緊急会議を開く四天王
ここは悪魔城最上階にある大広間。
円卓テーブルと5脚の椅子があるこの部屋は何か魔王からの報告がある時に四天王の彼女達が召集するいわば会議室のような役割を果たしていた。
「ど…どどどどどどどーーーーーするのだっ!?」
バンッ!と、テーブルを叩いて身を起こしている幼げな彼女の名前はメイ。
メイは慌てた様子で他の二人に話しかけた。
「魔王様が死んじゃったのだっ!あのゆーしゃさんって人にやられてしまったのだっ!」
「落ち着きなさい、馬鹿メイ。それと敵にさん付けすな」
メイを宥める彼女はアキ。
炎のように真っ赤な長髪をツインテールにしている彼女はメイと違ってスレンダーでいてそれで大人びている。
「でもでもマズイのだ!魔王様を倒すほどの敵なんて勝てないのだー!」
「悔しいですけど今の私達にあの方を倒すほどの力があるとは思えませんの…」
深刻な面持ちの彼女、リリーは顎に手を当ててそう呟く。
アキと同様に大人びた雰囲気を持つリリーはその話し方とグラマーという言葉がピッタリなスタイルが特徴だ。
「そんなことわかってるわよっ!だからこうしてどうするか考えてるわけじゃない!」
「も…もうダメなのだ…メイ達悪魔族は滅ぼされるのだ…ふぇぇえ…」
「な…泣いてはいけません、メイ。きっと何か策はあるはずですわ」
「はぁ…魔王様との戦いの後だったから私達の力でも何とか追い払えたけど…次会ったら絶対に殺されるわよね…あたし達…」
魔王とのダメージはかなり大きかったようで勇者は三人によって繰り出された衝撃波(本気)によって城から飛ばされていたのだった。
「その追い払いもギリギリだったのだ!メイ達の全力の衝撃波をあの瀕死のゆーしゃさんは30分も耐えてたのだ!」
「こっちの方が先に力尽きそうだったっての…」
「私達も一応それなりに強い魔族のはずなのですが…あの方はきっと化け物か何かですわ…」
化け物なのはどっちだよ、というツッコミが入らないのはここが魔界だからでしょう。
「というか魔王様が負けるのがいけないのだ!」
「…まぁ、正直なところそこが一番ですわね」
「漫画とか小説なら普通弱い奴から戦うっての…初っ端からラスボスが出てくる負けイベントなんてのもあるけどそこで負けちゃ…ねぇ?」
「なーにが〝なんだか今回の勇者は歯応えがあるらしいからちょっくら倒してくるわwww〝なのだっ!それで負けるとかダサダサなのだ!」
「昔からカッコつける癖はあったけど今回はダサすぎね」
散々な言われようである。
「まー、魔王様への不満を言ってたらキリがないわ。今は今私達に出来ることをやっていきましょう。リリー、アイツによる被害の状況報告お願い」
「ええっと…フロアごとの被害状況を報告させたのですが、そこまで甚大な被害はないみたいですわ」
「ふーん…ということはステルス型?」
「みたいですわね。負傷した部下も意識を失っただけで特に外傷はないようです」
「はっ、流石勇者様ね。魔王様を倒すのが目的で無闇な殺生はしないってか」
「唯一の死者が魔王様って…情けないのだ…」
「ま、そういうことなら城の被害は特に考えなくて良さそうね。取り敢えず負傷した者の治療を最優先に、少なからず混乱しているだろうからその収集にあたるよう指示して」
「もうやってますわ」
空に描いた魔法陣に指でスラスラと何かを書いていくリリーは既にその指示を伝えていたようだ。
「あと必要なのは…ああ、魔王様と勇者が戦った広場の清掃もやらないと」
「天井にはゆーしゃさんを飛ばした時にできた大きな穴ぼこもあるのだ」
