稲荷氏神夫妻へのクリスマスプレゼント
秋尾は、スーツの男女にがっちりとガードされつつ、境内の石段を登る。
石段の両端には、狐の耳と尻尾の生えた私服の町人がずらりと並んでいる。
「な・・・なんですか・・・これは!」
「何って、一族の者です。仕事で外せない者以外は、お祝いに集まっております。」
スーツの女性の一人が答えた。
「秋尾様も、一族の血を引く者・・・今は、そのお力が眠っているに過ぎません。」
「お・・・お祝いって・・・」
「文字通り、ご婚礼のお祝いです。小孤様は、可愛らしいお方ですよ。」
本殿の敷地に入ると、参道脇に狐の像を乗せた石灯篭が並んでいた。
「狐灯篭です。江戸時代は蝋燭、明治はガス、昭和で電灯に切り替わっています。現代はLEDです。」
「しゃれてますね・・・」
そのうち、配線が光ケーブルになるだろう。
どばん!
突然、本殿の扉が開き、中から巫女装束の少女が現れた。
「やっほーっ!」
そのまま跳躍。
空中で一回転し、秋尾に飛びつく。
「ようこそ秋尾君!
あたし、小孤!
この町の守護にして在宮司の稲荷小孤!
今日から、あなたのお嫁さんだよぉ。」
見ると、小孤の尻尾は、九本ある。
「君・・・尻尾が・・・」
「うん。うちの一族はね・・・力の強さで尻尾の数が多くなっていくの。」
秋尾は、ここへと婿養子にきたのだった。
―かわいいなあ・・・-
一目ぼれをしてしまった。
そうして、わずかだが時は過ぎる・・・
二人は夫婦として時をすごした。
記録的な大寒波。そんな夜の出来事・・・
「小狐・・・ソーラーパネルは?」
「全機止まっちゃった。けど、風力発電機は生きてるし、エ○ァが引きちぎらない限り壊れないわ。」
なんだ、その頑丈さ・・・
二人して、DVD観賞をしている。
この寒さでは、なにもする気が起きないので・・・
こんこん・・・
母屋のドアが叩かれた。
「誰だろう・・・こんな日に・・・」
「どうせ、雪女でしょ。」
秋尾と小狐は、しばらく放っておくことにした。
怪しい奴は、THEシカト・・・
「開けろってんだよオラァッ!」
バキャ!
母屋のドアは、蹴破られた。
ひゅううううううう・・・
びゅおおおおおおお・・・
「ああ・・・寒い・・・」
「せっかくのエアコンの暖気が・・・」
秋尾と小狐は、ぶるぶると震えた。
「寒くない?」
言うと、秋尾は小狐を抱き、神力を高めた。
身篭った妻の身体を冷やすわけにはいかない。
「あったかい・・・あったかいよぉ・・・」
「君の身体は、今一番、冷やしちゃだめなんだよ・・・」
「うん・・・わかってる・・・」
「だあああああッ!私をシカトすんじゃねえ!」
「客」は、サンタの服を着た女性だった。
そして、でっかい袋をかついでいた。
「まったく・・・ドアを蹴破らないで欲しいなァ・・・」
戸を直し、「客」を居間に入れる。
「私は、「サンタクロース協会日本係り」のイリナだ。」
「サンタ?コ○コーラの広告に出ていた?」
「あれは、二十六代目サンタクロース総帥聖ニコラウス十五世様だ。」
秋尾の問いに、イリナは答える。
「つまり・・・「あの人」がサンタの王様・・・」
「そうなるな・・・
これだから、現代人は・・・」
言うと、袋から狐の夫婦フィギュアを取り出した。
「これは、稲荷神の女王・ダキニ様からの贈り物だ。円満の護符だな。じゃ・・・メリークリスマス!」
言うと、その姿はそこから消えた。
「本当にいたとは・・・」
小狐は、呟いた。
数ヵ月後・・・
その日・・・
突然、小狐は産気づいた。
「もしもし!」
秋尾は、「稲荷医院・産婦人科」に電話をかける。
「さ・・・産婆のリズムで・・・踊りだすぅ~・・・」
かなり古い歌だ。
「こういう、無茶はすんな!」
変な無茶をする妻である。
秋尾は、妻・小狐の出産のため、産婆を呼んだ。
迫力満点の婆さんのこれぞ「産婆」という稲荷神の女性・・・
肝っ玉母さん風の稲荷神の女性・・・
若くかわいいナース風の稲荷神の女性・・・
この三人だった。
「「「我ら、稲荷町・・・ザ・三婆!」」」
秋尾の目が点になった・・・
「吸って・・・吐いて・・・」
「うん・・・順調ですね・・・」
「秋尾様!小狐様の手を握っててくださいませ!」
悪戦苦闘が続く・・・
やがて、ナース産婆が、するりと産道から抜け出た赤ん坊を取り出し、へその緒を切る。
やがて、大きな産声が響く。
肝っ玉母さん産婆が、赤ん坊を産湯で洗い、婆さん産婆が産着を着せる。
「おめでとうございます!元気な男の子ですよ!」
小狐は、にっこりと微笑むと、そのまま寝入ってしまった。
とにかく・・・
跡取りはできた。
でも・・・
それだけでなくても・・・
そう秋尾は、思った。
もしかすると、これが「クリスマス・プレゼント」か・・・
上位の神様からの「安産の加護」・・・