だってそのお方が
まだ魔法があり、人間と悪魔が争っていた時代。
遂に魔王の本拠地に到着した勇者はその単身で悪魔城を攻略していく。
その圧倒的な力を前に攻略を許してしまう悪魔達。
そしてとある部屋に着いた勇者は一体の悪魔と対峙することとなった。
その実力はほぼ互角、お互いに決定打となる攻撃を入れられない状況が続く。
激しい攻防にキズだらけになっていく身体。
しかし今、正にその闘いに終止符が打たれようとしていた。
「そ…そんな馬鹿なっ…」
「はぁっ…はぁっ…」
巨大な柱に囲まれた闘技場のような広場の中心には二つの人影。
「これで…終わりだっ」
「くっ…」
二人の姿はボロボロになっている。
所々に傷や血痕がついた純白の鎧を身に纏った黒髪の青年、そしてこちらも傷だらけとなった黒のマントを付けた青髪の青年。
二人はギリギリまで顔を近づけて睨み合っている。
「な…何故だ…何故短剣ごときに刺されただけでこれ程の…」
鎧の青年は金色の短剣を持っており、それは青髪の青年のちょうど心臓辺りを貫いていた。
「ただの短剣ではない…これは俺が長年かけて聖の力を込めてきた短剣…聖剣だ」
「く…くくく…そうか…だからこの俺が…」
刺された青年は傷口に視線を向ける。
短剣が刺された場所からは灰のようなものが舞っている。
青年の身体が散っているようだ。
「本当は魔王に使いたかったが…仕方なかった」
「…は?」
「こんなところで手こずるようじゃ魔王には勝てない…俺はまだ強くならなきゃいけない…お前はそれを教えてくれた」
「いや、ちょっとまっ」
「感謝するぞ強き悪魔…さらばっ!」
「グァァァァァァァァァァァァッ!」
青年が短剣に力を込めると悪魔は断末魔を残して一気に散っていた。
「あ…危なかった…」
残った青年はバタンと仰向けに倒れた。
右手に持ってた短剣は金色を失い銀色になっている。
「今回ばかりは…負けるかと思ったぜ…なかなか、いやかなりの強さだった」
深い呼吸を繰り返す青年。
その発言と負傷具合から青年も相当なダメージを受けたと思われる。
「こんなところで手こずっては…魔王なんかには勝てな」
「えーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
突然聞こえてきたその声と一緒に現れたのは一人の少女だった。
ピンク色のベリーショートと低めの身長、そして倒した悪魔が付けてたのに似た黒のマント。
そのマントが彼女が悪魔であることを証明していた。
「くっ…次の敵かっ…」
「な…なんなのだ?…も…もしかして…倒しちゃったのだ?」
少女は口を開けて呆然とした様子で青年を指差した。
その指は震えている。
「ちょっ…ちょっと!みんな来るのだ!」
後ろを振り返って手招きをする少女。
「なーに焦ってんのよ、馬鹿メイ」
「そうです。魔王様に選ばれた四天王ならもっと落ち着いた振る舞いをするべきですわ」
「あっ…アレを見るのだっ!」
「は?」
「へ?」
少女が指差したのはもちろん青年だ。
満身創痍の青年は苦しそうな表情を見せながらなんとか立ち上がっていた。
「はッ…四天王ねぇ…ということはあいつらも今倒した奴ぐらい強いのか…最高だな」
「えっ!?ちょっ、マジなのっ!?」
「み…みたいですわよっ!?どうするんですのっ!?」
「よく聞けぇっ!そこの悪魔共ぉっ!」
そう言うと短剣の剣先を離れた悪魔に向ける。
「俺はこんなところで負けるわけにはいかないっ!女でも容赦はしない!」
どこか慌てた様子の彼女達を前に更に続ける。
「どうせさっきの奴は四天王の中でも最弱とでも言うんだろ!?そんな脅し俺には通用しない!俺は必ず魔王を倒すっ!覚悟しろォッ!!!」
「ひぃっ!」
「ちぃっ…」
「くっ…」
重症ながらもその威圧感を衰えさせない青年を前に彼女達は心の中でこう叫んだ。
今倒したのが魔王様なのだーーーっ!
今倒したのが魔王様なんですけどーーーっ!
今倒したのが魔王様ですわーーーっ!
と。