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うらしまたろうと、かぐやひめ。

いまはむかし。


とあるりょうしまちに、うらしまたろうというせいねんがおりました。うらしまたろうは、としおいたりょうしんをたすけ、まちいちばんのりょうしとしてならしておりました。たろうが、ふねをだせば、りょうしなかまもこぞってふねをだします。なぜなら、たろうのつりざおは、さかなをひきよせるといわれるほど、つりじょうずだったからです。じっさいに、さかなをつかまえるぎりょうがとびぬけており、さかなのこころがよめるのではないかとおもわれるほど、りょうがじょうずだったのです。


そんなうらしまが、いつものように、つりにでかけようとしたあるひ。こどもたちが、かめをいじめているのをみかけました。


これ、こどもたち。どうしてかめをいじめておるのだい。


だって、うらしまさん。このかめ、のろいんだもん。こんなのろまものは、どんがめといって、いじめてやるのがいいのさ。


それはちがうぞ。うらしまさんは、いいました。


おまえたちは、だれも、おとなほどあしがはやくはあるまい。だからとて、どんがめとして、けられたり、いじめられたりしたくはあるまい。かめとて、そうなのだ。はなしてやりなさい。


うん。わかりました。こどもたちは、ぞんがいすなおでした。うらしまが、こどもたちのあこがれであったことも、あるでしょうか。


こどもたちは、つぎのあそびめがけて、かけてゆきました。


では、もうつかまらないようにしなさい。そういい、うらしまもさってゆこうとしました。


うらしまさん、うらしまさん。たすけたかめが、ひきとめます。


うらしまさん。どうかわたしに、たすけていただいたおれいをさせてください。かめは、ぎりがたいやつでした。


なんの。わたしは、ただとおりすがっただけだよ。さあ、おかえり。


いいえ、いいえ。ごおんをかえさぬうちにかえってしまっては、あるじにしかられます。ぜひとも、どうか。


そうか。そうまでいわれては、うけないのもしつれいか。で、どうしてくれるのかい。りょうのてつだいなどしてくれれば、うれしいのだが。


いいえ。もっとよいものをさしあげたいとぞんじます。あした、またこのはまへきてくださいませ。


かめとは、それでわかれ、うらしまはりょうへでました。さあ、もっとよいものとはなんだろう。さおをうごかしているあいだも、あみをひいているあいだも、なんとなし、きになりました。


そうして、よくあさ。あのはまべへ、いきました。


はまには、かめがちゃんとかおをだしておりました。ただし、こどもたちにみつからぬよう、すこしばかりおきあいで。


では、まいりましょうか。わたしのせなかにのってくださいな。


たろうがいわれたとおりにすると、なんと、かめはぶくぶくうみにもぐってゆくではありませんか。これにはたろうもおどろきましたが、いきのつづくかぎりはとおもい、ただかめにしがみついておりました。


ですが、かめは、どんどん、どんどんもぐってゆきます。


これはたまらん、とたろうは、すいめんへかえろうとしますが、かめがいいます。


つきましたよ。


もはや、これまで。そうおもい、たろうはくちをあけてしまいました。ですが、ふしぎなことに、いきができるではありませんか。


かめよ。なぜ、いきができるのだ。みずのなかでは、ひとはくうきをすえないのではないか。


うらしまさんが、わたしにのっているからですよ。わたしのまわりであれば、こきゅうもしかいも、りょうこうでしょう。


かめは、なにやらしたりがおでした。


ところで、かめは、とうちゃくしたといいましたが、それは、りっぱなごてんでした。うわさにきく、みやこであっても、これほどみごとなものではございますまい。うらしまのまちが、すっぽりはいりそうなほどおおきなおしろです。


これが、りゅうぐうじょう。おとひめさまの、おわします、かいていいちのおしろです。


うみのなかなのですから、とうぜんあお。もしくは、かいていならではの、ひかりもささぬあんこく。そういったいろをそうぞうされるかとおもいますが、そのどちらでもありませんでした。りゅうぐうじょうは、あか、き、あお、むらさき、きんぎん。ありとあらゆるさいしょくにより、けんらんながいかんとなっていたのです。


