第三話
・・・誰かこの状況を説明してくれ。
俺は非常に混乱した頭でそう思った。
それは窓の外に化物がいるから、というのも原因の一つだが、それよりでかい原因がある。
「・・・」ブチュー
それは化物が窓に顔を押し付けて顔芸みたいなことをしているからだ。
「・・・」ブッチュー
いったいこいつは何をしているんだ・・・?
もしかしてギャグでやっているのか・・・?
笑えばいいのか・・・?
笑えば見逃してくれるのか・・・?
「ハ・・・ハハハ・・・ハ・・・」
「!」
俺が笑った瞬間化物が驚いたような気がした。
そして・・・
「・・・!」バァン!
「うひぃ!」ビクッ!
化物は一瞬で顔を怒りに染め、窓を叩いた。
違うかったか!てっきり「俺のとっておきの芸を見せたる!」みたいなノリだと思ったのに!この前会社の先輩が飲み会でやったみたいな空気が流れてたのに!
「すんませんっしたぁぁぁぁ!」ズサー
俺はすぐさまスライディング土下座に移行した。
これで大体の人は許してくれるって不良に絡まれて顔をボコボコにして帰ってきた先輩が言ってたから、いける!
「まじ調子にノってましたぁぁぁ!お願いしますぅぅぅ!許してくださいぃぃぃぃ!」
駄菓子菓子(だが、しかし)奴さんは一向に窓を叩くのをやめない。
「・・・!・・・!・・・!」バァン!バァン!バァン!
やめてくれるどころか、叩く勢いがましているような気さえしている。
どうすればいいんだ・・・
・・・そうだ!
俺は思いついた。
今俺の体はゆっくり『霊夢』になっている。つまり!霊夢の能力をある程度つかえるようになっているんだ!
これを使えば・・・!
「きっとこの人(?)を落ち着かせることができる!」
ゆっくりになった当初の俺は、いかにも日本人らしい答えしか頭に浮かばなかった。
これのせいでしなくていい苦労をしなければいけなくなるのだが、それはまたいつか話そう。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・」
俺は力いっぱい能力よでろ~、能力よでろ~と念じ続けた。
だが、やっぱり現実はそう甘くはなかった。
軽く30分念じてみたが、能力はでてこなかった。
「ゼー、ハー、ゼー、ハー」
持病の喘息がでそうなきがしたが、この体は案外丈夫なようだ。
「ゼー、ゼー、・・・ゆ?」
あれ、音が聞こえなくなった?
俺は窓の方を見た。
そこには誰もいなかった。
「やった・・・のか・・・?」
俺は死亡しそうなフラグを立てたきがしたが、気にしなかった。
「よ、よかったー・・・」
俺は盛大に溜め息を吐いた。
と同時に、軽い脱力感に襲われる。
今の気分はあれだな、いつもクレームばっか言ってくる客にあたってうっわーいやだなー、と思っていたが、特に何も言わずに帰っていった時の感じに似てる。
それにしても、あれはなんだったんだろう?
俺は窓を見ながらそう思った。
「先輩か?いや、先輩はあんなふとってねえし、それとも向かいに住んでる田中さんか?いや、あの人なら部屋の中に仕掛けるだろし、もしかして社長か?でも人間をゆっくりにしてしまうなんて技術もっている人、社長の知り合いにはいないだろうし・・・」ブツブツ
正直、心当たりが多すぎて誰がやったのか分からなかった。
「・・・まあいっか」
俺はとりあえず考えるのをやめた。これ以上考えても迷宮入りしそうだし、なによりも、疲れた。
「・・・寝るか」
俺はベットにジャンプし、布団をかぶった。
「・・・ゆっくりになっても疲れたら眠くなるっていう体のシステムは変わらないんだなぁ」
なんて思いながら、俺はまだ真昼間だが、眠りについた。
「・・・ぃ」
・・・?
「・ぃ・・お・ろ・・・」
誰かが何か喋ってる?
「早く起きんかい!あほ!」
「へぶし!」パッカーン!
突然頭を殴られた気がした。
「・・・なんすか~、せんぱ~い?」
俺は眠気半分、やる気なさ4割、叩かれたことへの理不尽だ!と思う気持ち1割で答えた。
「何が理不尽や!おまえが寝とったのが悪いんやろがい!」
紹介しよう、今メガフォンを俺に突き出しながら怒っている人は、佐藤 慶介という、俺の会社の先輩だ。
なにかと困ったとき助けてくれたり、飯を奢ってくれたりしてくれるいい人なんだが、いかんせん厳しい。
「お前、お得意はんきてはんのに10以上待たせたあげく「寝てましたー、すんませーん(笑)」ってなんや!しかもひざの上にわざとお茶こぼすわ、相手さんのハゲ見抜いた挙句「お客さん、首の産毛で丸分かりですよ(笑)」なんて、お前は俺の胃を死滅させたいんか!おかげでそのお得意はんめっちゃ怒ってはってんぞ!こんな所二度と来るか!って言ってはってんぞ!わかっとんのか!」
先輩はとても興奮した様子で俺に怒鳴りかかってくる。
「いや先輩だって「そろそろあのハゲも潮時やなぁ」って言ってたじゃないっすか、それに社長だって「あのハゲもう利用価値がないし」って言ってましたし・・・」
「それでももっとましな方法があったやろ!さりげなく契約終了のお知らせを言うとか、相手をいい気分にさせて契約終了の紙書かせるとかあったやろ!そんなんのも思いつかんのか!」
「先輩、なんか最後犯罪臭がはんぱないんすけど」
「酒飲ましてへんから大丈夫!」
先輩はキッパリ言った。なんかかっこいい。
「とにかく!もう二度とあんなマネはすんな!今回は社長が不問にするって言ってたからええけど、普通やったらお前、いくら社員の女に手だそうとしてるやつでも、首がポーンって飛んでるで?」
「大丈夫っすよ、相手はきちんと選びますんで」
俺はキメ顔でそう言った。
「選んでもすなぁ!」
「うお!?」
またメガホンで殴られそうになったので避けた。っが・・・
パシーン!
「「あ」」
先輩のメガホンが当たった場所は、今俺が処理している書類の山だった。
当たった衝撃でこちらに倒れてくる。
「「え、ちょま」」
ドドドドドドドドドド!!!!
およそ紙が出していい音じゃない音を響かせながら書類の山が倒れてきた。
「「ぎゃああああああああ!」」
俺は先輩と一緒に悲鳴を上げながら、まもなく意識を失った。
To Be Continued?
ちなみに、先輩がメガホンを持っている理由は、社内の薄型大画面のテレビで野球観戦しているからです。
観戦しているときの先輩「いけええええええええええ!そこやあああああああ!押せえええええええええええ!」
社員(静かにしてくれ・・・)
誰も文句を言わないのは先輩が叫ぶことで日ごろのストレスを発散させているというのを知ってるからです。
日ごろ面倒な仕事を先輩に任せたりしちゃってるので、社員の殆どが口を出しません。
思いやりがある職場でよかったね!
ちなみに主人公の仕事は接待や書類整理です。
普段は完璧に接待するんですが、「こいつもう(会社には)いらないな」と思った相手にはうざさMAXで接待します。
書類整理も普通より早く処理ができるので、普通のビルのオフィス並みの個室とかを貰っちゃったりしてます。
その代わり、書類が文字通り部屋を埋め尽くしています。
主人公「圧倒的書類量っ・・・!」
これでも社内の10%らしく、あとの40%は社員、50%は社長が処理しています。
主人公「ぱねぇ~、社長まじぱねえっすわ~」