「そこら辺の修理はメイが指示しなさい」
「えーーー。アキちゃんがやればいいのだー」
「あたしは他にやることがあるの。修理の指示ぐらいなら馬鹿なメイにでもできるでしょ」
「ぶー、仕方ないなぁ」
ぶつぶつと文句を言いながらもメイも魔法陣を展開。
リリーと同様に指で何かを書き込んでいく。
生前の魔王が面倒くさがり屋であったこともあってか、部下達への指示は四天王が独断で出すことが多かった。
そのためこれまでの一連の流れはとてもスムーズで、現時点で三人が考えたしないといけない指示を出し終わるのにはそう時間はかからなかった。
「ふぅ。ひとまず落ち着いたってことでいいのかしら」
「いいえ、まだよおっぱい星人」
「誰がおっぱい星人ですのよっ!!!」
「取り敢えずやるだけのことはやったけど私達は一つ大きな問題を抱えてるわ」
「問題?」
軽く首を傾げたメイを見て「そう」と頷いたアキは組んだ手をテーブルに置いてこう言う。
「魔王様が負けた事実をどうするか、ってことよ」
「どうするかって…どうするのだ?」
「魔王様の敗北を隠蔽するか、それとも皆に知らせるか、ってことですわね?」
聞いてきたリリーに黙って頷くアキ。
「正直なところ、魔王様が負けたのは衝撃的な出来事よ。この魔界における最強の悪魔が負けて、更にはいなくなってしまったのだから。この事を他の悪魔達が知ったらどうなると思う?」
「うーん…お葬式が賑やかになる?」
「馬鹿は黙ってて」
「メイは馬鹿じゃないのだぁ!」
「悲しむ者、怒る者、恐怖する者、そして次の魔王は自分だと名乗り上げる者…他にもいくらでも考えられますわ」
「つまり混乱が生じると予測できるわ。この城内のみならず魔界全体に、ね」
敵対関係にある人間に魔界の王を殺されたという情報が広まったらどうなるか、なんてのは少し考えれば誰にだって予測できることだった。
人間を恨む者、人間界へ攻め込もうとする者、最強の悪魔よりも強い人間の存在に恐怖する者、王座を狙う者などなど。
魔界に混乱が生じるのはほぼ確実と言っていいだろう。
「じゃあ言わないでおくの?」
「それが無難だと思う。幸いこの事を知ってるのはこの三人しかいないわけだし」
「いつまでも隠し続けられるわけではないでしょうけど、今はそれでよろしいかと」
「じゃっ、決定で。しばらくの間は魔王様不在を察知されないよう振る舞いなさい」
「ほーい」
「ほーい、じゃなくてぇ」
「…へっ?いへへへへへへへへへっ!!!」
口角を引きつらせたアキは一瞬にしてメイの背後に回る。
そして前に両手を伸ばすとメイの柔らかそうな頬っぺたを掴み、ギューーーッと引っ張っていた。
「ア・ン・タが一番危ないんでしょーがっ!馬鹿で口の軽いアンタがッ!」
「い…いひゃい!はひしゃんいひゃいのらーーーっ!(い…痛い!アキちゃん痛いのだーーーーっ!)」
「いーいっ!?もしなんかヘマしたらあの世行きだからね!?悪魔から天使にしてやるから!」
「わひゃっへるのだーーー!ひほふへるのらーーー!(わかってるのだーーー!気を付けるのだーーー!)」
「ま…まぁ、メイも気を付けると言ってるのですから。落ち着きなさいな」
「アンタもだからね、リリー。リリーは結構思ってることおっぱいに出てて分かりやすいんだから」
「それを言うなら顔とか表情にでしょ!?どうやって胸で思ってる事を表現するんですのよっ!」
かくして緊急会議に幕は閉ざされたのだった。
さて、魔王がいなくなった魔界はこれから一体どうなるのか。
それは神のみぞ、いや悪魔のみぞ知る、と言ったところだろうか。