それだけでは、ありません。もりをもった、うみへびのへいたいもいます。こちらのかめをちらっとみて、またまっすぐにしせんをもどしましたが。これは、なかなかのおしろだと、たろうもおもいました。


さあ、どうぞおはいりください。あとは、にょかんがごあんないいたしますゆえ。


かめとは、またかえるときにあうということです。うらしまは、かめにうながされ、しろにはいりました。うみへびも、だまってとおしてくれます。


いらっしゃいませ。おまちしておりましたよ、うらしまさま。


でむかえてくれたのは、はまぐりやあさりのにょかんでした。きらをまとったそのさまは、どこかのおひめさまもかくやといわんばかりのようしでした。かいのからも、みごとなかがやきをはなっておりました。


はまぐりにあんないされ、しろのおくふかくへとわけいってゆきます。さんごがかざられている、のではなく、しろのてすりじたいがさんごでこうちくされているようです。よくみれば、しょうじがみも、も、のようでした。


いよいよ、はまぐりがおおひろまのとびらをあけます。


ようこそ、おいでくださました。てまえどもの、かめをすくっていただいたごおん。どうか、りょうりとまいおどりを、たっぷりごたんのうください。


そういうものは、ぎょくざにこしかけた、よにもうつくしいじょせいでした。さきほどの、はまぐりやあさりも、それはきれいだったものですが、このめのまえのじょおうは、かくがちがいました。まるで、ひかりをはなつかのように、そこにいるだけで、まぶしいのです。


おんなは、なをおとひめとなのりました。では、やはりこのものが、かめのいっていた、しゅじん。


おとひめのあいずによって、たろうがちゃくせきするとどうじ、おどりこのまいがはじまりました。かれいやひらめ、えいやとびうおの、きらめくすてっぷは、まさにこのしろでしか、みれないものでしょう。たろうは、さかずきにびしゅをそそがれながら、めをみはりました。


ごちそうも、すばらしいあじわいでした。さかなのめのまえで、さかなをたべるのかと、それなりにふあんでしたが、どうやら、さかなりょうりは、ありません。でてきたものは、かいそうをきざんださらだ。うしの、やきにく。さらに、ぷらんくとんせんべい。さいごの、ぷらんくとんとやらに、だろうは、ききおぼえがありませんでしたが、きっとなにかきちょうなたべものなのだろうな、とあたりをつけました。


みるもの、たべるもの、どれもめずらしく、どれもこころよいものでした。


たろうは、はらもくちてきたころ。そろそろ、おいとましてもよいだろうかとおもいました。たいへんなれいをうけとりました。あとは、ていねいにこちらからもれいをのべればよいでしょう。


おとひめさま。このたびは、たいへんごていねいなせきをもうけていただき、かんげきです。おかで、まっとうにいきていたなら、まちがいなくあじわうことのないじかんでした。ありがとうございました。


もう、おかえりなのですか。おいそぎのようがないのでしたら、なんにちでもとまっていってください。みうちをたすけられたおんは、まだまだかえしきれておりません。


いいえ。もう、たらふくいただきましたとも。そのおきもちは、たしかにうけとりました。それに、わたしには、おかにりょうしんがまっております。むようのしんぱいをかけるわけにもいきません。なごりおしいですが、きょうはこれで。


そうですか。では、せめて、おみやげをもっていってください。


おとひめは、たろうに、なにやらくろぬりのはこをてわたしてくれました。


これは、たまてばこ。ですが、うらしまさん。できれば、これはあけぬほうがよろしいかとおもいます。


そんなものを、なぜわたすのだ。たろうは、いぶかしりながらも、ありがたくちょうだいします。はこじたいは、たしかにみごとなものだったのです。かざりにでもすれば、よいでしょう。


