第5話 颯vs.首狩りの処刑人《バーサーカー》
「・・・うっ・・う~~ん・・・はっ!」
絵利菜は目を覚ます。
「ここは・・・?」
辺りを見回してみる。窓から西日が差し込んでいるようだが、何かで遮られて薄暗い。なにより埃臭い。壁や床には四角い跡、すぐそばには止まったエスカレーター。そして何より自分がロープで拘束されていてうまく立ち上がれない。
「誰か!誰かいないの!?」
「おっ!ようやく目を覚ましたな」
男の声がする。その声がする方を向くと、中年の大男が床に槍をついて座っている。
「あんた何者よ?」
「俺か?俺の名は田藤納継。名前くらいは聞いたことあるだろ?」
「ごめん、全然知らない」
即答だった。
「・・・ったく。こんなんじゃ脱獄してコイツを手に入れた意味がねえ・・・」
田藤は頭を抱えてため息をつく。
「脱獄?今、脱獄って言った?じゃあ、あんた悪いやつなの?」
「ああ、これまでに何人も殺してきた。そしてその殺した奴の首を、俺のコレクションにするククク・・・」
(この人怖い・・・)
絵利菜の体は恐怖でガタガタ震える。
(まあこの女を人質にあの小僧とチビッ子が空の聖騎士をつれてくる。ソイツを手に入れ、あの方に渡す・・・。完璧な作戦だ)
田藤は腕に着けている時計を見て不敵な笑みを浮かべる。
「・・・待てよ」
「・・・えっ!?」
田藤は立ち上がり、槍先を絵利菜に向ける。
「時間だし、あのガキとチビッ子が来たとき、『この女が死んでた』ってのもおもしろいかもしんねぇな」
田藤の持っていた物はいつの間にか槍から剣に変わっていた。そしてその剣を振り上げる。絵利菜は恐怖のあまり全力で目を瞑る。
絶体絶命のピンチ!!
「颯ぇ!!」
絵利菜がそう叫んだ瞬間、金属同士がぶつかる音がした。
「大丈夫か?絵利菜」
目を開けると、小さな体で必死に自分をかばっている美乃。振り下ろそうとしている田藤の剣を翡翠色の太刀で受け止めている颯。
「颯!!しーにょん!!」
絵利菜の目からは喜びのあまり涙がこぼれる。
「わりぃ、いろいろあって遅くなった」
「うん・・・でも助けに来てくれてありがとう」
颯は田藤の剣を弾き、絵利菜に謝る。
「さて・・・絵利菜をこんな目に合わせやがって、許さねえぞデレスケオヤジ!!!」
颯は太刀先を田藤に向ける。そして田藤の剣を見てあることに気付く。
「つかオッサン。何だよその剣、先丸いじゃねえか。さっき店で持ってたのはでっけぇ鎌じゃなかったか?」
颯の問いに田藤は不敵な笑みを浮かべながら答える。
「俺の邪器はそういうやつなんだよ。好きな武器に自由自在に形状を変えられる・・・。まあ、武器の知識が豊富な俺にはもってこいのブツだな」
「なるほど、それでそのダサい剣にしているわけだな」
「ダサいとは聞き捨てならねえな。この剣は『エクセキューソナーズ・ソード』中世ヨーロッパで、罪人の首を刎ねるために使われた剣だ」
「首を刎ねる?・・・そうか!オッサンの顔思い出した!!今朝、連続殺人犯が脱獄したってニュース・・・」
「ああ俺さ、前に集めていた生首のホルマリン漬けのコレクションはポリ公共に回収されちまったからな。おまえらが新しいコレクションのナンバー1~3だ!!ハハハハハ!!」
田藤は甲高い声を上げて笑う。
(コイツ頭狂ってやがる・・・)
颯は太刀を構える。
美乃は後ろの方でスマホでニュースサイトを調べる。
「あった!」
「どれどれ?」
「『連続殺人犯、田藤納継。遺体を切り刻み首を持ち去ることから、首狩りの処刑人の異名がついた。3月29日、逃走中のところ警視庁によって逮捕されるが、4月3日行方を暗ます。警察は全力を挙げてこの男の行方を追っている』・・・颯さん、気を付けてください!!」
「ああ!!」
「小僧・・・空の聖騎士はどうした?どこにいる?」
田藤が颯を睨みながら問う。
「ここにいるだろ?」
颯は魔刀・神凪を左手に持ち替え、右手の甲を田藤に向ける。
「まっ!!まさかそれは・・・!?」
「空の聖騎士の証、SKYの紋章さ」
「なるほどな、おまえが空の聖騎士だったのか!!まあいい、こりゃあ首の狩り甲斐がありそうだ。・・・さあ来い!!てめーの首は俺が永久に保存しといてやるからよ」
田藤は不敵な笑みを浮かべる。
「なに、訳の分からないこと言ってやがる・・・。」
颯は田藤に飛び掛かっていった。
颯が太刀を振る。
しかし田藤はその振りをすべて防いでしまう。つまり攻撃が当たらない。
「くそ・・・」
「そんなもんか空の聖騎士。偉そうなこと言ってたわりには、弱っちぃじゃねえか?」
「コイツ、強ぇ・・・。」
「とどめだ!!」
田藤が剣を大振りする。颯は辛くもその攻撃を防ぐが、剣圧で数メートル離れた柱まで弾き飛ばされてしまった。
「颯!!」「颯さん!!」
絵利菜と美乃も思わず声を上げてしまう。
「大丈夫だ・・・」
太刀を杖に立ち上がる颯、そして再びかまえる。
「今度ははずさねえぞ・・・覚悟しろ!!」
田藤は再び剣をかざす。
(くそっ・・・。俺はコイツに勝てねぇのか・・・?)
