり失っていた。
強いものは、弱い者に与え、弱いものは、強いものに自分のできる形で恩を返す。
それが僕の星のやり方だった。
僕の星では、種族の違いや、文明の違いで殺しあったり奪い合ったりなどけしてしないのに・・・。
僕は、泣いた。奪われたこの星の知的生命体のために。殺されたこの星の知的生命体のために・・・。
そして、知的生命体同士で殺しあう、この星の理に涙を流した。
僕は、この星を離れた。
いつか成熟して、殺し合いや奪い合いをやめるまで、見ていたかったけれど、もう、心が限界だった。
僕は、もっと他の星を見ようと思っていたが、静かに帰路についた。
宇宙船の中で、あの星のことを考えた。
きっと、他の誰かを思いやるには、あの知的生命体は命が短すぎるのだろう。
僕たちの星でも子供は喧嘩をするものだ。
あの星の知的生命体は、大人になれずに死んでゆくのだろう。
哀れだ。とても哀れだ・・・。
僕は、自分の星に帰ったら、この話を子供たちにしてやろうと思う。
きっと驚き、嘆き、悲しむかもしれない。
しかし、あの星での出来事が、僕たちの住む星で起きないとは限らない。
いや起こさせないために。
きっと僕の星では、あんな悲しみは起きない。そう信じて。
あの惑星を知的生命体は何と呼んだかな・・・たくさん言語があったあの星・・・多くの知的生命体が読んでいたその名前・・・EARTH・・・あーす・・・。
終わり