おとひめさまや、にょかんたちのみおくりをうけ、かめにのったたろうは、いちろおかをめざします。


うらしまさん、たまてばこをもらいましたか。


ああ。だが、あけないほうがよいともいわれた。なかなか、みやびなものとは、むずかしいものなのだな。


いいえ。あれは、おとひめさまのてれかくしですよ。もし、おとひめさまのことをおもいだされたなら、おあけなさい。


ふむ。


たろうは、あたまをかしげつつ、かめのことばをおぼえました。


てをふり、かめとわかれます。かめも、こちらをふりかえりふりかえり、しずかにうみにかえってゆきます。


いい、たびだった。たろうは、わずかいちにちのしょうりょこうだったのに、まるでなんねんものつきひをかぞえたようなきにさえなりました。


ゆうひがてらすかえりみちを、いいきぶんであるきます。おみやげは、ひらけないが、きっとめずらしくおもってくれるだろう。


ところが。いえにたどりついたたろうをまっていたのは、べつのいえでした。


おや。みちをまちがえたかな。じぶんのいえは、こんなのではなかった。


いかんな。りゅうぐうじょうにいってから、うかれすぎているようだ。よいも、のこっているか。


たろうは、じぶんのかんちがいとかんがえ、きたみちをもどりました。きっと、おみやげのことをおもいつつあるいてきたので、ついうっかりしたのだろうな、と。


しかし。たろうのいえは、なんどもどっても、ありませんでした。あるのは、じぶんのいえとは、にてもにつかぬ、いしづくりのいえ。よくよくみれば、みちもなにかへんでした。くさっぱらをとおりぬけて、はまへゆくはずが、そのくさはらが、なかったのです。かといって、はまからあがってすぐのみちは、ぜったいにまちがえようがありません。だれか、くさかりでもしたのかとおもっておりましたが。


なにが、おこったのでしょうか。もしや、かめのつれてきてくれたはまべは、よくにてはいても、じもとのはまでは、なかったのでしょうか。


うむむ。うらしまたろうは、まいごになってしまいました。


まず、ここは、にほんなのでしょうか。たろうは、そこからふあんになってきました。あめりかや、ちゅうごくなら、たろうはじりきでかえるじしんがありません。


ふあんにかられつつも、ひとのおおいばしょ、もちろんここがじもとであったなら、ですが、そこへおもむきました。


よかった。おおぜいのひとが、あみをなおしています。おとこもおんなもいますが、ぜんいん、にほんじんのようです。これなら、ことばもつうじるでしょう。


もしもし。こちらは、どこでしょう。


たろうのきいたむらのなまえは、しかし、よそうがいのものでした。


たろうの、すんでいたむら。


ですが、たろうには、みおぼえがありません。こんなに、おおぜいのにんげんは、むらにはいません。おなじなまえの、べつのむらだったのでしょうか。


あんた。どこからきなさった。むらびとが、たずねてきます。


わたしは、うらしまたろう。このむらと、おなじなまえのむらからやってきたものです。こきょうへかえりたいのですが、みちにまよってしまったようです。


へえ。うらしまさんね。きぐうだねえ。このむらにも、むかし、うらしまという、そりゃあうでのいいりょうしがいたんだよ。あるひ、ふっといなくなっちまったんだけどな。もう、なんびゃくねんかまえの、おとぎばなしだねえ。あんたのごせんぞ、ひょっとして、このむらのかけいじゃないかね。それで、おやがうらしまってなづけたんだろうよ。たいりょうきがんのなまえだからね。


なんと。たろうは、うらしまたろうのなまえを、じぶんいがいにきいたことはありません。つまり、ここは、なんびゃくねんかあとの、せかいなのです。


たろうは、とぼとぼと、あるきはじめました。もちろん、ゆくあてなどありません。


とほうにくれるとは、このことです。おやは、むろん、しりあいもなかまも、だれもいないむら。たろうは、ひとりぼっちになってしまいました。これが、だれかのいたずらだとは、おもいませんでした。どがすぎているというか、あきらかにいたずらのきぼではありません。たてものも、みちも、すべてがうつりかわっているのですから。


