第2話 SKYを継ぐ者
その日の夜の東雲家、
颯には同級生からは美人と評判な3つ上の姉、涼香と、真ん丸と太ったの2つ下の弟晃がいる。夕飯の準備に取り掛かっていた。・・・とはいっても、準備をしているのは涼香だけで、颯と晃は携帯型ゲーム機で対戦をしていて、男たちはそれぞれ熱くなっていた。
ゲーム画面を必死に見つめながら「アイスストーム!」と叫ぶ颯に対し、「アレイアードスペシャル!」と叫ぶ晃。パズルゲームで対戦していて、2人は連鎖に応じてのキャラクターのセリフを真似ているようだ。
「ばたんきゅぅ~」
「残念だったな!」
結局、晃の勝利となった。
「ごはんできたよ~」
男たちは「はいよ~」と返答した。テーブルの上を、颯が片付け、晃が台布巾で拭き、涼香が料理を運ぶ。
3人の「いただきま~す」で食事は始まった。
今夜の東雲家の夕飯はカレーだ。涼香は辛いのが苦手なので1人だけ中辛を食べる。颯と晃は辛口なのだが、その中でも晃は、辛口カレーだけでは刺激が足りないのか、ブラックペッパーと粉末の唐辛子をかけて食べる。
「・・・ふぅ~・・・ごちそうさま」
食事を終えた颯は居間に寝転がる。そして数時間後、風呂に入り床に就いた。
その夜、颯は不思議な夢を見た。それは、夢というにはとてもはっきりしたものだった。
「ここは・・・」
辺りは何もない真っ白な世界、そんな中に自分は立っている。
しかし右手の甲を見てみると、翡翠色の輝いた先の渦巻いた勾玉のような模様が描かれていた。
「なっ!なんなんだこれは!?」
そこに声が聞こえてきた。
「君は、ぼくの力を受け継いだんだ」
目の前に突然、1人の男の子が現れた。鼻筋が通っていてけっこうなイケメン、歳は自分と同じくらいのようだが、RPGの登場人物のような服を着ていて、髪色も現実の天然ではありえない、藍色をしていた
「ぼくはナギ。君は?」
「俺は、颯」
「・・・ハヤテ?目が覚めたら、ぼくに会いに来て」
ナギと名乗った少年はそのまま光の渦の中へと消えていった。
そして颯は目を覚ます。そこはもちろん自分の部屋のベッドの上。もちろん右手の甲を見ても何も描かれていない。
「目が覚めたら、ぼくに会いに来て」その言葉が脳裏から離れない。あの少年はいったい何を伝えたかったのか、颯は全く分からなかった。
「ん~~・・・。もう7時かぁ・・・」
颯はスマホを見る。今日も学校なのでいつも通り制服に着替え、自分の部屋からリビングへと降り、朝食をとる。ちなみに今日の朝食は、昨晩残ったカレーである。
カレーを温めていると、姉の涼香が降りてきてテレビをつける。
「おはよ~」
「おはよ・・・今、カレー温めてっから・・・」
「私はいい・・・」
「そうだったな・・・姉ちゃん、2日目のカレーは食わねぇんだったな」
「なんか適当に探すよ」
2人が用意をしていると末っ子の晃も降りてきて、朝食が始まる。
「「いっただきま~~す」」
3人は戸締りなどを確認し、玄関の鍵をかけ、出発する。
今日は絵利菜は日直のため、先に学校に行っている。颯はウォークマンに入れた大好きなアニメソングを聞きながら、いつも行く学校へと歩き始める。しかしあの夢が脳裏から離れない。
「ナギ、おまえはいったい何者なんだ・・・?」
学校に向かう途中、颯は人通りの少ない道である人物を目の当たりにする。
RPGに出てきそうな服装をしていて、藍色の髪をした自分と同じくらいの男の子。間違いない夢に出てきた男の子だ。しかし半透明に透けている。
「・・・ナギ!?」
颯は思わず口を開く。すると半透明な少年も口を開く。
「ハヤテ!!」
颯はウォークマンの音楽を止め、ナギに近づく。
「なんでおまえ、透けてんだよ?幽霊なのか?」
「しーーーっ!!ここじゃ少しとは言えど人目に付く。ぼくの姿や声は見えないし聞こえないけど、君からの言葉は丸出しだ。とにかくぼくについてきて」
半透明の少年は宙に浮かび、進みだす。
「ああっ!!ちょっと待てよ!!」
とにかく颯はナギについて行くことにした。
ついて行くとそこは人気の全くない森の前だった。
「ここに何かあるのか?」
「手を見てみて」
ナギの言うとおり手を見る颯。右手の甲に夢の中で出てきた模様が浮かび上がる。
先の方が渦を巻いた勾玉のような模様、それが翡翠色の輝いている。
「夢じゃなかったんだな!!」
「空にかかげてみて」
またナギの言うとおりにしてみる。するとこんどは正面の木々が消え、1本の道が現れた。
「うわっ!」
颯が驚くのも無理はない。現れた道に足を踏み入れた瞬間、ナギの姿は半透明からはっきり見えるようになったのだ。
「この中ではぼくも普通でいられるんだ。この先だよ着いてきて」
颯は恐る恐る歩く。道を抜けると日当たりの良い小高い丘があり、そこには1本の大きな針葉樹と1つの西洋風の墓、それと奥には大きな扉があった。墓には見たこともないような文字が刻まれていた。
「なあナギ、これ何て読むんだ?」
「『ナギ・スカイオーシャン ここに眠る』」
「って・・・!?」
「そう、ぼくのお墓だ」
「えっ!!どういうことなんだ!?俺には全然わかんねぇ!!」
「じゃあ、順を追って説明するね。ぼくはとある王国で生まれ育ったんだ。だけどある年に王が亡くなり、新しい王に変わったその時から国は大きく変わった。そう・・・絶望の方向へと・・・。」
「その話・・・俺、知ってる!!」
「なんだって!?」
「子供の時、母さんがよく話してくれたんだ。確かそのあと勇者が現れて、翡翠色の剣を使って邪悪な王を倒し、のちに伝説を残したんだけど、最後の一撃を切り裂いたとともに勇者は命を落とした。・・・って。・・・っあ!!」
「それがぼくなんだ。そして気が付いたらこうなっていた。最近、あのときのような気配を感じるんだ・・・」
「えっ!!」
「そこの扉の奥にはぼくが邪悪の王を倒した時に使った剣がある。その剣を使ってぼくの代わりに邪悪の王を倒してほしい!!その右手にあるSKYの紋章、君が受け継いだのは勇者の力は『空の聖騎士』なんだ!!」
「ナギ・・・悪いんだけど、ちょっと考えさせてくれないか・・・」
颯は扉の前で立ち止まる。
「・・・うん、わかったよ。でもぼくは、またハヤテが来てくれるって信じてる」
「悪いな・・・」
「ううん」
颯は墓を後にし、学校に向かった。