ピンチに追い詰められた颯。しかし絵利菜を守りたい、もうなす術は無いのか!?
「俺の・・・俺の首を取るなんて、100年早えーんだよ!!」
そのとき、颯の一振りが奇跡を生んだ。
「うわぁ・・・」
田藤が吹き飛ぶ。
「風か!?」
颯が驚く。もちろん絵利菜や美乃も驚く。
今の颯の一振りで神凪から風が放たれた。
颯は居間の一振りで吹き飛んだ田藤の近くに歩み寄る。そして翡翠色の刃を向けて真剣な目で言葉を放つ。
「立て、絵利菜の心の痛みはこんなもんじゃ無かったはずだ」
「そうか、そうこなくちゃな」
田藤は自分の剣を力強く握り、立ち上がって颯に向かって大振りする。しかしそれは一振りで簡単に弾き返されてしまう。完全に逆転した。
一振りで弾き飛んだ田藤の邪器、颯はそれに向かって神凪を横振りする。すると小さな竜巻ができ、それに包まれた邪器は粉々に砕ける。そして竜巻は掻き消える。その光景にその場にいた者たちは驚く。
「俺の邪器が・・・」
田藤は邪器を壊されたショックで精神崩壊状態になったのか、足を崩す。
「美乃!!」
颯が声を上げる。
「はっ、はい!!」
「悪いが、その魔導攻防隊に連絡を取ってほしい。コイツを拘束する。何も殺すことはないだろ?」
「わかりました」
颯の声はいつもの優しい声に戻る。その指示で美乃はスマホを手に取り、連絡する。
「もしもし近藤さん?お疲れ様です。今、田藤納継を捕らえました。・・・ええ、場所は商店街近くのデパート跡です。・・・ええ・・・わかりました。失礼します」
美乃は電話を切る。
「今、近くまで来てるそうです」
「そっか、じゃあ一安心だな」
「あのさー、颯もしーにょんもなんなのさっきから・・・」
絵利菜がほっぺたを膨らます。
「まあ、あとで話すよ」
颯はそう言いながら絵利菜に巻かれてるロープを神凪で斬る。
「・・・でもふたりとも助けに来てくれてありがとう」
・・・と、喜んでいたのも束の間。
「このガキ共がぁーー!!」
錯乱した田藤襲い掛かってくる。ヤツの右手にはサバイバルナイフが握られている。
「颯さん!絵利菜さん!伏せて!!」
美乃の表情が一変する。
ふたりは美乃に言われたとおり身を屈める。
美乃は即座に魔器を杖に変え、構える。
「ライトニングボール!!」
先の白い宝玉から光の球を放つ。
光の球は颯と絵利菜の頭上を通り抜け、田藤に当たる。
「ぐはっ!」
田藤は倒れた。
「危ないところでしたね。これでしばらくは大丈夫だと思います」
「美乃・・・コイツ・・・」
「おそらく、邪器を壊された恨みを晴らしたかったんでしょうね。多分、このサバイバルナイフはもしものための切り札だったんだと思われます」
田藤を倒し、絵利菜を取り戻した颯と美乃はこのまま魔導攻防隊が来るのを待った。