たろうは、りょうしです。これから、またひとりでいきていくことは、できます。


たった、ひとりで。


たろうは、かめとわかれたはまへつきました。あてどもなくあしをはこんでいたら、かってにあしがなみをけっていました。


なみをうちくずそうと、このときはくずせません。たろうは、かめにのって、りゅうぐうじょうにいったことをこうかいしはじめていました。


あのとき、いかなければ。れいなど、うけとらなければ。


そうでした。たろうは、まだたまてばこをもっていたのです。


そのとき。


もし。そこのごじん。そのくろぬりのはこ、よくみせてくれぬか。


ぎっしゃからおりてきた、きぞくのようなひとが、たろうにはなしかけてきました。


たろうは、おとひめさまにもらったはこを、てわたさず、みせてあげました。かめにはああいわれたものの、もはや、たろうはうみのものをうとましくおもっておりました。


なかは、みせてはくれぬだろうか。


なかは、みぬほうがよろしかろう。


ふむ。もしよければ、ゆずってくれまいか。だいかは、はらう。これならば、きっとひめさまもよろこぶ。


わたしは、こんなもの、どうでもよい。だが、これのなかみは、ひとのみるべきものではない。べつのものを、さがすのがよいだろうな。


ふうむ。なにやらわからぬが、じじょうのあるようす。では、それをてにいれたばしょについて、きかせていただきたい。


はまで、ながれついたものをひろったのだ。じつは、わたしも、これがなにかはしらない。ただ、あけないほうがよい。


うむむ。


きぞくのかたは、じっくりとしあんしました。そして、いいました。


では、おぬしも、きてくれ。そのきけんなはこ。ぜひとも、みせてあげたいかたがおられる。


なんだ、きぞくのひめさまか。


ああ。きいたことはないか。みやこのおとこなら、だれもがこがれる。かぐやひめさまを。


ふーん。たろうは、おんなのこにきょうみがないわけではありません。ですが、みやこのひめさまときいても、そんなひとは、まるでべつせかいのじゅうにんです。とくに、どうともおもいません。


たろうは、しょうじき、やけっぱちなきもちになっておりました。ひめさまも、きぞくも、どうでもよいのですが、これからどうするかもまた、なにもきまっておりません。


けっきょく、たろうはいわれるがまま、きぞくについてゆくことになりました。いえも、かぞくもないいま、どこにいこうと、どこでいきようと、かわりはありません。


ぎっしゃが、とぶようにだいちをかけます。にとうのもうぎゅうのいきおいは、とどまることをしらず、たけのすぷりんぐをしこんだしゃたいですらが、ばらばらになりそうでした。


みやこをとおりぬけ、ひとざとはなれたやまおくにつきました。そこには、なんとも、やまおくにはにつかわしくない、おおきなやしきがありました。


ぎっしゃは、そのやしきのまえできゅうていしし、とまりました。どうやら、ここが、くだんのかぐやひめのおやしきのようです。


りょうしどの。まえもっていっておくが、このやしきのものらは、きぞくではない。むかし、このいえのおきなが、ちくりんであかんぼうをみつけた。ひかるたけをみつけ、そのたけをきると、なかにいたのが、かぐやひめさま、ということだ。たけから、ひとのこがうまれるなどと、まるでうわさにきく、ももたろうのようだが。このいえのかぐやひめさまは、そんなつよいだけのおとことは、かくがちがう。このいえに、あふれんばかりのとみをもたらしたのだ。


もちろん、わたしのつまになれば、わたしのいえに、とみをもたらす。たのむぞ、りょうしどの。


たのむといわれてもな。はこをおみせすれば、それでよいのだろう。だいじょうぶだ。


うむ。では、いこう。


ふたりは、つれだって、おやしきにはいりました。ぎっしゃからおりたたろうは、じぶんたちいがいにも、たくさんのひとたちが、おやしきまえにいることにきがつきました。それらは、かぐやひめさまにあいにきたきぞくのかたがたのごけらいしゅうです。みながはいるわけにはいきませんから、こうして、もんぜんでたいきしているのです。


もんをくぐり、ろうかをあるき、しょうじをあけ、ふすまをこえ。ようようたどりついたのは、さんにんのにんげんのごぜん。


ならびすわっているのは、おじいさんと、おばあさんと、おひめさま。あれが、かぐやひめさまでしょうか。


たしかに、うつくしい。おとひめさまをみた、たろうでさえ、そうおもいました。ふつうのひとならば、ひとたまりもないでしょう。これは、このびじょのためにほんそうするおとこが、やまほどいても、いっこうふしぎではありません。


ですが、りゅうぐうじょうにおもむき、おとひめさまにであったたろうは、べつです。そのりゅうぐうじょうでのいっけんによって、むしろ、このようなびじょには、けいかいしんがはたらくようになっていました。


たろうをつれてきたきぞくが、さんにんにむかって、ぺらぺらあいさつをすませるあいだ。たろうは、めのまえのびじょを、よくかんさつしておりました。また、なにかのじゅつにはめられはしないかと。


