第8話 ナギは明日から・・・
「そこです」
颯の発言に近藤は車を少し離れた路肩に停め、一行はナギの墓がある森の前に着く。
颯が右手をかざすと、森の中から道が現れる。その道を4人はひたすら歩く。森を抜けると西洋風の墓がポツリと建っている。そしてその墓の陰から1人の少年が顔を覗かせる。
「やあハヤテ、ヨシノ・・・」
やはりナギの様子がおかしい。元気がない。
「どうしたんだナギ?」
颯が訊く。
「ぼくにはもう、時間がないんだ・・・」
夕日を背にし、涙を流しながらナギは答える。
「・・・もしかして成仏しちまうのか!?」
「君たちの時代じゃ天に召されることをそう言うんだね」
ナギの体がみるみる透けていく。
「何だよ!せっかく出会えたのに!おまえはこれでいいのか!?」
「嫌だよ!ぼくだってハヤテと友だちになりたかったよ!」
2人は思わず泣き叫ぶ。美乃の目からも涙がこぼれる。絵利菜もなんとなくだが、理解ができたようで、思わず唇が震える。
「言ったでしょ、ぼくはこの世界の人間じゃない。もうすでに死んでいるんだ」
「だからって・・・。そんな・・・」
そのとき、近藤の胸元とナギの墓標が光る。やはりロケットとナギは何か関係があったようだ。
「君がナギか?」
近藤がようやく口を開く。
「そうだけど、おじさんは?」
涙をこらえながらナギが答える。
「失礼した。俺の名は近藤勇治郎。これに身に覚えはないか?」
近藤はジャケットから先ほどのロケットペンダントを取り出す。
「それは、ぼくがソフィアからもらった・・・」
消えかかっているナギがハッとする。
「やはりそうであったか・・・。これは俺の家に伝わる家宝、そのソフィアとは、『ソフィア・サンクスビギング』で間違いないな?」
「うん。・・・ってことは、おじさんはソフィアの・・・」
「ああ・・・子孫だ」
ナギは自らの手で涙をぬぐいながら、近藤からロケットを受け取る。すると・・・。
ナギの身体がまばゆく光りだす。4人は思わず目をふさぐ。
光が消える。
「・・・ぼく、どうなったの!?」
ナギが声を上げる。4人は目を開き、そちらを見る。すると・・・。
「ナギ、おまえ元に戻ってるぞ!」
颯は驚いて思わず大声を上げてしまう。
「えっ!?」
颯たちは目を疑った。先ほどまで半透明で今にも消えそうだった少年が、はっきり見えている。
変化があったのはそれだけではなかった。ナギは近藤から渡されたロケットを開けてみる。するとさっきまで空だった縦長六角形の窪みに、同じ形の青色の綺麗な石がはまっている。
ナギは泣きながらロケットペンダントを抱きしめる。そして・・・。
「あれっ!?」
その変化に最初に気付いたのは、絵利菜だった。周りの景色が段々森になっていくのだ。
「どうやら今はあの墓には用は無くなったようだな」
「そのようですね」
近藤の呟きに美乃が頷く。
それと颯にはもうひとつ驚くことがあった。
「ナギ、おまえ・・・」
そう、墓や神殿から出ても、ナギの姿が実体化したままなのである。
「・・・ソフィア・・・そこまでしなくても・・・」
ナギの涙はまだ止まらない。颯はナギの持っているロケットの石にスマホのライトを当てる。そこには何か文字が刻んである。しかしそれは日本語ではなかった。
「何て彫ってあるんだ?」
「・・・『私の分まで生きて』」
颯の背後から近藤が覗き込む。
「つまりだな颯、ソフィアはナギが一度死んでも生き返るように魔法をかけたんだ。しかしそれは使用者の寿命を縮めるというというリスクがある。・・・そのため、現在は使用禁止になっている」
「うわぁ~~ん!!」
ナギが号泣する。しかし颯たちは何と声をかけたらいいか思いつかなかった。・・・そのとき・・・。
「せっかく『生きて』って言ってくれたチャンスを無駄にするの?」
絵利菜がナギに近づき、抱きしめる。
「あたしもパパとママを亡くした身だから、何となくなんだけどわかる。・・・辛いよね。・・・でも大丈夫、今度はあたしたちがついてる。・・・だからね?もう泣かないで」
「うん・・・」
ナギは涙をこらえ、袖で拭く。
「ごめんね・・・でももう大丈夫、ありがとう。えっと・・・」
「絵利菜だよ。綾垣絵利菜」
「エリナ、ありがとう。ハヤテもヨシノもユージローもありがとう。」
ナギに笑顔が戻った。しかしちょっとした問題があった。
「ナギ、これからどこに住むんだ?」
颯が訊く。
「ん~~・・・どうしよう?」
「家に来ないか・・・?」
近藤が話に入る。
「いいの?」
「ああ、たいしたことはできないがな」
ナギは近藤の家に預かられることになった。
そして5人は森の外に向かって歩き始める。そのときナギはひとり振り向き、ひと言放つ。
「ソフィア、ありがとう」
森を出てすぐナギは近藤の車を見て歓声を上げる。
「おぉ~!!何これ!?」
「自動車だよ。近藤さんの」
颯が答える。
「ユージローのかぁ~」
「おまえ、何回か外に出て見たんじゃないのか?」
「ううん。目覚めたら今日がだったし、外に出たのもハヤテを探しに出たあの1回だけだから・・・」
「そっか・・・」
近藤が問う。
「・・・なあ颯、もう悪いがちょっとだけ付き合ってくれないか?」
「俺は大丈夫ですが、絵利菜はどうなんだ?」
「あたしも大丈夫だよ」
車に乗ること自体初めてなナギに助手席を譲る颯だが、自分が乗り物に酔いやすい体質なので、どうしても窓際は譲れず真ん中の席には美乃に乗ってもらった。
近藤は車を走らせる。ナギは初めて乗る自動車に大興奮だった。しかし・・・。そのこともあってか、数十メートル進んだところで酔ってしまった。
「もう少しの辛抱だ。あとちょっとで着く」
果たして颯たちはどこに向かうことになったのであろうか?