じっとみていると、まるですいこまれそうです。おとひめさまと、ごするうつくしさ。さすがに、たけからうまれただけのことはある。かみの、おとしごか。


さて、いよいよ、たまてばこをおみせするだんとなりました。


たろうは、けっしてあけぬように、といいおいてから、くろぬりのはこを、さんにんのまえにおきました。ねんのため、きぞくからもらったきれいなひもで、きつくくくりつけてあるので、まあだいじょうぶでしょう。


なんとまあ、きれいなはこでしょう。こんなすばらしいものは、みたことがありませんわ。かぐやひめさまは、おっしゃいました。


これには、きぞくのおとこも、だいまんぞくです。かぐやひめのおっとのざも、ちかいでしょう。


ですが、わたしが、あなたにようぼうしたものは、これではありませんね。


そうなのです。かぐやひめが、このおとこにおっととなりたくばもってきてほしいとたのんだものは、べつのものでした。


で、ですが、とてもうつくしく、ぜひともかぐやひめさまのおめにいれたいと。


そのきもちは、ありがたくちょうだいいたしました。では、おかえりねがいましょう。


このきぞくも、かぐやひめさまをすこしばかりおどろかせることにせいこうしただけで、すごすごとそのばをさりました。もちろん、たろうもいっしょです。


ざんねんだったな。ちからには、なれなかったようだ。


しかたない。かぐやひめさまには、みかどもごしゅうしんときく。せっかくさきんじたのに、たしかにざんねんではある。が、ここいらが、ひきどきなのも、たしかであろう。みかどの、おきにふれるほど、おろかではないつもりなのだ。きみには、せわになったな。なんなら、わたしのもとではたらかないか。いけや、かわ、わたしのとちのかんりをするものが、ひつようなのだ。


たろうは、このもうしでを、ふたつへんじでうけました。じんせいのすごしかたとして、さかなとつきあうのなら、わるくないみちでしょう。


そんなこんな、みやこにこしをおちつけたたろうですが、あるひ、きぞくのおとこによびだされました。


こんど、みかどが、なにやらやまがりのようなものをおこなうらしい。こちらも、それにきょうりょくせねばならん。きみも、でてくれるか。


たろうは、やまのせんもんかではありません。ですが、りょうできたえられたにくたいなら、あります。にもつもちくらいなら、できるでしょう。


ばしょは、あのかぐやひめのいえのしゅうへんです。もしものきかいのために、きぞくは、あのくろぬりのはこも、ぎっしゃにつむよう、たろうにいいました。


あのやしきのしゅういは、ひとでうまっておりました。どこをみても、ぶそうしたへいでいっぱいです。これほどのぐんぜいで、なにをするのでしょうか。そんなたろうのぎもんにこたえるように、みかどおんみずから、えんぜつをぶつようです。


しょくん。わたしのようせいにこたえ、よくぞさんしゅうしてくれた。このたたかいには、たいぎがある。つきのへいどもが、かぐやひめをさらいにくるなどと。このくにで、そのようなかってはさせぬ。みなのもの、このくにをまもるのだ。


こいごころにつきうごかされて、へいをあげたみかどですが、いっていることはまちがっていません。つきのひとびとが、かぐやひめさまをむかえにくる。そんなうわさが、みやこをかけめぐっていたのでした。


じじょうをしらぬたろうは、このさわぎを、まだよくわかっていません。


ですが、へたにうごけばあやしまれふくろだたきだろうなとはわかります。ここは、きぞくといっしょにいるのがとくさく。そうこうするうち、まんげつが、てんちょうにかかりました。


そのとき、かぐやひめさまが、やしきのおくふかくから、でてきました。


おじいさんと、おばあさんは、とめたのでしたが、かぐやひめは、ふたりにらんぼうをはたらかれぬようにと、みずからでてきたのです。


そして。つきに、ふしぜんなかげりがおこりました。そのかげは、どんどんおおきく、ひろく、はっきりとして、ちじょうのひとびとのめに、ちゃんとうつりました。


つきのひとが、ぎっしゃでおりてきたのです。


みかどのめいにより、たいこがうちならされ、すうまんのゆみやがひきはなたれました。それは、たとえいっこくのぐんぜいであろうと、ただではすまないぶつりょうでしたが、つきのひとには、あたりませんでした。ぎっしゃのてまえで、やはことごとくとまってしまったのです。


そして、ぎっしゃじたいがかがやきます。へいたいは、みなねむってしまいました。きぞくもです。ですが、たろうだけは、なんとかこらえていました。


なぜか、みにおぼえがあるのです。このかんかく、たいけんしたおぼえがありました。だからといって、たろうひとりでどうなるものでもありません。あいては、ゆみやでかてないけものです。たろうには、それいじょうのぶぎのもちあわせなど、ないのですから。


しかし。どうすべきか。たろうはなやみました。まさか、どくりきでかぐやひめさまをおまもりしようなどと、そこまではかんがえておりません。


ですが、このまま、つきのものとやらに、いいようにされるままというのも、しゃくにさわります。なんのうらみも、いんがもありませんが、どうにも、とさかにきます。


とうとう、ぎっしゃは、ちじょうにおりたちました。ちょうど、おやしきのまんまえです。


なにもできないので、とりあえず、たろうはたまてばこをほうりなげてみました。


ぽいっと。


つきのものは、それをみごとうけとめました。


さて。このあと、たろうは、べつにゆみをいるでもなく、てんかいをみまもっておりました。ほんとうに、ただなげただけです。


しかし、そのこういは、たろうのおもいもよらぬいみをもっていたようです。


しばっていたひもをといて、たまてばこをのぞくと。ぎっしゃのまわりは、もくもくと、けむりにおおわれました。


たろうは、とっさにぎっしゃからはなれ、ようすをみます。


すると、どうでしょう。なんと、うしが、ひからびていきます。つきのにんげんもまた、からっからにかんそうしています。かろうじて、いきてはいるようですが。


たろうは、これはとんでもないものをおくられたものだ、とおもいました。


そのさまをみていたかぐやひめさまは、たろうにいいました。


それは、どこでてにいれられました。


たろうは、こたえました。これは、とあるおかたにもらったものです。このよならざるばしょで。


もしや、それは、おとひめさまでは。かぐやひめが、かくしんをつきます。


しっておいでか。


おとひめさまは、わたしのおねえさまです。おねえさまは、まだこのようなまねを。


うれいをうかべたかぐやひめさまは、たろうにはなしをしてくれました。


たまてばこの、しんじつを。


おとひめさまは、うみのおくふかくにきょをかまえ、おおくのしんにみをまもられるたちばです。まちがっても、とのがたとのであいなど、ありえません。ですから、まんがいちのであいを、たいせつにするのです。


たまてばこは、だんせいを、じぶんにしばりつけるためのこんやくゆびわだったのです。このなかのけむりをあびたものは、いままでのじぶんをうしなってしまいます。これをかいじょするためには、もういちどおとひめさまにであい、のろいをといてもらうしかありません。そのであいを、かくやくするあいてむ。それが、たまてばこなのです。


おっそろしいいつわをきいたたろうは、なんだか、おとひめさまをゆるせるようなきもちになりました。なぜって、あそこは、へんなばしょだったのです。わずかいちにち。それだけのじかんをすごしただけで、たろうは、かぞくやこきょうをなくしてしまったのです。そんなばしょにすきこのんでいくものは、いないでしょう。だから、たまてばこを、おとひめさまはつかう。


ちょっと、りかいしてしまったたろうです。


それはそれとして、これからどうすればよいのでしょう。きぞくたちも、つきのものたちも、だれもうごきません。たろうと、かぐやひめさまをのぞいて、だれひとりとしてじぶんのあしでたっておりませんでした。


このものらは、おねえさまのゆびぐすりをぬらねば、なおりません。まず、おねえさまにあいにいってください。わたしは、かれらをまもるため、ここをうごけません。


みかどのぐんぜいは、じきにめをさますとか。ですので、いまは、つきのにんげんたちを、やしきのおくにかくまいます。もし、へいらがこのこうけいをみれば、つきのものたちは、ころされます。そうなれば、こんどこそ、つきはほんきでせめてくるでしょう。そのとき、ちじょうは、かぐやひめさまをのぞいて、はいにならざるをえません。


ですので、ぶじにかえすしかないのです。たろうは、そこまでをりょうかいし、いちろ、りゅうぐうじょうをめざします。ぎっしゃのうしもまた、ねむっていたので、はしるしかありません。


はしりはしり、ようやっと、はまにつきました。そのときにはもう、すうじつがたっておりました。あしも、もつれ、うではあがらず。たろうじしん、どうしてこうまでひっしなのか、わかりません。


それは、たろうのやれることだからです。たろうの、なにもかもなくなってしまったじんせいの、かずすくないやるべきことだからです。それにひっしになってしがみついて、やっとたろうは、いきるいみをみいだしていたのです。


そうして、たどりついたはまべで、たろうはおおごえでさけびました。


かめよ。かめよ。


はい。かめは、すぐさまかおをみせました。あのかめです。


かめよ、わたしを、またりゅうぐうじょうへつれていってほしい。おとひめさまに、いそぎのようがあるのだ。


ようなどなくとも、おとひめさまは、あなたさまをかんげいいたしますよ。では、どうぞ。


たろうは、かめのせにのり、いつぞやのようにうみにむかいました。あ。たろうは、このとき、あるかんがえがあたまをよぎりました。また、じかんがたっていたなら。また、ばくだいなとしつきがすぎていたなら。わたしのやっていることは、むいみなのでは。


そうはいっても、もうきてしまっています。こうなれば、できるかぎりはやくおとひめさまのごじょりょくをねがい、かえるしかありません。


にょかんたちに、ことわりのことばをのべながら、おおいそぎでおとひめさまのぎょくざまですすみます。まるでなっちゃいないたいどですが、ここではいちびょういっぷんが、とほうもないそくどですぎさるのです。よゆうしゃくしゃくとはいきません。


おとひめさま。おひさしぶりでございます。いぜん、こちらをおたずねし、かんたいにあずかった、うらしまたろうともうします。こんかい、まいったのには、これこれこのようなじじょうがありまして。


たろうは、そっちょくに、ありのままをのべました。みずからのうらみぶしも、そこここにこめつつ。


それをじっくりときいていたかぐやひめさまは、しかし、おこってはおりませんでした。たろうが、じぶんをみて、じぶんのことをかんがえてくれている。それだけで、すべてをゆるせたのです。こうして、またりゅうぐうじょうにきてくれた。わたしを、たずねてくれた。


ですので、おとひめさまは、かめにあいのり、たろうとうでぐみして、かぐやひめさまのおやしきにむかいます。


かめも、もちろん、よそいきのいしょうです。たろうを、はまへおくりとどけたときとは、まるでちがいます。きんぎんでかざりつけられたよろいかぶとをまとい、あっというまに、うみをこえ、かわをさかのぼり、かぐやひめさまのおやしきにとうちゃくしました。


おどろくべきことですが、りゅうぐうじょうをでても、じかんはいささかもすぎさっておりませんでした。どういうことかたずねると、おとひめさまは、きおうでもなく、こういいました。


じかんは、こんかいためておりませんから。


なにやら、わかりませんが、おぼろげにさっしました。おとひめさまにとっては、ときのながれさえ、じゆうじざいなのだと。


そんなこんなで、たろうがはまへついたときの、おやしきです。


みかどのへいたちも、とうぜん、すでにおきてけいびについています。いちじてきにたいきゃくしたとはいえ、まだけいかいをといてよいりゆうはないのですから。


そのなかにまねきいれられるたろうたち。せいかくには、おやしきにながれこむかわのなかをおよぎはいったかめのすがたをみとめたおじいさんが、まねいてくれたのです。たろうにまかせたことは、わかっていますからね。


さて、いよいよ、しまいのさいかいです。


それは、うるわしいにらみあいからはじまりました。ふたりの、うつくしいひめぎみのかわすしせんから、せんれつなけっとうのひばながちりました。たろうにも、かぐやひめさまのおじいさんおばあさんにも、はっきりと、みえないしょうとつがみえました。


おねえさま、ごそくろうあずかりまして、まことありがとうございます。では、ごようをすませしだい、かめとともに、おかえりあそばしませ。


まあまあ。そんなあわてるひつようもないわね。たろうさんとわたしが、いっしょにかえるのは。


ふたりのあついせっせんは、たいへんきょうみふかいものでしたが、このままでは、はなしがすすみません。


おとひめさま。たまてばこのちからを、かいじょしてください。かぐやひめさま。つきのものらをおこしたあとは、なんとか、じたいをおおさめください。


たろうのことばには、ふたりとも、おとなしくしたがいます。おとひめさまは、そでぐちから、ふしぎなこなをまき、つきのにんげんにふりかけていきます。すると、どうでしょう。かんぜんにひからび、あとはくちるだけにすらみえたものどもが、みるみるうちにつるつるおはだをとりもどしてゆくではありませんか。


いくにんかは、もうおきあがり、かぐやひめさまにしつもんをしているほどです。これは、もんだいなくかいふくしたとみてよいでしょう。


さあ、これからが、あるいみ、なんだいです。このものたちのそんざいを、みかどはぞんじていません。ですが、つきへかえるとき、きっとみつかってしまいます。けいびへいは、まだいるのですから。


そこは、かぐやひめさまがなんとかしました。かえりは、しんげつ。くら


やみにとけこむようにして、くろげわぎゅうのぎっしゃがかけぬけます。かめもまた、まっくろのよろいかぶとにみをかため、やかんめいさいはばっちりです。


つきとは、ごじつ、あらためてかいだんのせきをもうける。そんなはなしをつけ、つきからのししゃは、かえってゆきました。つけくわえるなら、おとひめさまのおなりに、みながびっくりしたのもあります。


おとひめさまは、ずっとうみのなかで、だれもてだしできませんでしたからね。


つきのものらが、おとなしくかえったのにも、そこにりゆうのいったんがあります。りゅうぐうじょうでうみだした、かずかずのどうぐをちらつかせたおとひめさまに、はんろんはとてもできませんでした。


では。もんだいもかいけつしたところで、たろうさま。けっこんいたしましょう。かぐやひめさまのそのおことばで、おとひめさまからは、あふれんばかりのさっきがはなたれました。ですが、れいせいでりせいてきなおとひめさまは、けっしてじつりょくこうしにでませんでした。


かぐや。このたびは、おまえもたいそうつかれたでしょう。これで、つかれをいやしなさい。じあいのひょうじょうをうかべながら、おとひめさまがとりいだしたるは、たまてばこ。たろうは、ふるきずをえぐられたきがしました。


しまいのあらそいをしりめに、たろうはかめにつれられ、もとのはまべへかえります。


おとひめさまと、おまえに、あつくかんしゃする。ではな。


うらしまたろうさま。あなたさまには、もういくばしょはないのでは。ならば、りゅうぐうじょうで、ともにくらしませんか。


かめのことばは、けっしておとひめさまのためのちゅうせいではありませんでした。たろうに、やるべきこと、いきがいをあたえるためのことばです。


ありがとう。だが、わたしはやはり、りょうをやるよ。


たろうは、きぞくのてつだいをしているあいだ、ずっと、うっすらと、てがうずいていたのです。ぜんりょくで、あみをひきたい。つりざおをたらして、ふねのゆれにみをまかせていたい。そして、さかなを、かいをてにいれ、ちょうりし、くいたい。おのれのすきなものに、たべてほしい。


たろうは、おのれのてで、おのれのちからでいきていきたいと、そうあらためておもったのです。きぞくのてつだいも、わるくはありません。ですが、じぶんは、やっぱり、りょうしなのです。


かめは、そんなたろうに、じぶんのせなかをじっくりとみせました。なんと、そこには、つりざおをこていするぽいんとと、あみをたぐりよせるくらんく、さらにえまきのばけつまで。


いっしょに、やるか。たろうとかめは、うみをゆっくりながれていきました。つりざおを、たらしながら。


そんなふたりが、おとひめさまやかぐやひめさまとなんどもなんどもそうどうをまきおこすのは、もう、めにみえていますね。


ですが、このものがたりは、ここでいったん、おしまいです。


なぜなら、たろうも、かめも、うみでゆったりねむってしまったからです。


みんなも、もうおやすみのじかんです。つづきは、またこんど。


でも、さいごのひとつだけ。


たろうは、どんなときだって、たのしくいきていきましたとさ。


めでたし、めでたし。


おしまい。

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